マスクください
先日、バスに乗っていたら、マスクを忘れたと言いながら乗ってきた人がいて、そこから大いに考えさせられることがあったので、そんなお話。
その人は20代後半かなと思うぐらいの女性で、バスに乗ってきながら「さっきカフェに行ってたんだけど、そこにマスクを忘れたみたいなの。きれいなマスクありますか?」と、運転手さんにマスクをくださいと頼んだのでした。
言っている内容にも驚いたのですが、女性の口調が「バスチケットありますか」とでも言うような感じで、内容の割には「お願い」のトーンもない、でも率直な話し方が印象的でした。
どういう展開になるのかなと思いつつ、私は乗り口に背を向けていて声が聞こえていただけなのですが、見ていた夫によれば、運転手さんはしぶしぶといった様子でマスクを出して渡したそうです。
「マスクがないなら降りて下さい」と言ってすったもんだするよりか、マスクをあげた方が色々な意味で安全ではありますよね。でも、全部の運転手さんが同じ対応をしてくれるのかは分かりません。
それでひと段落してバスが発車、するとマスクをもらった女性に、おばあさんが「マスクの裏表が反対じゃない?」と教えてあげる声が聞こえてきました。親切だなあと思って聞いていたら、「あら、あなたのマスク、そこにあるじゃない!」とも聞こえてきたのでした。
私も驚いて振り向いて見ると、女性の腕にマスクが。耳にかけるゴムの部分を腕に通して運んでいたのをすっかり忘れていたようです。
それを見た周りの乗客に小さな笑いの輪が起こりました。ヒンシュクというより、「なんだ、よかったね!」という雰囲気。当の女性も「さっきカフェにいた時に外してひっかけたんだわ!」と言いながら、和やかにその場がおさまっていったのでした。
私は「予備のマスクぐらい準備しとかなくちゃ」と冷ややかに思っていたのですが、そんな周りの人の反応を見ると、自分の冷たい考えを改めました。ルールは守るのは大前提としても、毎日のことだし、うっかりって事もありますよね。
それから、私だったら「マスクください」なんて、「自分が悪いのに」とか「迷惑かける」とか「助けてもらえるわけない」とか、色んな負の気持ちが湧いて言えないって事も考えていて、じゃああの女性はその反対で、「助けてもらえる」と周りを信頼している気持ちがあるんだろうとか、迷惑とかより、とりあえず言ってみようと思えているんだなあと想像しました。
本当のところは分からないにしても、私なら薬局でマスクを買って解決しただろうところを、自分のコミュニケーション能力というか、人間力で解決した女性を天晴れだなあと思う気持ちさえ湧いてきたのでした。
今日も読んで下さって有難うございました。
eriko_fukakiさん イラストお借りしました。有難うございます!
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