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【2020版noteゼミ①】新卒採用の時期!「技術・人文知識・国際業務」と「企業内転勤」は、何が違う!?《徹底解析》

【ご相談】 4月1日入社に向けて、ベトナム現地にある子会社で勤務して7年目になるシステムエンジニア(外国人)を、日本の親会社に出向させるための準備を進めたいのですが、就労のための在留資格を調べていたところ、「技術・人文知識・国際業務」というのが一般的と聞いたのでその一部は資料集めました。これで申請はできるでしょうか?ただ、この従業員は現地の高卒であるため、そこをどうするか相談したいです。

【1】入口を間違えると起こりうるリスクとは?

 昨年の記事で、在留資格該当性という概念を記載しました。在留資格該当性とは、法律が想定している活動内容にもとづく地位を指し、想定していない活動においては、在留資格がそもそも与えられないというものです。

 具体的には、通訳・翻訳やエンジニアのように、大学など一定の専門課程を経て、学士などの学位を保有している外国人においては、その専攻知識を活かした専門職(通訳・翻訳やエンジニアは、専門職にあたります)に従事するものとして、就労系在留資格のうち、「技術・人文知識・国際業務」が認定(許可)されうります。

 一方で、コンビニエンスストアや飲食店における店舗内接客業務は、入管法上の想定する専門職には該当せず、いわゆる就労系在留資格の想定外、すなわち、在留資格該当性がないものとして、申請しても認定(許可)にはならないのです。就労系在留資格として想定されていないといえば、現時点で、たとえば保育士さんなんかもそうですね。一方、介護は、数年前に、就労系在留資格として創設されました。

 2019年4月に施行された特定技能という制度は、そのような従来の日本の入管法令が維持してきた考え方に一石を投じる新たな制度といえ、2019年末の段階では、人数的な面や法整備の面でまだまだ不足はしていたものの、今後、どのように活用されていくのか注目しています。

 いずれにしても、外国人採用を検討する際には、在留資格該当性、基準適合性、相当性という3つの視点で準備していかなければいけないわけです。

 例えるならば、刑法と刑事訴訟法の関係に似ています。

 刑法は、「〇〇をしたら犯罪である」という刑罰のカタログであり、刑事実体法です。構成要件該当性、違法、有責という3つの要件を満たせば、それは犯罪であり、実体法上は、刑罰を科していけるのだと考えます。

 一方で、刑事訴訟法は、仮に刑法上、構成要件該当性、違法、有責の要件を満たしたとしても、真実発見と人権保障の趣旨から、さらに「適正手続」という要件を満たさなければ、刑罰を科すことはできないと考えます。刑事訴訟法は、刑事手続法に分類されます。

 実は、入管法の手続きも、在留資格該当性、基準適合性、相当性という、入管法及び施行令等の定める3つの視点から、当該外国人が在留許可足り得るかどうかを検討はするのですが、さらには、具体的な疎明資料をもって、手続きという中で審査されますから、仮に在留資格該当性があるじゃないか、基準を満たしているじゃないかと言っても、国益保護の趣旨から、許可とされないこともあるわけです。

 話は脱線しましたが、今回の【ご相談】のような事例は、実は少なくありません。就労系在留資格といえば、「技術・人文知識・国際業務」のように考えて、形式的な書類ばかりに捉われてしまうと、思わぬ落とし穴にハマります。

 申請したけれど、速攻で不許可になった。準備にかなりの時間と費用をかけたのに、在留資格がとれなかったために入社予定日に間に合わなかった。結果、当該外国人は採用を見送ることになった・・

 今回、【ご相談】の中で、何がミステイクだったでしょうか?

 それは、「海外にある子会社で勤務している従業員を、親会社である日本企業に出向させるにあたって、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を申請する」として、準備を進めた点です。

 在留資格該当性のところでも触れたように、「在留資格」が変われば、満たすべき基準が変わります。また、基準が変われば、書類も変わるし、説明内容(主張ポイント)も変わっていきます。

 ですので、本来行うべきは、一般的に多いといわれる就労系在留資格の書類を集めてみることではなく、どの在留資格を申請すべきなのか、すなわち、在留資格該当性の検討ということになります。

【2】技術・人文知識・国際業務とは?

