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光に向かって軽やかに Paul McCartney 『McCartney』

「最後はいつも歌いなれたあの歌に戻った」と、ポール・マッカートニーは「The Song We Were Singing」という曲のなかで歌っていた。ポールには、ギターにベースにドラムっていう、シンプルでストレートなロックがいちばん似合っていると思う。ジョン・レノンがそうだったように。
 エルヴィス・プレスリーの「Heartbreak Hotel」やジーン・ヴィンセントの 「Be-Bop-A-Lula」、そして昨年亡くなったリトル・リチャードの「Tutti Frutti」 みたいな歌には、時代を超えて聴く者の胸を打つ強靭な力がある。深い夜の闇が広がる「Heartbreak Hotel」には、音楽やロックの秘密のようなものが永遠に内包されているように思える......。
 ポールの 1st ソロ・アルバムである本作にも、それらの楽曲と同じような普遍的なしなやかさと強さを感じる。なによりも、なんの無理も感じさせない、その軽やかさに僕は瞠目した。ただ、発表当時はビートルズ脱退後初の作品として注目を集めただけに、肩透かしをくらったようにファンや評論家は感じたようで、評価は散々だったようだ。僕は高校生くらいのときに初めて聴いたときから、今も昔もポールの作品では本作がいちばん好きだ。
 冒頭の「The Lovely Linda 」はこのアルバムでいちばん好きな曲で、短い曲だがポールの優しさが伝わってくる。「Every Night」もよく口ずさんでいたし、シンプルでありながら、タイトでどっしりとした重心を持った「That Would Be Something」も大好きな曲だ。歌詞は本当にシンプルだけど、大事なことは全部つまってる。エルヴィスの「That`s All Right」みたいにね。
 軽やかであること、シンプルであること、真実があること。このアルバムには、そのすべてがある。

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