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医学的診断から学ぶフレームワーク  ~意義と留意点~

はじめまして。中小企業診断士の森下です。沖縄の魅力に惹かれ、内地からフレームワーク研究会に参加しています。

私は製薬会社に勤務する、いわゆる企業内診断士です。本業では、医薬品や診断薬の研究開発を担当しています。それに加え、中小企業診断士を行っています。つまり、全く異なる二つの「診断」を任務としております。

フレームワーク活用の意義については、既に本noteで多くの方が述べられているところですが、今回は、異なる切り口からこのフレームワークについて考えてみたいと思います。

たまたま私が二つの「診断」に向き合っているという単純な理由からですが、中小企業診断士が担う「経営診断」と医療者が担う「医学的診断」の、二つの異なる「診断」の共通性から、その意義や留意点の考察にチャレンジしてみたいと思います。

① 医学的診断と経営診断との共通性

さて、「診断」とは何でしょうか?

医学大辞典によると、医学的な診断とは、「面接・診察・検査などによって得られる所見に基づいてなされる疾病・病勢・予後などに関する医学的結論」とされています。

これを経営診断に置き換えると、面接や帳簿の分析、実地訪問などによって得られる企業の経営所見に基づき、経営上の問題の種類や程度、今後の見通しなどを特定すること、と捉えることができそうです。
対象が人か企業かという違いはありますが、両者を置き換えて考えることに違和感はなく、比較して考察することに大きな問題はないように思われます。

続いて、フレームワークの共通性をみてみましょう。

医学的診断においては、診療録(カルテ)がフレームワークのひとつと考えられます。なぜなら、診療録はただ記録するだけではなく、患者が抱える問題点を整理し、問題解決に向けて論理を組み立てられるように設計されているからです。

現在の主な診療録は、
・「主観的情報(患者の訴えなど)」
・「客観的情報(客観的な検査値など)」
・「評価(主観的情報と客観的情報に基づく評価)」
・「計画(治療方針)」
の4つの項目で構成されています。

これは、問題毎に情報を整理し、PDCAサイクルを回すことによって医療を進めつつ,科学的な診療録の記載を行うよう図られている、と説明されています。
問題点を整理して解決に向けた論理を組み立てるという観点は、まさに経営診断におけるフレームワークの設計と同様ですね。

② 診断におけるフレームワーク活用の意義

それではなぜ、医学的診断や経営診断において、フレームワークが用いられているのでしょうか?

医学的診断において現在のかたちの診療録が普及した背景は、それ以前の診療録が、科学性が貧弱であり、主観的、散文的であったことが問題であったと述べられています。
つまり、診断における科学性や客観性を担保するために、フレームワークが用いられるようになったのです

コツや勘に頼った「診断」を受けたいか、科学的で客観的な「診断」を受けたいか。患者や事業者の視点でフレームワークについて考えれば、その意義は明らかではないでしょうか。

③ フレームワーク活用の留意点

続いて、フレームワーク活用の留意点について考えてみたいと思います。

医学的診断の分野では、「区切り位置の決め方」(専門用語でカットオフ値とよびます)が留意すべき論点のひとつです。
やや複雑なので図でご説明します。疾患かどうかを判定する検査について考えてみましょう(左図)。意外と思われるかもしれませんが、世の中にある多くの検査は、それだけでは疾患かどうかを完璧に区別することはできません。参照する集団の検査値の分布に重なりがあるため、疾患か非疾患かを完璧に判別する区切り位置を決めることができないためです。
つまり、どんなに頑張っても、検査結果に間違いが生じることを避けることができません(偽陽性や偽陰性といいます)。


従って、この区切り位置の決め方は簡単ではなく、万能な解決策はありません。実際には、この疾患を取り巻く様々な要素が考慮されて決定されます。例えば、疾患の重症度であったり、どのような治療があるか、仮に診断結果が間違っていた場合の患者への影響、などです。

これを経営診断におきかえて考えてみましょう(右図)。例えばSWOT分析における強みの分析において、その会社の特徴は、区切り位置の決め方によっては強みになったり弱みになったりするでしょう。

医学的診断に学ぶとすれば、経営診断においても、強みや弱みなどの区切り位置の決め方に、万能な解決策は無いのではないでしょうか。一律に決定すべきではなく、その会社を取り巻く様々な要素を十分に考慮しながら検討されるべきだと考えられます。例えば、会社が抱える問題の重大性や緊急性、問題に対する有効な打ち手の有無、仮に異なる判断をした場合の会社への影響、などです。

このように、SWOT分析に限らず、フレームワークの活用には必ず限界があります。さまざまなフレームワークで企業を分析する際には、そのフレームワークがもつ本質的な限界を十分理解し、留意する必要があるのではないでしょうか。

以上、ややチャレンジングではありましたが、「経営診断」と「医学的診断」の共通性から、フレームワークの意義と留意点について考えてみました。
引き続き、フレームワーク研究会にて、そのよりよい使い方について議論していきたいと思います。

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