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60歳手前で、SEから農家に転身。農協に頼らず、140種類以上の西洋野菜を栽培・販売する理由とは?

「ファーム塚田」は、茨城県古河市で農協に頼らず、カラフルで目新しい西洋野菜を年間140種類以上、栽培・販売している専業農家です。塚田夫妻が手掛けるユニークな西洋野菜の数々は、道の駅やポケットマルシェで人気を博し、TV出演の依頼が舞い込むなど、世間の注目を集めています。

前職システムエンジニア(SE)と事務の塚田夫妻が、「ファーム塚田」を設立したのは2020年6月と最近の話。「なぜ50代後半から農家に転身し、西洋野菜の栽培・販売に注力しているのか」、その理由につき、インタビューを通して迫ってみたいと思います。

写真右:塚田 仁さん(62歳)
写真左:塚田 恵子さん(59歳)

導かれるように、夫婦そろって農業の道へ


ーー農業を始める前はどんな仕事を?
 
仁さん:
私は大学卒業後、1984年に入社して2017年に退職するまで、ずっと同じ会社で働いていました。その会社が手掛けていたのは、汎用機や大型コンピューターといったシステムの導入・保守。最初の10年はSEとして、以降はプロジェクトマネージャーの役割を担っていました。
 
ーー30年以上も勤められた会社を辞めた理由は?

仁さん:
いくつか理由はありますが、一つ目は心身ともに疲れを感じていたことです。退職間際は、残業で深夜2時頃までオフィスに残り、泊まり込みで働くことが多かったんです。残業がない日も、片道2時間以上かけて通勤していたので、この生活スタイルは体力的にも精神的にも相当きつかった。ストレスで睡眠薬を飲まないと寝付けない日もありました。
 
二つ目は、手掛けていた大きなプロジェクトの終了と、長年の担当顧客が変わるタイミングが重なったことですね。「定年間際で一から新しい顧客と関係性を築くのは厳しい。何か新しいことをやるんだったら、体力が残っているうちがいい」という思いがあり、早期退職を決めました。

恵子さん:
夫は不整脈が出ていましたし、健康面はすごく心配でしたね。私は退職を考えていると聞かされた時には、全く反対しなかったんです。“良いんじゃない”と。その頃には私も会社を辞め、実家の畑を借りて家庭菜園をはじめていたので、気持ちに余裕があったのかもしれません。

ーー恵子さんは、以前どんな仕事を?
 
ずっとオフィス仕事で、医療事務とか会計関連ですね。職場での煩わしい人間関係に疲れちゃって。女性同士だと、いろいろ気苦労があるんですよ(笑)。そんな時にTV番組で家庭菜園が特集されていて、“自分の好きな野菜を育てられるのは楽しそうだなあ”と。私の実家は農家でトラクターや肥料が揃っているし、趣味として約20平方メートルの土地ではじめてみることにしたんです。はじめは、農業でお金を稼ごうとはまったく思っていなかったですね。

仁さん:
私も農業で生計を立てようと思って会社を辞めたわけではないんですよ。退職後に、古河市で前職の経験が活かせる仕事を探してみたんですけど、IT関係の仕事は全くといっていいほどありませんでした。そんな時に、以前プロジェクトを共にした方と話す機会があり、「ウチのプロジェクトを手伝ってくれないか」と声をかけてくれまして。個人事業主として週に3日、プロジェクトのサポートに入ることになりました。

残りの週4日は手が空いていたので、家内の家庭菜園を手伝うことにしたのですが、その頃にはストレスに悩まされることが減り、精神的にだいぶ楽になっていましたね。青空のもと、農作業するのは気持ち良いんです。フリーランスのSEとして週3日東京で働き、残りの4日は農業という生活が3年ほど続きました。2018年から最寄りの道の駅に出店し、販売もはじめていたので、家庭菜園の域は早々に脱していたと思います。

ーー専業農家になるきっかけは?
 
仁さん:
フリーランスで請け負っていたプロジェクトがひと段落した時に、コロナが襲ってきたことですね。家内と「もう電車で東京に行くのはちょっと危ないよね」という話になり、農業に専念しようと、20206月に「ファーム塚田」を設立することにしました。

「基準」と「正解」がない面白さ

ーー西洋野菜を栽培したのは2017年から?

