理想的な放置ゲームを求めて


ここでの放置ゲームの定義

まず、放置ゲームの定義から決めておこう。私が考える放置ゲームは、ゲームを直接操作しなくとも進捗が発生するゲームを指す。そして、頻繁な、並びに定期的なアクセスが求められる必要もなく、そしてゲームの展開が操作していない状態においても行われることが求められる。

日本市場の放置ゲーム

残念ながら、私が求める放置ゲームの定義に合致した日本産のゲームは存在していない。
 伝統的に日本語コミュニティの中で語られている、ゆけ勇者!や僕の魔界を救って、冒険者ギルド物語2といったゲームは、一般的に放置ゲームと考えられている。ただし、これらのゲームは結局とのところスタミナ制度の先取りでしかなく、準備の後出撃したら、あとは結果が後で得られるという仕様であり、これが擬似的に放置しても進捗しているという錯覚を覚えているに過ぎない。
 1時間後に結果が得られるというのを裏返すと、1時間待機すると、1時間分のダンジョンを1回攻略できるスタミナが溜まった。というのと同義になる。他の商業的に成功を収めている大型のソーシャルゲームと実質的に同じ土俵に存在しており、結果がリアルタイムにフィードバックが得られない分、ゲーム体験が損なわれている欠点がある。素直にスタミナ制のゲームとしてやりたいものだ。

海外市場の放置ゲーム

海外といっても市場の種類が限りなく広く、そして全数を把握することは困難である。そのため、筆者が把握している英語圏市場、中国市場、ロシア市場に限定している点ご容赦願いたい。
 放置ゲームを語る上で切り離せないのが、Progress Questであろう。そして、その派生形としてのGodvilleであり、完成度、ゲーム性として極めて高い水準を誇る。
 英語圏、特にロシア語圏においてGodvilleは圧倒的なその地位を有しており、極めて高い定着率を誇っているようだ。
 このGodvilleに関しては筆者の過去の投稿を参考にして頂きたい。

 放置ゲームとして一般的に広く認知されているカテゴリとして、クリッカー系ゲームというものもよく挙げられる。ただ、基本的にユーザ操作を前提とし、完全放置で進めるというものよりは、絶えず操作を続けていくことで気持ちよく進捗が得られる、一定時間ゲームをプレイしていない時間帯があったら、ご褒美程度の報酬が得られるもの、というような位置づけというデザインのものが主流のようだ。

放置ゲームとラベルされたゲームたち

さて。厄介な問題が出てきてしまった。商業誌や一般に普及しているゲームにおいて、放置ゲームと扱われているゲームと、私が望んでいる放置ゲームとが乖離してしまっている。
 具体的な批判をする場ではないが、放置ゲーム特集として紹介されているゲームは、ただのガチャゲームか、クリッカー系ゲームばかりであり、ノイズでしかない。特に、ガチャ要素が含まれているゲームは、結局のところガチャによる希少レアのリソースを獲得することにゲーム性を持っていかれてしまっており、放置ゲームという分類のものとはそもそも相反すると考えている。
 一般的な商業的に成功しているガチャゲームに、ログインしていない時間帯においてもリソースを得る手段が用意されているゲームを、放置ゲームと呼ぶのはやめていただきたい。クラシカルなガチャゲームでも、ログインしていない時間帯にスタミナが回復するというギミックがあったではないか。そのスタミナが、リソースなりなんなり、少し味を変えただけで誇らないでほしい。
 そして、ログインしていない時間が、例えば24時間分までリソースが貯められるというありがたいような仕様がある。でも、それ非放置ゲームのデイリー配布と何が違うんだ?プレイヤーの進度に応じたリソースが提供される。ただそれだけじゃないか。
 何より一番理解できないのが、なんでこいつら延々と的と戦い続けているんだ? という違和感。特に、美少女キャラたちが毎分黙々と戦い続ける、中華系の放置ゲームと呼ばれているゲームたちは意味がわからない。ゲーム起動時にも延々とザコ敵と戦っているにも関わらず、そのキャラクターを使ってアリーナという対戦や、別の出撃や遠征要素をこなすこともできたりする。1人のゲームの中にいるキャラクターではないのか?複数に分裂しているのか?生活感も、冒険している感も、その1人の人格として存在している感もない。なにより、ガチャでそのキャラクターが複数出てくるということ自体意味がわからない。合成?限界突破?なんだよそれ。おめー同じ見かけの人間を2人つなぎ合わせて1人の人間作り直してるのか。そのゲームシステムを、ゲーム内の世界観で説明していないというお粗末な作品が多すぎる。

