シェアリングとは何かをじっくり考えてみた

はじめに

シェアリングエコノミー、その単語を初めて聞いてからそれなりの年月が経ったように思う。自社ビジネスとしてシェアリングエコノミーとの今後の関わりを検討されているビジネスマンも多数いるのではないだろうか?例にもれず私もそんな一人である。

だがしかし、今後シェアリングエコノミーは本当に拡大するのだろうか?ただのバズワードで終わるのではないだろうか?伸びるとしたらそれはどんな分野なのだろうか?現在進行形で成長していく業界に対し、想像できることは多くなく、頭を悩まされるばかりだ。

そんな曖昧な状況においても、考えることをあきらめるわけにはいかない。自分なりに「流行るシェアリング、流行らないシェアリング」をかぎ分ける思考法を確立しなければならない。本稿を使って、思考法確立に至るまでのステップを残しておきたいと思う。

所有する理由を再確認することから始める

個人がモノを所有する」のはなぜだろうか?この問いからシェアリングを考えていきたいと思う。ここで言う所有は「占有」と読み替えて頂いて結構だ。「なぜあなたなスマートフォンを所有するのか」「なぜあなたは歯ブラシを所有するのか」「なぜあなたはブランドバックを所有するのか」など、いくつかのモノを思い浮かべながら自問してみて頂きたい。

全てを洗い出せているわけではもちろんないが、私としては「即応性」「安心(例えばスマートフォンのセキュリティや歯ブラシの衛生面)」「ステータス」などの観点が思いついた。何が重要になるかは業態によるだろうが、このようにモノを所有する理由(ファクター)を整理してみて、シェアリングサービス化することで強化できるファクターがあるかを考えることが、流行るサービス・流行らないサービスを見極める一つのポイントになるのではないだろうか。以下に二つの例を挙げて考えてみる。

例1:歯ブラシのシェアリングサービスは流行るだろうか?

人によってはこのタイトルを見ただけでゾワッとするかもしれないが、想像してみて欲しい。あなたは会社で昼ご飯を食べ終えると洗面所に向かう。洗面所には最新鋭の電動歯ブラシが置かれており、誰でも自由に使うことができる…。あなたはこの歯ブラシを使うだろうか?答えはおそらくNoだろう。

これは、今あなたが自分専用の歯ブラシを持っている理由である「安心≒衛生」というファクターを大きく損なっているからだ。歯ブラシを持参する必要がなくなるため利便的にはなっているものの、大きなマイナスポイントがついてしまっている。これでは流行らない。

(逆説的に、シェアすることで設備への投資ができ、個人が所有している歯ブラシよりも衛生的であることを、感情面を押さえこめるほどに主張できるサービスがあれば、いつか歯ブラシもシェアされるかもしれないが…)

例2:大工道具のシェアリングサービスは流行るだろうか?

想像して欲しい。あなたはカラーボックスが欲しくなり、近所のホームセンターで組み立て式のものを購入した。棚などの固定には木ネジを使う。手動ドライバーで押込み・回していくが、これがどうしてなかなか固い。十か所程度の木ネジを組付けるのはいやはや骨が折れる。電動工具があれば、とあなたは一瞬思うが、年に数回あるかどうかという場面のためにわざわざ高い工具を購入することもない。あなたはそう自分に言い聞かせ、また新たな木ネジを手に取る…。

この文脈において「それなら電動工具をシェアリングサービスにすれば良いのでは?」と思ってくれる読者がきっといると思う。私自身、そんなサービスがあれば、と思ったこともある。ただ本当にそのシーンを思い描いてみると、私はきっと大工道具シェアリングサービスを利用することはないだろう。なぜなら私は「ふと」カラーボックスを購入し、「今」組立てをしたいのだ。ふとカラーボックスを買ったのに、悠長にシェア工具が週末に到着するのを待っているなんてゴメンである。実際私は年に数回しか使わないが電動工具を自宅に所有している…。

この想像上の大工道具シェアサービスでは、所有のファクターである「即応性」が欠けているのである。「家具を組み立てる」ような「時間的・量的に変動しうる需要」に対し、「家にある工具」は優れた即応性を持つから、私たちは工具を家に置いておくのだ。(もちろん工具との価格のバランスはある)

ジャストアイディアだが、組立家具のネット通販で、配達と同時に電動工具を貸し出してくれるオプションがあれば、これは即応性を損なわず、なかなか流行るのではないだろうか…?(もうすでにありそう)

まとめ①

二つの例を通じて考えてみたように、現状個人が所有しているものをシェアリングサービスで置き換え可能かどうかを考えるとき、まず「なぜわたしは○○を所有しているのか」に立ち返り、何を重視してモノを所有しているかを考えることが有用だと思う。

おまけ:即応性とは何だろう

例2で取り上げた、即応性という観点についてはもう少し掘り下げてみたい。即応性とはつまり「需要にこたえて余りある供給」を持つということだと思う。自動車のシェアリングサービスを例に、即応性の観点で流行る・流行らないビジネスをかぎ分ける訓練をしてみる。

カーシェアリングサービスと言っても、大きく二つの種類がある。事業者が複数の拠点を持って車両を配備し、ユーザが空き車両に自由に乗車&好きな場所で乗り捨てができるタイプ。仮にこちらを事業シェアと呼ぶ。もう一つは個人間シェアと呼ばれるもので、個人オーナが遊休時間で自分の車を他人に貸し出すものだ。

即応性の観点で、事業シェアは流行るだろうが、個人間カーシェアは流行らないだろうと予測する。(予測が外れたら笑ってくださいね…)
利用者が「この後」「ある地点から」自動車に乗りたいと思う即応性ニーズを満たすには、ある程度の数の発着拠点と、車両不足にならないだけの台数を用意する必要がある。これは事業シェアであれば用意できるが、個人間シェアでは対応が辛い。このように即応性が重要なビジネスにおいてはある程度物量がモノを言うだろうと思う。

ちなみに本稿前半で語った「所有の意義」に照らし合わせて考えると、私たちが自動車を買うのは「今簡単に移動したい」という即応性を満たすためだ。よく個人間カーシェアサービスのうたい文句に「自動車の遊休時間を有効活用する」とあるが、遊休時間とは私たちの即応性ニーズを満たすために必要なバッファであり、遊休時間ゼロ=即応性が脅かされるため、個人間カーシェアで車を貸しだすオーナーは多くは増えないだろう。
(ちなみに都会で電車が利用しやすい場合には、この即応性ニーズを満たすために自動車は必ずしも必要なく、所有欲は減る方向だ)

まとめ②

所有動機のうち「即応性」という観点を掘り下げてみた。現在の所有の在り方において遊休時間があるものをシェアサービスにすれば良いのでは?と考えるのはもっともなのだが、果たしてその時に損なわれるファクターが無いか?をよく考えることが私たちには必要だろう。

さらにおまけ:巷で流行っているサービスは何をシェアリングしているのか考察してみる

Uber Eats:これは配達員というリソースを地域でシェアリングしていると考えられる。先ほどの即応性の検証からするに、地域内で十分な配達員が確保できてさえいれば、店舗側は自前で配達員を確保する必要がなくなり、固定費を削減することが可能だ。

メルカリ:個人の押し入れ・本棚・クローゼットなど、あらゆる収納をユーザ間でシェアリングしていると考えられる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?