見出し画像

振り向いて欲しいだけだった

今日は宅建士の資格試験を受けてきた。

宅建士は簡単に言えば不動産業に必須の免許で、毎年数十万人が受けて数万人が受かる資格だ。

数ヶ月前、父親は内定先の決まった自分に対して、宅建士の資格を取っておけ、その仕事が嫌になったときに役立つから、と言った。嬉しかった。自分のことを気にかけてくれて、なおかつ父親の仕事を勧めてくれるのが1人の人間として認められている気がして。

昔から、父親の期待を裏切ってばかりだった。一度だけ来てくれた授業参観では百ます計算の正答率がクラスで最下位に近く、なぜ出来ないのかと鼻で笑われた。父親の友達が営むスポーツクラブに通ったが、まるでセンスが無く父親の視線は才能ある子に注がれていた。医学部に推薦で行けるチャンスに背中を押してくれたが、受験をして平凡な大学に入った。

元から父親は言葉の少ない人で、このようなことが重なっていきほとんど会話は失われた。興味のない人とは話さないのだろう。それを恨んでいるかと言われればそんなことは全くなく、なんの面白みもない自分には興味を失って当然だと思う。

それでも父親を尊敬していた。どこを尊敬しているかは説明しにくいが、わかりやすく言えば麻雀がめちゃめちゃ強いらしく、それを踏まえれば腑に落ちるようなところだ。頭がキレるというか、相手を出し抜くのが上手いというか。

だから一人前になって、対等に話をしたいと密かに思っている。一緒に住んでいるが、まともな会話は一、二年に一度あるかくらいで、何を考えてるかわからない。ただ先日、就職先に提出する署名をお願いしたら、一回持ち帰られた後に、びっくりするくらい丁寧な署名を返してくれた。もしかして、少しくらいは愛されているのかもしれない。

そのお礼もしたくて、「宅建士合格したよ」と声をかけたかったのだが、見事に落ちた。惜しくもなんともなかった。落ちたと言うだけ無駄なので、来年また頑張ろうと思う。

宅建士の試験を受けたのは、振り向いて欲しいだけだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?