わすれたくないSmall Talk ep.1

この頃、器が楽しくなってきたのは、やはり人との出会いのおかげだと思う。

この日は大濠のFilles et Garcons（女の子と男の子という意味らしい）でコーヒーを飲んで、その足でLIFE IN THE GOODSに向かった。カフェで会計をするとき、この後の予定を聞かれその旨を伝えると、「今日は（LIFE IN THE GOODS）暖かそうですね」とお姉さん。そうですね、あそこは日当たりがいいものね、と会話を交わして店を後にする。

先日通常営業中に伺ったときには、向付を購入させていただいたのだけど、これも副菜や簡単おつまみまで、なんでも映える優秀さ。その際に今度ガラスが来ますよ、と教えていただいて再訪したのだった。

欲しい！と思ったものはすぐ売れてしまうので、初日を目掛けて伺う。

fresco

大阪にある吹きガラス工房「fresco」 の代表辻野さんは、東の◯◯、西の辻野と言われるほど有名な方なのだそう（無知で恐縮…）。ご本人やお弟子さん、職人さんたちが一つ一つ吹いて作られているので、物によって少しずつ表情が違って選ぶのに時間がかかってしまう。

ビールやカクテルを飲むときのために、大きめのグラスを探していたのでまずはグラスを…と思ったのだが、羽田さん（オーナーさま）がリムの丸皿を手に取って「この気泡、雨に濡れた蜘蛛の巣みたいじゃない？」などと素敵なことをおっしゃるので、結局そちらも買ってしまった。雨上がりの蜘蛛の巣を、最後に見たのはいつだろう。小学生の頃、登下校中に歩いた道でだと回想していると、雨上がりのムッとしたアスファルトの香りや、重たいランドセルが肩に食い込む感覚までが思い出されて一瞬でエモーショナルな気持ちになる。そんな光景を覚えているなんて、なんと繊細な方なのだろう。「誰もが一度は見たことあるよね」と同氏。子どもがいればそういう光景を、追体験として見ることがあるのかもしれないな、きっと美しいに違いない。家族を持つってそういう側面もあるのだよな〜などとぼんやり考える

（黒背景がなくて「夜の木」の上に置いてみた）

控えめな気泡が本当に綺麗。買ったお皿と同じく気泡の入ったグラス(底におはじきみたいな”溜まり”があって、frescoの文字の横に、吹いた職人さんのイニシャルが入っている)は、繊細そうに感じられる見た目とは裏腹に、かなりデイリーに使うことができている。お皿は朝食べるフルーツに、グラスは氷をゴロゴロと入れたアイスコーヒーに、と使っていると、微かに光が透け反射する様子に癒される。

作っている人はもちろんだけど、セレクトしてきた方の感性に惹かれて買いものをするのは素敵な体験だ。

おそらくこの日、伺ったのは3度目だったと思うのだけど、とりとめない話をしているうちに、扱いやすいだけではない「そっけない器」もいいのだよね、という話や、陶磁業界でも新たな文脈が生まれてきていること、オープン当時からこれまで、必ず作家さんに会いに行って、コミュニケーションをとる中で取り扱いをスタートさせてきたこと、当然今もそのご縁を大切に、お店づくりをされていること。いろいろなお話を聞かせていただいて、喋りながらふと見た床がめっちゃかっこいいやん！となって、そうなんだよね、改装のときのままで、8年目で初めて気づく人もいるんだよ。と教えていただいたり。8年も通っていてまだ新しい発見があるお店って、素敵だな。

それにしても「そっけない器」というキーワード、かっこよすぎませんか？まだそんなものは使いこなせないだろうとも、今は使いこなせなくても、ひとまず生活の中に迎え入れておくことで、その中で唐突にここか！と、しっくりと使いこなせる用途を見つけることができるのかもしれない、とも考えられる。本と一緒だね、ひとまず迎え入れておいて、その子が自分に必要になるタイミングを待つこと。そしてもう一つくらいパンチラインがあった気がするのだけど、やっぱり忘れてしまった。またお話しにいったら思い出すかなぁ。なんだったかな。

(3月、吉川和人さんの展示会期中に桜を撮る妹)

ビルの2Fにあること、割とクールな店構えなので紹介でなければ入りにくかったかもしれないが、羽田さんご自身がとても気さくで暖かな方で、いつも変わらず迎えてくださるのがありがたい。今の時期は窓から見える桜が満開で、春らしく美しい景色を楽しむことができる。まだまだ工房の話や作品の話がたくさんあるんだろうな。ご本人は「喋りすぎちゃったごめんね…」などとおっしゃっていたが、毎回とても勉強になって楽しい。お話上手な方である。お店を始めたばかりの羽田さんが(オープン当初だと私たちと同世代かもしれない)いそいそと、胸を打たれた作品を取り扱うために、初めて会う作家さんの元を訪れ会話をしていく様子を、頭の中に浮かべてみる。うーん、いいな。

今日のSmall Talk「この器、雨に濡れた蜘蛛の巣みたいじゃない？」