 ここで、在留資格「技術・人文知識・国際業務」について簡単に確認しておきます。

 平成31年3月22日に法務省入国管理局が公表した「平成30年末現在における在留外国人数」によれば、在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、合計 225,724人とされ、就労系在留資格の中ではトップにあります。

 どのような人がこの在留資格をもって日本に在留しているかといえば、システムエンジニア、機械設計エンジニア、プログラマーなど、「技術」分野に該当する人たちや、会計、経理、コンサルタント、法務など、「人文知識」分野に該当する人たち、あるいは、通訳・翻訳、語学講師といった「国際業務」に該当する人たちがいます。

 平たくいえば、理系であれ文系であれ、一定の学歴(または一定の実務経験)をもった専門的知識を有する外国人の方が、日本で、技術や人文知識、国際業務に該当する業務に従事するようなときに、申請するものです。「日本人と同等以上の報酬額であること」も求められております。

 そのため、一定の学歴を有している人であれば、何かしら該当する専門分野があることから(在留資格該当性の視点からは包括的な規定になっています)、結果的に、「技術・人文知識・国際業務」が多くなるわけです。

【3】企業内転勤とは?

 一方で、在留資格「企業内転勤」とは何でしょうか。

 「企業内転勤」の在留資格も、先ほどの「技術・人文知識・国際業務」と同様に、就労系在留資格であることに変わりはありません。ただ、在留資格名にあるとおり、「転勤」となっていますから、たとえば、親子関係(出資関係)にある会社間の人事異動、本支店関係にある会社間での人事異動、あるいは、関連会社であることを理由とする採用。このような場合に、在留資格「企業内転勤」を検討します。

 在留資格「技術・人文知識・国際業務」が、一から人材を探し採用していくのに対して、在留資格「企業内転勤」は、すでに一定の関係性のある会社間で勤務している方を受け入れるので、信用性、スキル、人件費などの面からメリットがあります。

 さらに、この在留資格「企業内転勤」の特徴は、その活動内容です。

 在留資格「企業内転勤」をもつ方ができる活動とは、在留資格「技術・人文知識・国際業務」に該当するすべての業務です。この点、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の場合には、たとえば、工学部を卒業しているAさんが機械設計エンジニアとして採用された場合、日本では「機械設計エンジニア」として業務に従事しますが、これは、「技術・人文知識・国際業務」の中でも、「技術」に該当する活動です。

 この場合、Aさんが、独学で会計の勉強をしたので、来月から転職して、「経理」担当として活動していきたいと思った場合、どうでしょうか。通常は、経営学部や会計系の学部を卒業した方が、経理担当として業務従事しますが、これは、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の中で、「人文知識」に該当する活動内容といえます。

 ですから、Aさんができる活動というのは、あくまでも、ご自身の「学歴」に関連する業務に従事することですので、工学部卒業者のAさんが、転職して経理の仕事に就けるかといえば、疑義があります。このような場合には、許可の可能性云々はともかくとして、転職時に、「就労資格証明書交付申請」を行い、事前に「経理としての職務に従事してもよいのか否か」を審査してもらうことをお勧めします。なぜなら、Aさんには、他にも学歴があるかもしれませんし、履修科目の内容によっては、経理に該当するものもあるかもしれないからです。〇〇学部だからアウト、というのは早計です。

 話は戻りますが、在留資格「企業内転勤」であれば、そのような「技術」だとか「人文知識」のような枠を考える必要はありません。「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動ならば、どれでもできると考えて問題ありません。

 その理由は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、基準の中に、「学歴」(専攻科目)がベースにあって業務内容を検討していくのに対して、在留資格「企業内転勤」の場合には、基準の中に、「学歴」というものはなく、あくまでも実務経験によるものとしているからです。基準に学歴がないのだから、学歴に縛られません(もっとも、あくまでも出向・転勤である以上、その関係会社内でしか働けないという点は、「技術・人文知識・国際業務」よりも狭いといえます)。

