バーニーサンダースこそが真のアメリカファースト

アメリカでは今皮肉なことが起きている。20世紀を通じてアメリカはソ連に代表される社会主義を打倒するために莫大なお金を投じ、多大な犠牲を要して冷戦に勝利した。そして、社会主義が消え去ったことでフクヤマ博士が著書「歴史の終わり」で述べたように資本主義の天下が訪れるはずだった。しかし、消し去ったはずの社会主義という思想が資本主義から一番恩恵を受けているアメリカで復活を遂げようとしている。そして、その旋風を引き起こしたのは民主党の大統領候補として選挙活動を行ってるバーニーサンダース氏であり、今回の記事では彼の台頭が何を意味するかについて考える。

サンダース台頭の背景

彼が人気を集めている主な理由はアメリカの既得権益層への反発が強まってきているからである。そして、2016年大統領にその傾向は顕著に表れた。2016年といえばアメリカ大統領候補の本命であったクリントン氏をトランプ氏が破って世界中が衝撃を受けたが、彼女の勢いはすでに予備選で削がれていた。クリントン氏はそれまでファーストレデイ、上院議員、そして国務長官として常にアメリカ政治の第一線に立っていた。しかしながら、長い政治生命によって得た莫大な資産、私用メールで国家機密を扱っていたという事実が明るみになり、腐敗した政治家の権化となってしまった。そんな彼女に予備選で戦いを挑んだのが当時のサンダース氏である。

サンダース氏は自他共に認める社会主義者であり、政治家を志した時からその思想は一貫している。そしてトランプ氏と同様にに党内のアウトサイダーとして位置づけられていた。そんな彼であったがクリントン氏に対する歯に着せぬ物言い、清廉潔白な経歴が受け、予備選の結果では43%の得票率を得て、クリントンの根強い不人気を露呈させてしまった。

それ以降サンダース氏は民主党を事実上乗っ取った。高学歴のインテリ、富裕層に支配されていた政党を左に急展開させて、国民皆保険、グリーンニューデイールといった大きな政府を志向する政党に作り替えた。

サンダース大統領というリスク

しかしながら、僕はサンダース大統領誕生に対し強い危機感を感じている。そして、それによって生じるリスクについての検討がなされていないことが僕の危機感を増大させている。今回の記事の趣旨はそのリスクについて議論することにある。僕は彼が民主党の大統領候補、そして大統領になればふたつの深刻な副作用が生じると考えているため、主にその二点について解説していく。

アメリカの分断が助長される

アメリカは政治的対立が深まり社会の分断が助長されている。そしてその傾向は近年強くなっており、ある統計によると保守とリベラルの二極化が10年前に比べひどくなっているとのことである。トランプ氏は社会の分断を生んだ張本人と言われ非難されているが、サンダース氏も同じくその一翼をになっている。

民主党は2016年の影響もあり、中道派と左派で二分されていおり、先日行われたアイオワ州の予備選ではサンダース氏、ウォーレン氏が率いる左派、バイデン氏、ブデイジェッジ氏が率いる中道派によって票が二つに割れた。そのような現状を危惧して二人のビッグネームが分断の張本人のサンダース氏を非難している。一人目が前大統領オバマ氏であり、国民は急な変化を望んでいないとコメントして暗にサンダース氏を非難した。そして二人目の大物であるクリントン氏はサンダースが何も実績を残せていない政治家であるとインタビューで痛烈に彼を非難した。

オバマ氏、クリントン氏がここまで露骨に彼を非難する理由は明確である。彼が本選で勝てないと踏んでいるからだ。現在アメリカは近年まれに見ない好景気であり、それはトランプ大統領の下で行われた大規模な減税、そして規制の廃止のたまものであり、黒人やヒスパニックの失業率は過去最低水準である。それに対し、サンダースが提唱する高福祉高負担の政策は今の政権の方針に逆行している。そのためトランプ大統領から恩恵を受けている層から敬遠される可能性が高くなる。

このように民主党内は大きく仲たがいをしており、先日のアイオワでの選挙の集計が遅れ、首位を争ったサンダースとブデイジェッジ氏が僅差だったことにより、民主党内の二極化が加速している。また、実際に大統領となった場合トランプ政権が脱退した条約に再び参加し、増税を主張しているため共和党激しい反発が予測される。また、サンダースが掲げている政策は間違いなく景気の低迷を招くため、中間選挙でその実績に反発した多くの国民が共和党に寝返り、サンダース氏の政策がすべて議会にブロックされてしまうシナリオもありえる。これがサンダース大統領が当選した場合のひとつ目のリスク、トランプ大統領以上の社会の分断である。

トランプは本当に自国第一主義なのか?

