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2021ショパンコンクール第2次予選の終わりと牛田智大

ひとまずは第2次予選を通過した5名の日本勢について個人の雑感を以下に記す。

反田恭平(そりた きょうへい)は従来のクラシックらしさと今日日のエンターテイメント性とのバランスを絶妙に保っている演奏家だが、一方でDMG森精機株式会社と共に会社を設立した実業家でもある。今回は審査員という「お客様」を第一優先に最善を尽くした感がある。

角野隼斗(すみの はやと)は別名「かてぃん」の超有名YouTuberというのが今の時代で圧倒的な強みであろう。しかし、第1次予選から窺えたのはピアニシモが驚くほど慎ましやかであるということ。この内助の功が音楽性を担保していると見ている。

小林愛実(こばやし あいみ)は9歳でカーネギーホールデビューをし、14歳でメジャーデビューをしたという早熟ぶりだが、一過性の天才少女で終わらなかった。現在26歳だという。演奏は花火のように華やかで繊細である以上に静かな自信を湛えている印象を受けた。

古海行子(ふるみ やすこ)は一見すると親しみやすそうな感じがするのは地元の近さからだろうか。しかし地に足がついた響きを着実に積み上げ、聴かせどころでエネルギーを解き放つ演奏は荘厳である。下から来るサウンドは珍しいと思う。

進藤実優(しんどう みゆ)はモスクワ音楽院付属中央音楽学校で研鑽を積んでいる19歳で、今回の2次予選通過日本人で最も若い。細部まで精神と情感が行き届いた音の粒が、陰影のある残響を伴い広く行き渡る。スタインウェイが使われているのを忘れさせた。

しかしここでこの記事は終わらない。

牛田智大(うしだ ともはる)である。

第1次予選、冒頭から神々しさで泣きそうになるが無闇に泣かせない慈悲深さまで持ち合わせている。明鏡止水のYAMAHAとよく合う。

第2次予選、ここまで来るともはや一個人の自己表現では済まなくなる。コンペであることを忘れてしまう。

選考には落選したが記憶に残る演奏だった。コンサートに行きたくなった。