 さて、では基準を比較してみましょう。

【4】基準の比較

 在留資格「技術・人文知識・国際業務」の場合には、①大学以上の学歴があること(国内外問わず、大学・短期大学を卒業していること。なお、専門学校は、日本に限り、かつ、専門士の学位がある場合のみ)、②日本人と同等額以上の報酬があること。この2点が軸です。

 ①の学歴は、例外もあって、「実務経験10年」という場合であれば学歴は不問となります(なお、通訳翻訳、語学指導など一定の場合には、3年以上の実務経験でよいとされています)。

 在留資格「企業内転勤」の場合には、①海外にある関連会社等で継続して1年以上勤務していること、②日本人と同等額以上の報酬があること。この2点が軸です。

 ①の実務経験は、「継続して」というところと、「1年以上」というのが重要です。

 ちなみに、企業内転勤の場合には、日本の親(子)会社と海外の(親)子会社が存在します。いずれの在留資格にも共通する「日本人と同等額以上の報酬があること」について触れると、文言は同じなのですが、考え方は少々異なります。

 それは、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の場合には、雇用契約を締結した雇用主が誰なのか(=給与は誰が支払うのか)が問題になりますが、在留資格「企業内転勤」の場合には、給与の出所は特段問題にならず、外国人従業員にきちんと日本人と同等額以上の給与が支払われていればいいことになります。

 海外赴任をされた方ならイメージしやすいですが、海外赴任した場合には、①海外の会社から給与が支払われること、②日本の会社から給与が支払われること、③海外・日本双方の会社から給与が支払われることという、おおむね3つのパターンがあります。

 在留資格「企業内転勤」のご相談では、この給与の取扱いについてご質問を受けることが多いです。出向辞令などを出したはいいが、特に、上記③の場合において、給与額についてどうすべきか悩むのです。

 たとえば、現地から基本給を受けるけれども、日本からも一部報酬が発生するケース。ここでよくある質問は、こうです。

今回、現地から支払う給与と、日本で支払う給与の双方を設定したのですが、基本給はあくまで現地企業から支払い、日本で支払う給与額は、基本給に及びません。この場合、日本で支払う給与はそこまで多くないので、いわゆる最低賃金だとか、そういうので問題にならないでしょうか?

というものです。

 結論からいえば、この場合には、「合計値」(=現地で支払われる給与+日本で支払われる給与)で、考えましょうということです。入管法が求める「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」というのは、日本で発生した(出所)給与のみでみるのではなく、現地分もあわせた合計値でみていきます。

 入管法とは異なりますが、いわゆる最低賃金法だとか労働法にもとづく給与の概念も、同じように「合計値」で計算します(出所は問いません)。強いていうならば、労働法に基づく考え方と、年金に関する考え方は異なります。年金の場合には、「日本で発生した給与額」のみをもって、負担を減らすなどといったことが「できてしまい」ます(いいか悪いかは別として)。その意味では、法令遵守、適法性・適正性の観点から、労働法や年金に関しては、社会保険労務士さんの助言を受ける方が、採用後、安心なのではないかと思われます。

【5】本件相談へのあてはめ(具体的考察)

 さて、それでは、最後に、本件【ご相談】について、1つ1つ当てはめて考えていきましょう。

【ご相談】 4月1日入社に向けて、ベトナム現地にある子会社で勤務して7年目になるシステムエンジニア(外国人)を、日本の親会社に出向させるための準備を進めたいのですが、就労のための在留資格を調べていたところ、「技術・人文知識・国際業務」というのが一般的と聞いたのでその一部は資料集めました。これで申請はできるでしょうか?ただ、この従業員は現地の高卒であるため、そこをどうするか相談したいです。

 まず、本件で採用候補となっているのは、「ベトナムにある子会社」で勤務している「7年目」の従業員の方です。そして、日本の「親会社に出向させ」たいとしています。

 親子関係にある会社間で、1年以上勤務している従業員を、出向辞令により迎え入れるといっていますので、給与額はともかくとして、在留資格「企業内転勤」が検討されます(在留資格該当性の視点)。

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