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第8話 不動産は立地+安全性


【登場人物】

〇藤堂さおり(32歳)・・主人公 
大学職員として勤務している。夫の啓補は警視庁勤務。
気が強く、はっきりと言うタイプ。地図が好き。初めての住宅購入に向けて、不動産業者だけの話では納得いかず、FP事務所に相談へ行くが・・。

〇神崎勘太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所所長 
CFP認定者、1級FP技能士、宅建士。「脱カモ」サポートをモットーに、龍太と二人でFP事務所を切り盛りしている。

〇藤堂啓補(34歳)・・さおりの夫。
警視庁勤務。素直で人を信じやすく、そのせいで営業マンのトークに乗せられやすい。基本的におっとりした性格。


〇神崎龍太(36歳)・・祐天寺うぐいすFP事務所 勤務 宅建士。 
不動産業界での経験を活かしながら、勘太のサポートをしている。無口で勘太とは体型含めて正反対。


前回までのあらすじ。

主人公の藤堂さおりと、夫の啓補。夫の啓補が「住宅を購入したい!」と言い出し、1件目のショールームで急に決めようとする啓補に対して、不安なさおりは自身のクレジットカードの特典でFP(ファイナンシャルプランナー)の無料相談を申し込んだのをきっかけに、その物件の調査依頼をしたところ、依頼を受けたFP事務所の神崎勘太は、災害に弱い危険な立地であることを理由に購入をやめるように勧めた。案の定、その建設予定地は後日台風で冠水してしまった。それがきっかけで、2人はここのFP事務所の住宅購入サポートプランのトライアル契約を申し込むことに。そこで、勘太は賃貸と購入の場合の考え方や、購入にあたって「利用価値」だけで購入を決める危険性について話をしたのだが・・。


【第8話 不動産は立地+安全性】


「いや、もちろん希望を持つことは大切だし、だからそれ自体否定しない。だけど、それ「だけ」で、その視点だけで、住宅を買うと失敗することが多いってこと。「利用する価値」と「資産価値」の視点とのバランスの問題ね。いざとなったら売れる物件か、貸せる物件か。という視点をちゃんと入れていけるかどうか。言い方を変えると自分は良くても他人はどう思うか。そういう資産性の視点を持って購入を検討しているかどうか。極端な言い方をすると、自分で購入した家を自分に貸しているくらいの視点でね。」
「なるほどね。住宅を購入した後もこれから先どうなるかわからないから、その視点が保険になるってことなのね」
「奥さんなかなかいい観点ですわな。物件探していて、良いと思う物件あったら、同エリアの同じくらいの間取りで、賃貸でどれくらいの賃料で募集しているか確認するといいよ。最近はこれにプラスして、もう一つの視点も重要になってきとる。まぁ、でもお二人なら最近の出来事のこともあるしわかるかな?」
「あっ わかった。災害とかに対しての安全性とか、安心かな?」
啓補は思わず手を挙げて答えていた
勘太は思わず吹き出し、カッカッカッと笑った。
「正解!そう、安全性!どんなに皆が欲しがるようなエリアでも地盤が弱く、災害に弱い場所を選んでしまったら、災害が起こったとき、一番大切な家族の「命」やそれこそ資産性のある「家」さえも守ることはできんよね。そういった被害状況を見て、そのエリアの資産価値が大きく下がることも十分ありえる話やし。」
「そうね。それは今回身にしみて感じたわ。今でもあの場所のマンション買っていたらと思うと、変な汗が出てくる。」
「そう、整理すると、いざとなったら、貸せる、売れる家、災害に強い家、それでいて自分の利用価値、買いたいと思う家。この条件が揃った物件を買うことを目指すことが、失敗しする可能性を下げていくということ」
「なるほどなー。正直、自分が住むのだから、自分が心から気に入った、住みたいと思うところであればいい、って思っていたけれど、冷静に考えると不測の事態なんかで、住まいを変えようと思うことが全くないとは言い切れないもんなぁ」
啓補は、勘太の話にさすがに納得したようだ。
「それで、いざっとなったら貸せる、売れる、というのはわかったけど、どういう物件ならそういう可能性が高いとかポイントはあるんですか?」

