私の工場経営ノウハウ(2)回収過で儲ける錬金術
今回は、前回の「私の工場経営ノウハウ(1)収益が向上する業績会議」の中でお話しした➏固定費の回収過を生む具体策についてお話します。
前回、回収時間が過剰になれば儲かると言いました。それは、月次の予算回収時間より短時間で製品を作り、余った時間でさらに製品を作れば、その製品の製造に掛かる原価は変動費だけになるから、固定費が利益に変わるためと言いました。例えば、5%の営業利益率が35%の営業利益率になってしまうのです。
余った時間で作るのは納期が先の製品ですが、それもなければ、営業が1年以内に売り切れると思うものを作って完成高を上げれば、工場は追加製造した製品の製造原価中の固定費を利益に変えられます。錬金術のような話です。
この手法で成功するには、
① 市場に受入れられる製品価格設計ができていること
② 販売量を予測できていること、又は受注生産であること
③ 顧客に提出している見積書は、固定費の回収をしていること
④ 自工場の固定費と標準作業時間を把握していること
が前提となります。
“ ①ができていなければ、品質を上げて価格に見合う製品とするか、価格設定を下げるしかありません。製品価格は限界利益(価格マイナス変動費)がプラスの範囲で調整できますが、計算精度の問題を考慮すると、限界利益5%以上なければ受注はできなでしょう。②がなければ工場は予算を組めないし、生産計画も組めません。③は限界利益を確認してプラスでなければ、短期間にマイナスを解消できるか、その顧客との取引トータルで営業利益が出ていなければ、その製品の値上げを要求し、それも受入られなければ生産中止すべきです。また、見積書には有効期限が明示されているはずなので、その期限が過ぎていることを確認してください。④ができていなければ、すぐにやりましょう。”
大半の工程を自社で行う中小企業では、売上高に対して固定費率が30%前後、限界利益率は35%前後が目安です。製品が部品の場合は見積書に傾斜価格を付けます。標準1ロットが100個を超えるような製品では、20個以下では試作単価として2~5倍の単価を頂きます。これも基本は固定費の回収です。“①と②はマーケティングと製品企画・設計、売上予算・計画の話なので、ここでは割愛します。”
“③ですが、製品売価から材料費と外注費を引き算して、売上高の60%以上残っていれば営業利益を出せるし、20%以上残っていれば固定費はわずかでも回収しているはずです。以下には、「工場分単価」から固定費を回収する方法について解説します。”
❶工場分単価に間接費を含める:「工場分単価」は、「チャージ」や「工場割掛」などとも言われています。 さて、製品の製造に必要な部材費や直接人件費、外注加工費などは簡単に割り出せるでしょう。しかし、間接人件費、設備の減価償却費、電気・ガス・水道のようなエネルギー費、本社費、その他経費などは、製品毎に見積計算するのは困難です。そこで、これらの固定費及び共通変動費は「工場分単価」に入れて処理するのです。エネルギー費などは会計上変動費と思いがちですが、実は固定費的要素と変動費的要素をもっているのです。
電気・ガス・水道料金には基本料金があるので、この部分はすでに固定費ですが、工場設備や仕掛製品の品質を維持するために使う空調の電気代は固定費でしょう。クリーンルームは空調用電気代が特に大きくかかるところです。温度調節し続けるような設備も固定費的電気代が掛かります。ある工場を調査したところ、製品を加工していない日の電気代が加工している日の40%掛かっていたという結果があります。
そこで、部材費及び外注費とその他に分けて総原価を計算すると、
総原価=部材費+外注費+STx工場分単価
また、
売価=総原価+営業利益
総原価=製造原価+販管費
(販管費:直節/間接販売管理費+本社・間接部門費用+その他固定費)
と表せます。ここで、ST: 標準作業時間(Standard Time)。工場分単価は、部材費、外注費など主たる変動費以外のすべての費用を年間総標準作業時間で割った分単価です。年間総標準作業時間は、売上予算品種毎に設定された標準作業時間の合計です。許されるべき材料歩留損や製品不良は各々材料費や対象工程までの製造原価として後で補正します。この途中工程までの製造原価を計算しておくと仕掛品の棚卸増減評価が可能になります。外観検査のように直接人件費が原価の大半を占めるような工程では、分単価に直接人件費のみを計上する場合もあります。直接人件費は給与外に社会保険費や労働保険費、法定福利費などを含むので、支払給与の2倍くらいを想定する必要があります。例えば、直接人件費単価50円/分、「工場分単価」は150円/分のイメージになっていきます。
❷標準作業時間(ST)と回収時間:標準作業時間(ST)とは、製品を製造するために作業者が必要な作業時間のことで、準備・段取時間、実質作業時間(設備操作・確認・工具取付取外し時間、手作業)、製品検査時間など規則的に発生する作業時間です。このSTに工場分単価を掛けた金額が加工費です。
回収時間とは、お金がもらえる作業時間のことで、顧客と取り交した製品仕様を満足した「良品」として完成品または仕掛品を作った場合に、見積書・請求書に反映させたSTのことです。STより時間が掛かってもST分しか費用(人件費・固定費他)は回収されません。不良品を作ると工場時間を回収できないので不良発生工程までの製造原価がロスとなります。逆に、STより短時間に良品ができれば、残ったST時間で追加の生産ができるし、何にも使わなければロスします。
