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#8掛捨型VS貯蓄型 医療保険

保険を掛捨型と貯蓄型(積立型)に分けるとすると、他の条件が同じなら貯蓄型(積立型)の方が保険料は高くなる。しかし、掛捨型はもったいないと考え、少しでも保険料が戻ってくる貯蓄型(積立型)を選択する人もいるだろう。非掛捨型医療保険は得なのか、様々な視点から考えてみる。

※後半のシミュレーションに修正が入ることがあります。

1 二つのリスクが混在

リスクを考えるとき、2種類あることに注意しなければならない。保険で使われる「危険性」を表す意味と金融で使われる「ブレの大きさ」を表す意味がある。

保険では、死亡リスクや疾病リスクなどと、リスクが発生したときに金銭的負担が生じる。プラスになることはないため、「損得」で考えることはない。一方、ハイリスク・ハイリターンという言葉があるように、高いリスクをとると高いリターンを得ることも可能であり、価値が大きく上下に振れる。収益性が高い投資先は同程度のリスクを負う可能性があり、「損得」で考える。

保険を選ぶ際、死亡リスクなどの発生確率と対応の有無を検討するだけでなく、得をする保険なのかも検討しなければならなくなり、比較するのが難しくなる。医療部分は他の医療保険と、貯蓄型(積立型)は投資信託などと比較しなければならないためだ。

2 医療保険が使えなくなる可能性がある

医療保険の中には、保険料と給付を受けた金額の差額が一定年齢に達した際に戻ってくる商品がある。もし全く給付金を受け取らなければ、保険料が全額返金される仕組みだ。

気になるのは、保険料が戻ってくる年齢要件である。加入し続けなければならない年齢は次のとおりである。

■契約年齢 ⇒ 年齢要件

・0~40歳 ⇒ 60歳または70歳

・41~50歳 ⇒ 70歳

・51~55歳 ⇒ 75歳

・56~60歳 ⇒ 80歳

加入時の年齢にもよるが、契約年齢30歳の場合、70歳まで加入し続けなければならない。単純に40年も加入し続けるか不透明であると感じるかもしれないが、そもそも今の医療状況に合わせた医療保険が40年も適用できるかどうかの方があやしい。がん保険がいい例で、以前は入院日数が長いがん保険が主流だったが、今では、入院日数が平均20日前後になったことで、通院給付金や診断給付金が充実しているがん保険の方がふさわしい。

(資料1)

(資料2)

(出典)生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」

グラフ(資料1)は、平成27年から30年の3年間に解約や失効した契約の期間である。医療保険に限定していないため、正確な判断はできないが、加入目的について約6割が医療費(資料2)であることを考えると、医療保険やがん保険が相当数含まれていると想定できる。

次に解約・失効の理由について見ておこう。

(資料3)

(資料4)

(出典)生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」

解約・失効の理由は、「他の生命保険に切り替えたので」が約3割(資料3)であり、切り替えた理由の約6割は「保障内容が現在の自分や自分の家族状況に合っていたから」(資料4)である。死亡保障の場合、よっぽど保険料の差がない限り解約せず、医療保険やがん保険の切り替えでないかと思われる[*1]。

[*1]医療保険の加入期間のデータが必要である。

いずれにしても、医療保険を40年も加入し続ける可能性は低いのではないかと考えている。

保険料を設定する際、疾病率に加え、解約率も考慮に入れる。そのため、新しくできた保険会社の場合、社内で実績が積みあがらないと、保険金の支払い実績に見合った保険料であるかどうかわからない。

おそらく保険料が給付金(健康還付給付金)として戻ってくるこの医療保険の場合、40年は加入してもらわないと損をしてしまうのだろう。保険会社が健康還付給付金を支払う可能性を考慮した結果の保険料となる。

3 税制メリットで比較する

医療保険に限らず、保険商品には二つのリスクを併せ持つ商品が多い。一般的に保険会社は国債で運用しているため、自分で運用してもいい結果が残せる可能性もある。それでも心配であれば、所得控除で比較してみよう。

一般的に掛捨型より貯蓄型(積立型)の方が保険料は高いため、夫婦二人で加入した場合の保険料の差額を合計3,000円とする。掛捨型にすれば、「3,000円[*2]×12ヶ月=36,000円」を投資に回せる。今回は、老後資金の準備としてiDeCoを利用した場合の控除額からどの程度、所得税が安くなるか確認する。

[*2]30歳時の貯蓄型(積立型)と他の掛捨型商品との保険料差は1人約1,500円


(1)介護医療保険料控除

・(36,000円×1/2)+10,000円=28,000円

 28,000円×20%=5,600円(年間)

介護医療保険料控除の場合、全額控除されるのは支払保険料が20,000円以下の場合のみである。この点が保険料控除の少し弱い点ではあるが、積立型(貯蓄型)にして掛捨型より保険料が増えた場合、5,600円(所得税20%の場合)所得税が安くなる。そのため、実質的な負担は、

 36,000円-5,600円=30,400円

となる。

 70歳到達時点で2人が受け取れる健康還付給付金は、

 3,000円×12ヶ月×40年=2,880,000円

となる。この金額は、保険を一切使わなかった場合であり、40年間で給付金の支払いを受けると減少する。

(2)差額をiDeCoを利用し運用する場合

iDeCoは掛金全額控除できるため、差額の36,000円[*3]全額控除となる。

 36,000円×20%=7,200円(年間)

となり、7,200円所得税が安くなる。

[*3]ただしiDeCoの最低掛金は月5,000円である。

貯蓄型(積立型)の場合、40年加入し続ける、医療保険の切り替えは行わない、給付金を受け取らないという厳しい条件をクリアすると288万円受け取れる。ただ40年間医療保険を一切使わないのは非現実的なので、一人合計50万円ずつの給付金を受け取ったとすると、70歳時で188万円の受け取りとなる。

一方、iDeCoはどうであろうか。

軽減される所得税額7,200円も投資するとし、毎月3,600円[*3]の掛金とする。

[*3]ただしiDeCoの最低掛金は月5,000円/人である。

iDeCoは運用中の利益は非課税で再投資され、複利効果がある。

安定型で2%の運用利回りを達成すると、受取額は264万円となる。掛捨型医療保険の保険料が144万円となるため、収支は140万円である。

金額だけ見ると、貯蓄型(積立型)の方が有利に見えるが、受け取るための条件を考えると、そうとは言えない。

<掛捨型の利点>

・貯蓄が一定額貯まれば、医療保険に加入しない方法をとることができる(医療保険を50歳までとすると、収支は212万円となる)。

・医療保険の見直しがしやすい。医療の状況に合わせた医療保険を選べる。

・給付金の要件を満たせば、迷うことなく請求できる。

・着実に老後資金の準備ができていることが実感できる。精神的に安定する。

・運用がさらに上手くいけば、受取額は増える。



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