 ということで、ノイズでしかないものばかりで辟易とした。本当に望ましいゲームは存在しないのか。

自分で作ればいいじゃない

 ということで作った。いくつかのバリエーションがあるが、そのうち3つを紹介したい。嗜好的な理由で、ソースコードやコメントが全て英語なのはご容赦願いたい。
 ここで公開しているソースコードで、筆者が作成している部分については完全に自由に利用(商用利用含む)していただいて構わない。実装箇所の不明点についての問い合わせは、覚えている限りでは回答するが、何分3年以上前の話だ。期待はしないでほしい。

実際に作成したプログラムたち


Unityで作った、冒険者ギルド物語2に強く影響を受けた放置ゲーム。UI部分が沼となり、コード及び不具合の大半がそこに割かれている。あまりに標準で用意されているUI機能が貧弱で泣いた。


Phytonで作った自動戦闘エンジン。コンソールベースで動作し、サーバ駆動を想定して作られたもの。やはり冒険者ギルド物語の追撃反撃再攻撃を意識しているが、反撃や再攻撃に関わる発動条件には少しオリジナリティを加えている。


C#のコンソール前提で作られたターン制バトルゲーム。前述のUnity版の元となったもの。

iOS Swift版 ゲーム
 最も初期に作成していたもの。GitHubで管理していなかった。というかどっかに行ってしまった。どうしていたっけ。


しかし、完成に至るまでの水準にまで持っていくことはどれもしていない。途中でやめてしまっている。

それは、ゲームの戦闘エンジンの部分に思い入れがあり、それをベースとして作り上げていったのだが、本質的な問題にぶつかってしまい、解が得られなかったためである。
 商業的に成功しているソーシャルゲームの戦闘システムともろに被るという点と、結局のところは個人開発では物量で負けるので、ゲームの楽しさという点での強みが活かしきれないという壁があった。
 ゲームを開発してテストし、それを評価して検討していったが、単調で面白みにかける、それを楽しくするためには物量が必要、その物量を用意すること、それの調整が大変面倒ということであった。

 自動戦闘を前提として組み上げて言っていたのだが、そうすると能動的に干渉できる他の商用ソーシャルゲームのものよりも、ゲームの自由度が下がり、そして物量的な意味でも劣るといういいことない状態に陥ってしまうのだ。

ビルドの自由度という可能性

 放置ゲームというジャンルとは関わらないが、ゲーム進行そのものが自動で行われるということを前提としている関係で、そのビルドの楽しさ、自由度というのが肝になっていく。
 この部分に関して、イニシャルでリリースした際に完全に仕上げるのではなく、バージョンアップを重ねてプレイヤーからのフィードバックを経て、年輪のように少しつづコンテンツの追加や、新しいギミックの追加により少しずつインフレを重ねて勧めていくという運用が望ましいだろう。
 多彩な装備や奥深いビルドといったものに非常に惹かれていた時期があったが、これは長期間にわたり運営され、過去のバージョンアップに伴うゲーム性の遷移やコンテンツの追加による、物量の暴力による楽しさであり、ゲームシステムによるものではない点に気づくのが遅れてしまった。

AI出現による、本来求めた放置ゲームの可能性

さて前置きが長くなってしまった。ここからが本題である。
本当にやりたかった放置ゲームはなにか?

