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長めの独り言「痛バ考察」

地下鉄の駅直結の地下街、
地上への出入り口前の広場に若い(または若そうに見える)女性たちがたむろしている。

調べてみるとこの近くのホールで2次元アイドルの
イベントがあるらしい。

多くの女性が姫系というか、ゴスロリというか、
ホワイトロリータというか、
「女の子らしさ」「可愛らしさ」を凝縮して煮詰めた類のお洋服を着て、目の周りはなんとなく赤めにして一生懸命メイクしたんだな、気合い入れておめかしして外界に出てきたなって感じだ。

足元に置かれたカバンの表面は缶バッチで埋め尽くされており、よく見るとすべて同じイラストが描かれている。たぶん推しのキャラクターの缶バッジだけをひたすら集めたんだろう。

こういうのを巷では「痛バ」と言うらしい。
「痛いバッグ」の略で、自分の好きなアイドルやキャラクターグッズを全面にあしらった、とにかく自分の好きを詰め込んでそれを全方位に見える状態に仕立て上げたカバンのことだ。

恥ずかしげもなく自分の性癖を周囲の人にひけらかす「見ていられない痛々しさ」から
「痛いバッグ」、略称「痛バ」と言うことだ。

缶バッチがまるでウロコの様にカバンの表面を覆っている。あれは、いざとなれば盾として自分の身を守るのに役立つのではないか。
首相のSPはあれ持って警備にあたればいいんじゃないか。
中々強そうな防具だと思ったが、好きを全面に出して白い目で見られてもなおカバンの表面に愛を並べている彼女たちはおそらく有事の際にはあれで身を守るどころか自身を盾にして痛バッグを守るに違いない。

盾という役割を担える能力がありながら
持主を盾として使う、痛バというのは
ちょっとした呪物ではないか。

そうだ、呪いの盾だ。
強力な力を持っているが、
装備してしまったらそう易々とは外せない。
教会に高いお布施をして呪いを解いてもらうか、
解呪の呪文を唱えて
盾ごと呪いを破壊するしかない。

…というのはあくまでドラクエでのゲーム設定だが実際のところ、オタク活動(または推し活動)は好きなものを愛でる時間に得られる悪魔的な高揚感を受給しつつ、世間からの冷ややかな目やグッズやイベントでとめどなく出ていく資金、そしていつか愛したこのコンテンツが供給されなくなるのではという不安など多彩なダメージが襲ってくる。その上で今日あの場所にいた彼女たちは痛バを装備することを選んだんだろう。そしてきっと長いこと装備は外すことはできないんだろう。

うん。やっぱり痛バは特級呪物である。

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