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階梯

階梯は、読んで字の如くハシゴの意。
公園にある遊具で「雲梯」ってのがありますが、アレがかつては攻城兵器として生まれ、台車と防壁のてっぺんを渡して兵を送り込むハシゴであったのに対し、階梯は斜めに立てかけるハシゴだそうです。ちょうど階段を登るかのように。
で、そこから転じてなのか、学問・芸術などを学ぶ段階、発展の過程を指し、それを学ぶ入門書や手ほどきの類いも同様に階梯と呼ばれるのだとか。例えば、軍事関連であれば戦術階梯、語学なら英語の階梯といった具合に使われます。

いや、なんでまたこんな言葉を引っ張りだしてきたかといいますと、いまネトフリで『三体』をみてるんです。その中で「階梯計画」という心が締め付けられるエピソードがありましてね。そもそも階梯ってナンジャラホイという小さな疑問から、以下のように思索が広がっていきまして。


編集の階梯っていうとなにかしら?

有名なところでは『編集の教科書』(宇留間和基 リーダーズノート出版)とか、『エディターズハンドブック 編集者・ライターのための必修基礎知識』(雷鳥社)とかでしょうか。
わたしは、雑誌の編集ってデザインと密接に関係してくると思っているので、むしろエディトリアルデザイン系のハウツー本を手当たり次第に眺めていました。もともと、そっち系が志望領域でしたし、デザインを学んでいくと自ずと多様な編集展開を学ぶことにつながります。また、雑誌そのものや、アート、インテリアの洋書なんかもお手本になりますね。海外のものはタイポグラフィが美しくて、何かとプレゼン資料に使わせてもらっていました。

いやいや、編集者はライターさん以上に語彙力が重要でしょ! となると、普段は辞書のように使っている『記者ハンドブック』(共同通信社)なんかが挙げられるでしょうか。あれは読み物としても面白いので、手持ち無沙汰な時にサッと取り出して目を通せるよう、仕事場のデスクのみならず、リビングのサイドボードにも常備しています。他にも、うちの本棚を見てると、古今東西の映画、音楽、文学作品のタイトルを集めた『和英・英和タイトル情報事典』(小学館)、逆に悪い例を引っ張り出してきて正しい文書作成の要諦を教えてくれる『悪文』(日本評論社)などがありました。

でも、「雑誌の編集者になるならコレ読んどけ!」的な視点で、あらためて吟味してみると、どれもこれもパンチに欠けるんです。もちろん、どの書籍もインプットしておいて損はない内容のものばかりですが、その人が手がけるジャンルや置かれる状況で、階梯と呼ばれそうなものはクルクル変化していくはずなんで。そして、きっと多くの編集者さんが口を揃えてこういうと思います。実戦に勝る手引書はなし、って。

だいたい「この企画を君ならどう編集する?」って時は、初めにハコやスペースが決まっていて、そこから何らかのテーマを「どうかいつまんでゆく」「どう語ってゆく」かを浮かびあがらせていく作業から始めると思うんですね。
訴えたい内容によっては、ガツンと心に刺さるキャッチやタラシが必要になってきますし、なんだったらそのキャッチを武田双雲先生みたいな書家に書いていただいたり、アートディレクターさんにカッコいいタイポグラフィに仕立てていただいたりも、発想として生まれてきます。写真などのビジュアルも効果的に見せていかなきゃならない。時には、写真じゃなくてイラストの方がしっくりいく場合もあるし、よりシステマチックに図表やグラフの力を借りることもあります。

要は、何をどう伝えるかを分析して見定め、いったん分解して、集められるだけ集めた情報を取捨選択して、組み立てていく、再構成の作業。その巧拙や工夫の有無が編集力の差といえるんじゃないでしょうか。

で、この編集力というのは、雑誌編集に限定されたものではなく、プレゼンテーションや企画書による伝達を通して、営業、企画、宣伝、接客、マーケティング、プロモーションなどなど、さまざまな業種に応用できるんすよね。

仮に営業さんなら、午前中に渋谷で外注スタッフさんとの打ち合わせがあって、午後に虎ノ門のクライアントさんとお会いする予定があったりしたら、「移動は銀座線を使おう」とか、「午前のアポが終わったら、早めに虎ノ門へ移動しておいて、お昼ゴハンは大阪屋砂場で蕎麦でもたぐっておくか」とか、「あ、お客さんへの手土産選びにヒカリエに寄っていこう」とか、瞬時にいろいろ考えるわけです。これもある種の編集力。

たぶん、豊富な情報をいっぱい集めておいて(収集)、目的に応じて適宜引き出せて(選択)、それらの情報をわかりやすく組み立て直すこと(再構成)が「あの人はデキる人」につながっていくんだと思います。

ゆえに、前述した「実戦に勝る手引書はなし」という帰結になるのかと。
なんとなく、おぼろげで、不確かな感覚ではありますが、いろんな場面に編集力を磨く階梯は転がっているような気がします。

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