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新NISAの「果実」を存分に手に入れるためには by盛岩外四

こんにちは、盛岩外四です。2022年も残すところ、あとわずかとなりました。毎年書いていますが、1年が過ぎるのは本当にあっという間です。皆さんにとって今年は、どんな年だったでしょうか。

今年のマーケットを漢字一文字で表すなら「驚」です。予想外の出来事が次々と起こりました。外国為替相場はドル/円が150円台に乗せるなど久しぶりに大きなトレンドを形成した一方、株式相場は米国をはじめとした利上げ圧力に上値を抑えられる形で狭いレンジでの動きで動きで終わりを迎えそうです。(※編注:12月28日本稿執筆)

ところが、日本の証券業界は、にわかに活気づいています。岸田総理が表明した「資産所得倍増プラン」に端を発し、2023年の自民党税制改正大綱では少額投資非課税制度、いわゆる「NISA」の抜本的拡充と恒久化が示されたからです。

ニュース報道では「自民党は〜」「金融庁は〜」と政治や行政の意向を強調しています。しかし、その原動力になったのは、日本証券業協会などの業界団体の働きかけです。

日本証券業協会は7月20日、NISAやiDeCoの抜本的な改善、金融教育の強化など、規制緩和についての要望書を公表しました。そのボリュームは実に200ページにも及びます。彼らの積極的な行動はあまり知られていませんが、その努力には敬意を払いたいところです。

そして、恒久化や投資限度枠の拡充により、税制優遇措置が広がったことも賞賛に値します。リスクを取る人たちが報われなければ、誰もリスクを取ろうとしなくなるからです。

新NISAに対する期待は大きく、マネーや経済関係のウェブサイトや雑誌でも大きく取り上げられていますが、ひねくれ者の盛岩は少し心配しています。

投資家のすそ野が広がるという点や税制優遇の拡充については大賛成ですが、反面、金融教育は依然として遅れています。それに、教育を受けたからといってすぐに儲かるほど簡単でもありません。

一部の記事では、「儲けのチャンスだから、この機会を逃さないようにしたい!」といった、行き過ぎた内容も目立ちます。利益が出なければ、優遇税制は絵に描いた餅なのです。

投資にしても、トレーディングにしても、知識を身に付けたうえで実戦経験を積んでこそ、うまくいくようになります。

そして、それ以上に重要なことは、セルフマネジメント、自らの心理分析と自己管理です。マーケットが盛り上がれば盛り上がるほど、情報は氾濫します。そうすると「この銘柄が良いらしい」「あの銘柄が儲かりそう」と目移りしてしまいがちです。

利益が少しでも出たら、その利益を確定したくなるのが人情です。損失がみるみる拡大しているのに、判断を先送りするのも問題です。特に「長期投資だから」と損失に対して目をつむりがちになるのは火を見るよりも明らかです。

制度上は長期の成長株投資という建て付けですが、使い方次第では短期のトレーディングも可能です。税制優遇があるからといって付和雷同に資金を投じるのではなく、計画とルール、規律に基づいた行動が重要なのは言うまでもありません。

積み立てNISAなら「分散、長期、積立」という理論上は有利な投資手法が使えます。この3つの柱はとても重要ですが、少し眉唾な部分もあります。

株式相場がそれほど悪くないか、それなりに良いときに「分散、長期、積立」の優位性が強調されます。リーマンショックの最中に、あるいは、コロナショックのまっただ中で、「分散、長期、積み立て」がことさら推奨されることはまずありません。タイミング次第では、損失になっているか、優位性を強調できるほどの成績になっていない可能性が高いからです。

「分散、長期、積立」のうち、少なくとも「積立」は毎月機械的に買い付けされるので問題はありません(タイミングを計らないことがメリットなのです)。

積み立てNISAは超長期投資が基本ですから、「長期(期間)」もあまり問題にならないでしょう。強いて挙げれば、不幸にも、積み立てを開始したときに相場が天井を付け、株式相場が長期間にわたって下落するケースです。少なくとも、そういうケースがあることも想定しておかなければなりません。また、投資期間中に目を見張るような上昇相場に遭遇した場合、利益を確定すべきかどうかも思案のしどころ、でしょう。

