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私の工場経営ノウハウ(7) 不良対策の作法

社外不良は、法律問題であり技術問題なのです。不良対策には作法があります。

❶不良の定義:
 不良とは、納入仕様書や製品規格から逸脱しているものを言います。性能に問題なくても傷や変色が規格をはずれていれば不良です。逆に、期待している動作をしなくても規格内なら不良ではありません。買主と売主(メーカ)が問題だと共に認識した「不具合」があっても、仕様書や規格で定義していなければ不良ではありません。その処理は費用も含めて双方の話し合いで決めていくべきものです。
 不良問題は、債権者(買主)と債務者(売主)間の契約に関する法的問題なのです。また、不良には、入荷時点で使えない不良「債務不履行」と入荷後しばらく使っている間に発見する不良「瑕疵担保責任」があります。瑕疵担保責任は、民法では発見から1年以内が有効ですが、商法では6か月以内の無過失責任です。買主は品物を受け取ってから遅滞なく検査し不良(瑕疵)を発見すべきですが、6か月以内なら売主の責任を問えます。
 そうは言っても実際には製品には保証期間というものを付けて販売していますから、この保証期間中は売主が無償保証します。「メーカー保証1年間」というのを家電ではよく見ますし、量販店は「3年間保証」と保証期間を延ばして拡販しているところもあります。
 一方、「生もの」は独特の方法で保証しているので仕様書をよく読んでください。例えば、機電系製造業の共通部品であるプリント基板は要注意です。プリント回路板(PCBAともいう)は、部品実装が終わっているので1年以上を保証できますが、プリント配線板(PCB、「生基板」ともいう)は、部品実装前なので保証期間は6か月で保管条件も決められています。これは、基材部が大気から吸湿して高温(最近は鉛フリーはんだを使うので250℃)リフロー時に、デラミネーションなどのトラブルを発生させる可能性があるためです。特に、LANコネクタなどのDIP部品はんだ付けは、噴流はんだを用いるところが多いので加熱が急激なため問題を起こしやすいです。使用する前に100℃以上で生基板を乾燥させてから使いましょう。また、表面の端子めっきが変色していると半導体などSMD部品端子が実装後接続不良を発生することがありますので、その時は生基板を廃棄するか端子部を研磨してすぐにはんだ付けしましょう。超高多層板のような高級品では「筆めっき」で修正します。

 誠意を見せようと保証書や仕様書・規格にない項目まで賠償すると利益贈与になるので贈与税が掛かります。放っておくと脱税行為となります。


❷社外不良と社内不良:
 社外不良は一般に顧客で発見された不良で、品質事故が発生している場合があります。社内不良は不良の流出を止めた状態ですが、予算または計画以上の不良多発では、自社内に損失が発生すると同時に顧客に対し納期遅延が発生する可能性があります。また、部材の不足を招いて供給不安を発生する場合もあります。特に、交通機関や医療機関、半導体産業で使われる認定製品や部品の場合、社会問題になることもあります。

社外不良が発生した時は、まず、出荷を止めます。製造途上の品物も停止可能工程で停止させます。次に、顧客から不良品のロット番号やシリアル番号を聞くと同時に、現物の返品を依頼します。不良ロットの製造記録を集めます。通常、全工程を反映したトラベラーシートと工程毎の作業記録、使用した作業基準や製造仕様書、図面等です。製造、技術、品証の責任者が集まって、現品解析、作業記録などから波及範囲を確定します。波及範囲がはっきりすれば、それ以外を出荷して顧客に確認してもらいます。同時に顧客に対し不良対策1次報告をして、顧客業務の停滞を解消します。報告では、不良の流出原因と根本原因、流出対策、根本対策、歯止め策(インターロック)、対策の横展開計画までします。根本原因のメカニズムがあいまいな時には再現実験を行います。対策品の流動管理を顧客と共に実施し、顧客の品質確認監査を経て安全宣言を行います。対策は、4M(Man, Machine, Method, Material)変更を伴う場合があるので、これらについてQC工程表と各作業基準や設備基準が変更されます。作業者の教育訓練記録も残します。ISO-9001の考え方でよいです。