恵子さん:
いえいえ。最初は指定14品目の野菜が中心でした。玉ねぎだったり、キャベツだったり、大根だったりっていうのが主だったよね。

仁さん:
そうだね。2017年の秋ぐらいから2018年にかけて、ちょっとずつスイスチャード(葉茎の形がホウレンソウに似たカラフルな野菜)やピンク色のカリフラワー、黄色のビーツといった一風変わった西洋野菜を育てるようになっていったんです。

ーー西洋野菜が増えていった理由は?

仁さん:
ここから車で5分程のところに道の駅があって、栽培した野菜を卸してもらおうと交渉した時に、指定14品目の野菜はすでに他の農家さんと契約されていることがわかったんです。だったら、「ファーム塚田」は変わり種で勝負しようと。2018年から「見たこともない野菜」をキーワードに栽培品種を選んでいきました。ジャガイモだけでも7~8品種あるので、2018年時点で栽培品種は100を超えていましたね。

恵子さん:
素人の私達が西洋野菜の栽培に成功したのは、東京西洋野菜研究会さんと、偶然にもつながりを持てたのが大きかったですね。東京西洋野菜研究会さんからトキタ種苗(イタリア野菜の開発で知られる老舗種苗メーカー)さんをご紹介いただいたり。「この西洋野菜はこういう風に作付けした方がいいよ」といった情報をいただけるのは、本当に有難かったです。メーカーの担当者から正確な情報をもらえるので、安心して栽培することができました。

ーーずばり、少量多品種で西洋野菜を育てる面白さとは?

仁さん:
農業の自由度がある点だと思います。少ない品種を大規模栽培する場合、形や大きさ、重さに基準があって、ある程度揃えなきゃいけないじゃないですか。ウチが栽培している西洋野菜は、まだ市場に基準というものがないので、厳密に形や大きさを揃えなくても出荷できるんです。なので、私たちが本当に美味しいと思ったタイミングで収穫できるのも魅力ですよね。もちろん美味しい頃合いを見極める難しさはありますが、その苦労も楽しいんです。

「このタイミングだと美味しいね」「やっぱりちょっと早かったかも」と家内と試行錯誤しながら、野菜ごとにベストな収穫タイミングを見極めていく。そうして日々楽しみながら農業できることが、少量多品種で西洋野菜を育てる面白さなのかなという気がしています。

恵子さん:
ほんとにそう。正解までのあたりをつけて、「去年は駄目だったから今年はこうしよう」とか、毎年いろいろな経験が積み重さなっていくのは、すごく楽しいですよね。やっぱり野菜は素直なので、自分たちが手をかければ手をかけるほど素直に育ってくれます。私、野菜と向き合っていると無性に愛おしくなり、たまに話しかけちゃったりするんですよ。ちゃんと元気に育ってねって。

農協に頼らない理由

ーーファーム塚田の運営は、ご夫婦二人で?
 
仁さん:
そうですね。他の人の力は借りず、種まきから収穫、販売まで二人で行っていますが、お互い興味があるところが違うので大まかな役割分担をしています。栽培する野菜の種目や品種を選定し、育てるのは家内が好きなので“生産”は主に家内が。私はどちらかというと、「作った野菜の売上をどうやって伸ばそう」とか、「新しい販路をどうやって開拓しよう」とか、“販売・流通”に興味があるのでそちらを担当しています。
 
西洋野菜に詳しいお客さんはあまりいらっしゃらないので、道の駅でそのまま出荷しても、手にすら取ってもらえないこともある。そこで野菜の特徴を3行ぐらいで記したシールを貼って出荷したところ、販売数が増えたんです。どうしたらこの野菜の魅力が伝わるだろうと、PRの文章を自分なりに考えるのは面白いですね。こちらは新理想という白菜を販売するときに、作ったシールです。

調理の仕方を記載する工夫も!
野菜ソムリエのシールも仁さんの手作り。
道の駅で実際に出荷されていたもの。
料理レシピも同封するなど、手に取りやすい工夫が盛りだくさん。

ーー野菜ソムリエ資格の取得も?