問題は分散です。個別銘柄に投資するのであれば、どのくらいの銘柄に分散すればいいのか、そもそも分散は可能なのか、あるいは、すでに分散投資されているファンドや投資信託を買うとしたら、どれが良いのかは悩みどころです。

なにしろ、超長期投資ともなれば、ファンド運用の巧拙によって儲けの差は大きく開いてしまいます。仮に自分が買っていないファンドが5割や6割も上昇している一方で、自分が買っているファンドの成績が明らかに見劣りしていたら、途中で乗り換えたくなるかもしれません。

また外国株や外国株ファンドに触手を伸ばすのであれば、為替動向や国際金融、マクロ経済についての知見を広めなくてはなりません。日本株や日本経済は為替相場に極めて敏感ですから、やはり外国為替相場の動きも理解しておくべきでしょう。

反対に、FXを主戦場としている人は、自らの守備範囲を有効利用し、優遇税制を活用するために、株式相場へ戦いの場を広げたほうがいいでしょう。

制度を設計する人たちや恩恵を受ける業界の人たちは、いとも簡単に「分散、長期、積立が有利」といいますが、実務を長く経験してきた立場からすると、口で言うほど簡単ではありません。

孫子は『兵法』の中で、「彼(敵)を知り、己を知れば、百戦して殆からず」と記しています。投資やトレーディングをするとき、「敵」となる、市場や相場、企業動向、経済情勢の分析や、チャートを見て売買タイミングを計ることに主眼を置きがちです。

一方、「己を知る」、つまり、相場と相対したときの自分の心の揺れやセルフマネジメントの仕方にはなかなか意識が向かないものです。しかし本当に大事なのは、こちらなのです。

アレクサンダー・エルダー博士の著書『ザ・トレーディング』には、かなりの紙幅を割いて相場の世界における自分との向き合い方、セルフマネジメントの方法について書かれています。

盛岩はすでに10回以上、この本を精読しましたが、読むたびに「相場とどのように向き合えばいいかという課題」が見つかります。これは読み落としをしているのではなく、読む時期によって、自分の置かれている立場や心理の状況、成長の仕方や相場展開が異なるため、新たな課題や発見があるということです。

新NISAは、株式市場にとっても、個人投資家やトレーダーにとっても、大きなチャンスであることは間違いありません。しかし、そのメリットを最大限に発揮できるかどうかは、あなた次第です。

これまで金融や相場の勉強がお座なりになっていた人は、基礎をしっかりと身に付けるべきですし、実戦経験が足りないと思う人は、過剰なリスクを取らずに安全運転で経験を積むべきです。

うまくいっている人は、より高い成果を目指すべきですし、うまくいっていない人は、これを機会に自分との対話をして、何が悪かったのかを振り返り、解決策を見出すべきでしょう。どのフェーズであっても、「課題や問題がない」なんてことは絶対にありません!

証券マンや金融アドバイザーに丸投げして、自らの意思決定を放棄しないでください。誰かのアドバイスが正しいかどうか、理に適っているかどうかを判断できる基礎を身に付けてください。

そのアドバイスが適切であっても、投資家やトレーダーによって受け入れられるかどうかは別問題です。つまり、人によってリスク許容度は異なるということです。

リスクを無理に受け入れようとせず、ストレスがかからない範囲はどこまでなのかを認識することも重要です。リスク許容度は経験値によって大きくなります。

新NISA開始まで丸々1年あります。1年間という期間は短くもあり、長くもあります。税制優遇の「果実」を存分に手に入れることができるかどうかは、個々の努力と自分との対話次第です。

計画を立て、先送りをせず、面倒くさがらず、真正面から真剣に向き合ってください。これは誰のためでもない、自分のためだからです。

それでは良いお年をお迎えください。

盛岩 外四 拝

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