社外不良に対する損害賠償は、製品の差替えで済ませることが好ましいですが、不良品を使うことで、または使えなかったことで顧客が損害を被った場合には、これに対しての損害賠償も請求されます。一番厳しいのが機会損失に対する損害賠償や、自動車部品の例のように完成品である自動車のリコール費用請求を受けることです。これらの請求額は数十億円に達することがあります。これらに対しては、❸で述べる保険制度が使えます。

社内不良は、社内で不良を発見して出荷に至らない状態ですが、不良率が大きく納期遅延が発生する場合、顧客に報告を求められます。
 社内不良では設計不良か製造不良かを切り分けます。製造不良の場合、4M(Man, Material, Machine, Method)変動が原因なので、不良現象の解析と同時に4M変動を確認します。良品と不良品について、IS/IS NOT分析して原因を絞り込みます。4M変動の不良は、ロット不良か全滅になるケースと、数パーセント不良率が上がるケースがあります。前者は材料や設備トラブルが原因であることが多く、後者は4Mすべてに問題の可能性があります。また、設計不良の可能性も高いです。材料のグレードを設計で指定しないというミスがある場合や工程能力指数(Cpk)が足りない設計の場合です。デザインレビュー(DR)をしっかりやらなかった場合の「DR不良」と呼びます。DRにも各社の作法がありますが、ここでは割愛します。

 社内不良対策の具体例としては、作業者の作業をビデオでとって一番成績の良い人に作業を合わせる方法をとること、材料ではグレードだけでなく工場まで行って製造工程を確認することが求められます。金めっき外注先で使っている無電解ニッケル下地めっきの還元剤の種類で端子硬度(ビッカース硬度)が変わりワイヤーボンド未着率が変化します。プリント基板のドリル加工では、ドリルマシンのスピンドルのトルク差や機械の設置状態、ブッシュ形状、送り速度、デュエルタイム、寿命ヒット数、再研磨回数と再研磨品質で不良率が大きく異なります。各工程の技術に精通したエンジニアと製造技術管理者のチームで対策すべきです。海外工場では、PE(Production Engineer)とFE(Factory Engineer)がいる場合がありますが、前者が製造技術エンジニアで後者は設備・ライン設計エンジニアの場合があります。前者の方が不良対策に強いです。


❸保険制度
 社外不良は社外品質事故であり損害賠償問題です。人命に関わる場合も、そうでない場合もあります。リコールは強い対策ですが費用が掛かります。
 そこで保険制度があります。中堅・大企業は、「全国商工会議所PL団体保険制度」を活用することになります。PL(Product Liability)保険は、製造物責任保険と訳されています。
製造物責任とは、民法上の責任(債務不履行や瑕疵担保責任)に加えて、製造物責任法の責任を対象としています。民法より加重された賠償責任を対象にしています。
中小企業PL保険制度もありますが、2020年6月に終了し、「ビジネス総合保険制度」に一本化されます。PL事故賠償の他、オプションでリコール保険も付きます。部品製造業者も対象になります。ちなみに、中小企業とは中小企業基本法で定める中小企業で資本金3億円以下が対象です。
保険は使うほど保険料が高くなりますから、私は少額では使いませんでした。

 最後に、UL規格の話をします。UL(Underwriters Laboratories Inc.):アメリカ保険業者安全試験所が策定する製品安全規格です。これがないと保険を払いませんという場合が多いので紹介します。ULは認証企業です。お金と時間(最近は6か月待たされるという話もあります)が掛かりますから準備が必要です。特に、プリント配線板に強く要求され、部品の発熱による火災を予防することを目的としています。そこで、プリント配線板やその材料である基材の燃焼試験を行い燃えないことを確認するのです。ULの決めたサンプルを作って、基板材料・構造毎に認証を取得します。基材(エンジニアリングプラスチックとガラスファイバーから成るFRP)には難燃剤が使われているので燃えにくいのですが、それにもグレードがあって最も高いのが「94V-0」です。プリント回路板はUL規格を取得することを購入条件にしましょう。基板上に「UL」と印刷されています。


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