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インカレフィギュア2022と山本草太

「インカレ」とは日本学生氷上競技選手権大会の通称である。スピードスケート、フィギュアスケート、アイスホッケーの3部門を大学生が競う。フィギュアスケートは北海道帯広市の帯広の森スポーツセンターにて行われた。

会場は北海道にあるリンクの例に漏れずアイスホッケー向けで氷が固く、空気は身体の芯まで堪える寒さであるとTwitterのタイムラインから伝え聞いた。

山本草太は1月6日の「7級、8級の部」出場した。
この等級は日本スケート連盟による認定のうちシニア大会への出場権を得られる最高レベルである。過日の全日本選手権に出場した選手も多数エントリーされた。また、種目はフリースケーティングだけで競われる。

年が明けて初めての競技会である。2日前に名古屋のアイスショーでは完成度の高い演技を見せたが、はたして。

固いリンクは転倒を誘うため前をいく選手達は苦戦していた。なおかつ吐く息も白く冷え込む空気はその場に立っているだけで体力を奪い、関節の曲げ伸ばしを妨げる。

山本草太はリンクに出て名前を呼ばれてからジャージを脱いだ。衣装は両腕が付け根からドレープ越しに透けて見えるほど生地が薄く余計に凍えるためだろうと想像された。しかもこれから4分間、加速をつけながら動き続けなければならない。

曲の冒頭は新境地の扉を叩くフォルテシモ。群衆による吸音がない無観客の会場ではより大きく響くが、彼は密度の高いジャンプでこれに応じた。年末の全日本選手権で心の底から悔しさを味わったからこその演技の始まりを見た。

以降は演技要素に僅かな抜けはあったものの、足元確かに上半身を大きく動かし極寒の環境を押し退け最後まで滑りきった。身体よりも大きい氷柱から曲面なめらかで硬質な美を彫り出した。

結果はスコア153.10にて優勝であった。この調子で未来を切り拓いていただけることを陰ながら念じている。内面を振り返って数え上げうる「よかったこと」は彼自身が思う以上に増えているのだから、本心のまま正直に前進あるのみと思われる。

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