よって、場当たり的に注文が入ったら担当営業が工場に生産依頼するのではなく、営工会議を通して固定費の回収時間分は生産計画に織り込まなくてはなりません。予定外に入った注文で計画時間以上の標準作業時間が必要なときは、残業や休日出勤でこなすよう計画を組むべきです。残業や休日出勤は割増賃金を払うことになりますが、割増賃金の何倍も利益がでます。例えば、直接人件費は売上高比10~20%で、これを1.5倍払っても最大10%の過剰出費ですが、固定費率30%+営業利益率5%=限界利益率35%が真水で入ってくるので、差し引き売上高25%の利益が入ります。大変儲かります。
❸標準作業時間(ST)の求め方:量産品は認定作業条件に従って作業します。認定は社内認定の場合も顧客認定の場合もありますが後者が優先されます。認定作業条件は品質を保証するもので、これを変更するには4M変更申請に対し顧客の承認が必要です。
認定作業条件は1サイクル分の作業を規定しているので、就業時間に何サイクル回すかまでは通常規定していません。また、準備・段取り時間や手作業の時間、工程間の停滞時間については規定していません。この辺に4M変更せずに回収時間を稼ぐネタがあります。
機械類の組立作業では、製品毎、工程毎の標準作業時間を計測して時間マトリックスを作ります。実際に細かい動作まで設定しては大変なので、大きく分けます。例えば、部材準備、機械加工作業、製缶作業、塗装作業、組立作業、電気作業、検査作業くらいの区分です。各工程にも準備がありますが、それも含んだ時間とします。この場合、ビデオ撮影による分析から工程時間を決めれば楽です。STの設定は実計測時間に加えて現場リーダーからのヒヤリングを考慮します。見えていないところにST要素があるかも知れないためです。STは十分に作業を熟知した正規作業者又は認定作業者の標準作業時間です。ストップウオッチで作業時間を計測した後レイティング係数を掛けて出します。
落とし穴は多能工化不足です。例えば、製缶作業(溶接と研磨)や塗装作業(下地めっきと塗装・焼成)ができる人が足りないためにボトルネック工程が発生して、後工程が遊んでしまうと、いきなり回収時間不足が発生します。外注先の認定や計画的多能工化を行います。いずれにしても、毎月保有STと製品ST、完成高、回収時間の関係を業績会議で確認していけば必ず矛盾が出てきて、そこに改善の機会が生まれます。改善しながら実STを下げていくのが工場経営です。
一方、人員計画では、作業参加率控除が必要です。すなわち、例えば、新人はベテランに指導を受けながら作業するので、同じ時間でもベテランの半分しか工程が進みません。また、ベテランも10%程度効率が低下します。この場合、新人は0.5人の作業員となり、ベテランも0.9人の作業員とみなさねばなりません。合わせて1.4人しかいません。回収可能時間は1.4人分に1人当たりの月間保有作業時間を掛けた時間となります。保有作業時間は就業時間から朝礼や体操、教育訓練時間など不働時間を引いたものです。1人当たり月8~10時間を想定しています。
ライン化設備の場合、製品はローダーにより自動投入されていくので、タクトタイムは決まっていて作業時間に個人差は出ません。段取りや出来栄えチェックで差が出ます。ロット投入になるので、準備・段取り、設備清掃・点検時間、トラベラーシートチェックや作業記録時間などを、標準投入ロット数で割ってタクト時間に加えます。タクトタイム内に済ませている作業は別途加える必要ありません。
➍STを少なくして回収過を得る: STは認定と一体なので、回収過を得るには認定内容との整合が必要です。認定内容を変更するには再認定、部分認定、4M変更などが必要です。その意味で4M変更のない不良低減と原価低減は作業時間ロスだけでなく部材費ロスも低減できる回収過の王道です。
不良は製品仕様を満足しているか否かですから、新製品の製品仕様規定は慎重に行います。顧客から購入仕様書が来たら社内でデザインレビュー相当の検討会を開催し、設計・技術・製造・品証の責任者全員の合議をもって受領します。問題ある時は、顧客と交渉して解決します。拡販段階で自社の納入仕様書を提案できるとスムーズです。顧客との間でトラブルとなってしまったら、最後は製品仕様で判断することになります。図面も同じです。顧客との打合せから作成した図面でも、顧客に承認依頼を提出して図面に顧客の承認印を押してもらいます。これが、ISO-9001のいう規格・基準と記録、エビデンスによる管理です。
原価低減は、製品仕様や認定工程を変えずに実質STを短くする方法が一番いいです。それ以外に自動化や工程結合など多くの方法がありますが先に述べた4M変更申請が必要なので、適用に時間を要します。顧客に4M変更申請した場合には、顧客もその適用性について評価、判断する労力、変更後のリスクを負うので、たとえサプライヤーの提案であっても効果の(名目)半分は値引きで還元するのが一般的ではないでしょうか。
次回は経験談として、月2億円の赤字から、月2億円の黒字に転換した時の話をします。キーワードは「スピード」です。