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玉子焼

ある年の瀬、日本橋で映画を観た。『ポセイドン・アドベンチャー』か『ドクトル・ジバゴ』のどちらかだったと思う。

映画がはねたのが昼過ぎ。
散歩がてらに日本橋三越の地下食品売り場へ行った。

新年を迎えるために食品が威勢よく売られていた。
私は松露の玉子焼が気になった。

私が玉子焼を食べるようになったのは大人になってからだ。
浅草で寄席見物に行く時、浅草松屋でかっぱ巻きといなり寿司のセット、そして深川太郎の厚焼き玉子を買ったのが始まりだ。

寄席の2階席で同性の同棲しているパートナーと一緒に食べた玉子焼の味に衝撃を受けた。こんな美味しい玉子焼は食べたことがなかった。単なる食わず嫌いだった。

さて、話を日本橋に戻そう。
三越で松露の玉子焼を見たが、1本864円もする商品はビンボーな私には買えなかった。泣く泣く三越をあとにしたが、未練があった。

そこで日本橋高島屋の地下食品売り場へ行くことにした。高くてもいい。やっぱり玉子焼を買って帰ろう。
そう思って店内を見ていたら、1本400円程度の商品を見つけた。ここで買わねば一生玉子焼を食べるチャンスが巡ってこない。そう思って清水の舞台から飛び降りる思いで購入した。

地下鉄を乗り継ぎ、帰宅した私。
さあ、玉子焼を食べるぞと思い、箱を開けるとそこには玉子焼と形状が非常に似た油揚げが入っていた。

騙された。いや、騙していない。私の確認不足だ。安く買えて満足していたので十分な確認ができなかった。

以来、私は玉子焼を1本まるごと買って食べる機会に恵まれていない。
来年こそはきっと玉子焼が買える富裕層になってみせる。

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