それは、自分がゲームをプレイしていないときにもゲームが進捗することである。
進捗するということは、何もリソースがその分得られるというものだけではない。4時間放置したら、4時間分のリソースが手に入る。それの何が楽しい?
 そんなものを求めていたわけではない。自分がゲームをしていないときにも、ストーリーが進んでほしいんだ。

放置したあとで、見返してみて、「ああ、こんな展開になっていたのか。そしたら、こうしよう」というものや、
非操作時において「ん?なんか通知が来た。ああ、それね、やめておいたほうがいいんじゃないか?やめておくよう進言しておこう」といった、ゲームをアクティブに起動していないときでも、リアルタイムに何かが進行している、そして、放置の内容や結果が予測困難であること、それらの状況に応じて対応の仕方が変わってくるというもの。それが大前提ではないか?

プレイヤーの干渉と、自動で進行する物語

 どんなものが望ましいのか。それはGodvilleのゲーム性が一つの取っ掛かりになるかもしれない。
 Godvilleは完全な放置ゲームではない、アクティブにプレイヤーが操作する要素が存在するが、ゲームの大半を占める要素が、ただ眺めるだけというものである。しかし、ここぞというときに、自身のキャラクターに干渉し、望むべき結果に持っていくというものが、そのゲームの奥深さを演出している。
 観察し、そのキャラクターの振る舞いを理解することが、そのゲーム進行に貢献することに繋がるという要素に繋がる。これは、GodvilleのSavingsのゴールを達成する上で極めて重要な要素となっている。詳細はこちらを参考に。

また、この記事及び、

英語圏向けのこちらの記事も参考にされたい。(筆者が英語圏コミュニティ向けに作成した記事である)

ここでポイントとなるのは、放置した期間において、おおよそプレイヤーが何するのか予想がつくが、往々にして想定外の事象が含まれ、計画通りに行かないということ。
 日本系や中華系のゲームであるスタミナ。あれは1時間にXだけ回復する、というように予見でき、基本的にそれに従って回復する。未来予見性があり、不確実性は極めて少ないように設計されているものが大半ではないだろうか。
 それに対して、Godvilleは、スタミナに相当するGod Powerは、時間で回復しない。もちろん、時間が経てば立つほど回復する機会は多くなるため、結果的に回復することになるが、効率よく積極的に活動するためには、それを最適化、効率化する必要がある。そのためには、キャラクターの行動パターンを理解し、最適なタイミングで最小のアクションを取る必要がある。(アクションを取るにはGod Powerが必要となる。God Powerを回復するためにGod Powerを的確に使う、収支をプラスになるようにうまくしないといけないのだ。)
 仕事や睡眠、他の活動でゲームを見られない時間帯がある?問題ない。マイクロマネジメントをしなくても、勝手にキャラクターはゲームを進行する。過干渉すれば、より短時間で多くの進捗が得られる可能性がある、というだけである。日系や中華系のゲームと異なり、1日どころか1週間放置していても、その分の結果が得られることができるのが大きな特徴だ。毎日ログインを強いる日系や中華系のゲームと明らかに目指しているものが異なるということがわかるだろう。

AIを使った対話型ゲーム進行の可能性

 Godvilleはもう12年以上前のゲームであり、かなり放置ゲームとして王道を行くデザインである。道中のイベントはランダム性が高く、また、イベントログは基本的にランダムで、それぞれのログに関して相関性はない。
 クエストと呼ばれるものがあり、大体12時間に1回クリアできるような設計がされており、これがゲーム性の深さを加えている。しかし、クエストの内容を深く突っ込んだものではなく、あくまでフレーバー的な要素にとどまっている。

 いままでは、それが限界であったであろう。それぞれ固有のクエストに従ったゲーム進行など、恐ろしい物量、テキスト量が必要であっただろうから。

 そんな中、AIブームが巻き起こされた。ChatGPTを代表される、対話型Aがブームになった。
 このAIをゲームに組み込めば、実現不可能であった、ゲーム進行の文脈に即した、即興のストーリー構築と、それに伴ったゲームイベントの生成、ゲーム判定やゲーム処理が可能になるのではないか。