二つ目のリスクこそがサンダース大統領が好ましくない一番大きな理由であり、日本人が特に考えなければいけない問題である。それはアメリカが極端な内向き姿勢に転じることである。

トランプ大統領が掲げるアメリカ第一主義の政策はよくメディアから自己中心的なものであると批判されてるがそれは誤解である。第一にその典型とされている貿易戦争を見てみよう。トランプ大統領は現在中国に対して莫大な額の関税をかけている。しかし、それは思い付きで行ったものではなくオバマ政権時に進行した産業の空洞化に対する処置という面がある。アメリカではこれまで多くの企業が安い人件費、低い法人税を求め国外に生産の拠点を移した。それにより自動車生産のメッカであったデトロイト周辺がラストベルトと称されるほどアメリカの製造業の力が落ち、雇用が失われた。それに反し中国では世界第二位の経済大国となった今でも不当に低い人件費で人を安い、アメリカの知的財産を盗んできた。この現状に立ち向かったのがトランプ大統領である。中国が公平なルールのもとで貿易をしていない現状は非難されるべきであり、自国の産業を守るための保護主義的な政策はどこの国でも行っている。

また、対外政策を見てみると、中国の海洋進出へのけん制のための自由航行作戦、中東各地のテロ組織への支援などを通して覇権を握ろうとしているイランへの制裁など、イスラエルや日本といった同盟国の安全を守るために活動している。

トランプ大統領が意味するアメリカファーストは内向きなものではない。経済、軍事力あらゆる面で頂点に立つことを目指す外向的なものであり、同盟国としては強いアメリカは両手をあげて歓迎するものである。

サンダースこそが本当のアメリカファースト

それに反しサンダースの政策が意味するものは何であろうか?それは政治のプライオリティがすべて国内政治に転じ、外交面を軽視するという末路である。そして、それが意味するのは「真のアメリカファースト」、弱いアメリカの誕生である。

実際にオバマ政権が「真のアメリカファースト」を実践しており、サンダース大統領においても同じような世界情勢になっていくことが予測される。オバマ政権時には大きな変化が二つあった。アメリカの左傾化、現状変更国の台頭である。オバマ氏はサンダースほどではないが大きな政府を実現させることに奮闘した大統領であった。オバマケアと言われる国民皆保険制度の導入、また気候変動に対処するため国内に多くの規制をかけた。しかし、このような政策を実行するためには財源が必要である。どこが切られたか?軍事費である。

それゆえ、国際社会のパワーバランスが大きく変り、現状変更国が自国の利益を最大化するために動いた。例を挙げると、中国の海洋進出、ロシアのクリミア併合、北朝鮮の核開発の進行であり、これらすべてがオバマ政権下で起こったものである。それに加えサンダース氏はオバマ氏以上の大きな政府を望んでいるため彼の政策を実現するには、オバマ政権よりさらに大きな額の軍事費は削ることが予想される。それが意味するもの弱いアメリカの誕生であり、アメリカの同盟国にとっては脅威そのものである。

サンダースを大統領として選ぶことは何を意味するのか?

サンダースを大統領として選ぶか選ばないかは「強いアメリカ」または「弱いアメリカ」を望むかで大きく変わってくる。そして、僕と同年代のアメリカの若い層の間では特に後者が好まれている。しかし、いくら貧富の格差が深刻になり、気候変動に対して意識を向けなければいけなくても、サンダースが掲げる政策は無責任である。

僕は世界の半分以上の問題はアメリカにあると考えている。朝鮮半島の分裂、中台問題、中東の危機、といった第三次世界大戦の引き金となる事象はアメリカが作ったものであり、アメリカの軍事力によって固定化されている平和をアメリカは守り続ける責任がある。その現状があるにもかかわらず、サンダース氏を始め民主党内では世界の平和を守る司令官になるのだという責任は感じられない。

アメリカは国内において問題が山積しているが、内向きになるのは今ではない、世界中に山積しているアメリカが生じさせた問題を解決してからである。そして、それらの問題を解決できるのはサンダース氏の「弱いアメリカ」ではい、トランプ大統領の「強いアメリカ」である。








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