勘太は、ホワイトボードに書いた「住む」「貸せる」「売れる」と書いた中で、「貸せる」「売れる」に赤で下線を引き、さらにその下に安全性、買いたい思い、と書き込んだ。ここまで話したことだ。さらにそこに矢印を書いて『立地』と書き込んだ。
「もう、1にも2にも、3にも立地、立地。立地」
「わ、わかったから。で、立地というと、どういうエリアを選ぶかってことでいいの?」
結局人気の街ランキングに出てくる駅の物件を買えといっているのかな。
勘太は何か察したようだ。
「いや別に、人気の街ランキングの上から検討せい!って言っとるじゃないよ。実際に物件探しで行動するときは、避けたほうがいい項目をもっと細かく記載するけれど、首都圏の話でいうと、例えば都心より郊外のマンションの方が、購入するときの価格は安いけれど、売るときの価格は都心のマンションよりも大きく下げてしまうことは多々ある。」
勘太は、ホワイトボードに、4500万(都心)中古60㎡、3500万(郊外)新築100㎡と書いた。
「例えば、まぁもう都心マンションは中古でも今はもっと高いけれど、築10~15年くらいの都心にある中古マンションが60㎡で4500万。それに対して、都心から電車で30分、駅から徒歩15分超えの新築マンションを80㎡で3500万で購入したとするでしょ」
「子供のこと考えたら、私も60㎡じゃ狭いと思うかも」
「そうだね。郊外の庭付き戸建を希望されるご家庭も『広いところで子供をのびのび育てたい』し、自分たちの身の丈にあった価格で、ということで、後者を選ぶケースが多い。」
「わかるような気はするけどね。その気持ち。」
「だけどね、10年後、親の面倒を見るだとか、何らかの事情で引っ越しを余儀なくされたとき、前者のマンションだと、その時の状況にもよるけれど、3,500~4,500万円くらいで売れて、住み替え先を購入するときも、しやすくなる。つまりキャッシュ(現金)が多い状態になれる。反対に後者の場合、査定してもらったら、1,500万円と不動産業者に言われた。しかもそれで売れるかもまだわからない。。と。
ローンがまだ2.500万円以上のこっていて、売っても1,000万円の負債しか残らない、というケースが本当に多い。つまり何かあった時の身動きが取れない。」
「それがおっしゃっていた、いざとなったら貸せる、売れるかってことね」
「そう、だから、大きな流れとしては、都心と郊外の駅からバス物件を比較するならば、明らかに、価格が落ちにくいのは前者の傾向にある。さらにいうなら、不人気沿線とかではなく、駅から徒歩10分以内。マンションやと2階以上。あと新築マンションの場合、購入直後に2割くらいは資産価値マイナスからスタートと考えてほぼ間違いない。」
「それって、聞いたことがあるわ。広告費などが価格に織り込まれているからでしょ?」
「よくご存じで。新築マンションの場合は、電車広告でも妙なポエムの広告を見たことがあると思うけれど、それなりに広告費かけていく必要があるからね。で、その広告費分はしっかり販売価格に上乗せられているということ。」
「駅からの距離や階数まで重要なんですね。でも考えたら自分が賃貸物件探すときとかもそうしていたかもしれないわ」
「今はほとんどの人がWeb検索で条件入れて物件探しするから、駅から遠いとか、マンション1階とかやと、そもそも検索条件からはじかれてしまうし。もっと避けるべき項目はほかにもあるけど、まずはこのあたりからかな」

勘太は、ホワイトボードに「立地」とかいたところに線を引っ張り、「安全性」と繋いだ。
「もちろんな、最近これだけ地震、台風、大雨などの災害が多いと、「安全性」が高いことも資産価値の条件の一つとなるね。」
「安全性でいうと、このまえ私たちが選んだ物件を見ていただいた際に出てきた水害などの危険度がわかる『ハザードマップ』と土地の地震危険度などがわかるように地盤を確認したりするってことかしら」
実は前回購入しかけた物件のことだけに、勘太が出してきた資料には強い衝撃を受けた。だからそれ以来、ハザードマップや大地震の危険度マップを住んでいる区役所で手に入れていたのだった。
「奥さん素晴らしい!住みたいと思う住宅のエリアの標高がどの程度高いのか、住宅の立つ場所の地盤が軟弱じゃないか。例えば、この前購入しそうになった世田谷区のマンションやけど、世田谷区全体としては、武蔵野台地の上にあり、標高や地盤がしっかりした場所が比較的多い。ただ、川沿いだったり、もともと川だった場所が緑道になっているところなどは、当然危険度は高くなる。」
「確かに、ハザードマップを見ていると、緑道がもともと川だったとわかるくらい、そこに色が(浸水危険度の色)ついているものね」
「へぇ ハザードマップとか見てたんだ」
啓補は意表をつかれたのか、意外な顔をしてこちらを見ている。
「なんで?この前みたいなことがあったら、さすがに見てしまうでしょ。まぁもともと地図を見るのが好き、っていうのはあるけどさ」
私たちのやりとりをにこにこしながら勘太は見ている。


(第8話終わり) 次回は7月19日(日)に更新予定です。


※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


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