 クエスト「赤ずきんにりんごを届ける」というものがあったとしよう。キャラクターは、「りんご」を手に入れて、「赤ずきん」を探し出し、「りんご」を「赤ずきん」に渡すことがゴールになる。人間がゲームマスターであれば、なんてことはない非常にシンプルなクエストであろう。
 それを、ゲームシステムとして実装するとなると、とても恐ろしいことになる。このクエストだけを個別に実装するなら楽だろう。しかし、同じように他のクエストも1つ1つ実装していくとなると、、、?
 クエストによっては、狼と戦うことになるイベントがあるかもしれない。お忍びの貴族を護衛するクエストもあるかもしれない。迷子の猫を探すというのもあるかもしれない。それぞれが、それぞれ全く異なるゲーム性を秘めたイベントになる。
 専門的な話になり申し訳ないが、クエストのマスタを管理するだけではすまず、ゲーム性、プログラムの実装を個別に作り込まないとうまく表現できないというレベルの違いがあるのだ。
 もちろん、護衛任務、探索任務、討伐任務、というようにいくつかのカテゴリに分けて実装し、細かい点についてはテキストを異ならせるというように実装する事もできるだろう。やるとなったらそんな感じに持っていきたい。

 が、それでは、予め定められたストーリーをなぞるに過ぎない、偶発的な要素に極めて弱いものになる。
 赤ずきんにりんごを届けるクエストであるが、突然狼が襲ってきたら?
りんごを買うときに、店主が最近狼が出るようになったから気をつけろというランダムイベントが割り込んできたら?
 キャラクターはそれに反応して、護身用の猟銃も用意しておかないといけないかもしれない。
 プレイヤーが介在して、赤ずきんのみの安全を先に確保するように、キャラクターに指示を出せたら最高だろう。
 決められたコマンドを使って指示を出すには限界がある。

 でも、ChatGPTのようにテキストを介して会話・意思疎通を取ることができたら

 ChatGPTのように、動的に、前後の文脈を踏まえて、面白い展開をランダムで割り込ませてきたら?(前述のように、狼が出るようになったというようなフラグを立てる)
 
 あなたはこれから睡眠をする、8時間は寝るのでその間、操作することも干渉することもできなくなる。そんなときに、
 「私はこれから8時間ほど寝る。なんかあっても私に判断を仰がず、自分自身で解決してほしい。何かあったら自身の判断で<貴重なリソース>を10までなら消費してもらって構わない。幸運を祈る」
 というようにテキストチャットして、キャラクターに意思決定の裁量を委任することもできたら?
 この<貴重なリソース>は一般的なソシャゲでいう魔法石のような貴重なもので、それを使うことで復活や体力の回復的な、強いスキルを使えるようなものと置き換えて考えてもらいたい。

 これが私が求めた放置ゲームではないか?

他のプレイヤーとのクロスオーバー

 放置ゲームではあるが、同じ仮想世界で旅をしているということで、クロスオーバーもあり得るだろう。
 一般的なソシャゲと違い、プレイヤーは常時接続する必要はない。キャラクターが自律的に意思決定をしてクエストが進んでいく。
 もちろんプレイヤーが介在すれば介在する分だけ得られる結果は良くなるかもしれない。
 他のキャラクターと交流してクエストを一緒に勧めていく、自分が不在で操作できない状態であっても、他のキャラクターのプレイヤーが介在したことにより、そのクエストが成功する可能性を高めてくれるのであれば、それは面白いこととであろう。
 特に、その他のプレイヤーの紡ぎ出すストーリーは、あなたが今まで作り上げていたストーリーとは世界観が異なるものであろう。そういう異なる刺激をもらうというのも、面白い醍醐味になると考えている。


そんなゲームがほしい。それが理想的、と思っている。



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