夫婦そろって取りました。やっぱり最初私たちは素人だったので、安心して野菜を手に取ってもらうために必要だと思いまして。私は「野菜ソムリエプロ」の資格も取ったんですけど、販売・流通手法を考える上で、資格は役に立ちました。
 
野菜ソムリエプロになる過程では、販売の知識から、陳列や農薬に関する法律まで、野菜を売るために知らなければならない多くのことを勉強させてくれたので、道の駅やポケットマルシェ(※)での販売にとても助かっています。私たちは農協を通してないので、流通に関して勉強する必要性があったこともありますね。
 
※農家さんが旬の食材をインターネット上で出品・販売できるオンラインマルシェのこと
 
ーー農協を頼らない選択をした理由は?

仁さん:
やっぱり自分たちで値段を付けられないのは、面白くなくて。思いを込めて作った野菜に、自分たちで値段を決めて、実際に買ってもらえるところまでやりきるのが、楽しさにつながっているのかなっていう気がしますよね。「10円の壁」みたいなのもあって、10円の価格差で売れたり、売れなかったりすることもあるので、日々そうしたお客さんの反応を感じ取れるのも面白いです。

恵子さん:
道の駅で購入いただいたお客さんから、「塚田さんの野菜のファンです」と言ってもらえると本当に嬉しいです。ポケットマルシェだとお客さんとメールのやりとりができるので、お礼のメッセージをいただいたり、私たちの野菜を使った料理写真を送っていただけることも。「こんな風な調理の仕方もあるんだ」「こんな調味料とも合うんだ」と、勉強になりますし、メッセージや写真が届き夫と見るのが、日々の楽しみになっていますね。

次から次に、やりたいことが

ーー今後取り組んでみたい目標などあれば?

恵子さん:
西洋野菜の魅力を、もっと多くの人に伝えていきたいという思いがあります。そのための新しい取り組みが、「ベジフルフラワー」です。ベジフルフラワーは、野菜や果物をフラワーブーケに見立てた新しいアートで、お祝い事やパーティ用のプレゼントとして人気が出ているんです。(スマホを手に取り冒頭の写真を見せつつ)こんな風に、野菜をオブジェのように配置するんです。面白いでしょう。ベジフルフラワーアーティストプロフェッサー 李 美栄先生の作品に私たちの西洋野菜を使っていただいています。もちろん生の野菜を使っているので、鑑賞後は美味しく食べられますよ。


恵子さん:
ベジフルフラワーの他に、私たちは今年6月から、子供食堂への野菜の提供もはじめました。作った野菜が全てはけることは滅多になく、どうしても余ってしまうのはもったいないなと感じていたので、この取り組みは私たちにとっても嬉しいんです。
 
仁さん:
あと、私たちが今年やりたいと考えているのは、レストラン向けの拡販ですね。プロの料理人の方が、「ファーム塚田」の野菜をどのように評価し、受け入れてもらえるものかどうか、試したいと思っています。実は、知人の紹介でフランス料理のシェフの方と知り合う機会があり、栃木県のフレンチレストランに「ファーム塚田」の野菜を卸しているんです。レストランでは小振りな玉ねぎとかジャガイモとか、これまで泣く泣くロス品になっていた野菜が結構人気なんですよね。
 
お洒落なレストランの料理とカラフルな西洋野菜はとてもマッチするので、需要は多いと考えています。これからも家内と一緒に、愛情込めて作った野菜を多くの人に届けていけたら嬉しいですね。

取材後記

「こちらよかったら、どうぞ~」。
取材後に、仁さんと恵子さんにいただいたのは、色鮮やかな西洋野菜の数々。取材の時間をいただいたのに、お土産をいただけるなんて、ありがとうございます!
 
袋を覗くと、コリンキー、スティッキオ、ドルチェドリームとカラフルな野菜たちが勢揃い。
はじめてみる品種ばかりで、胸が高鳴る。「一体どんな味がするんだろう」。早速家に帰って調理開始。

まずは、コリンキー。 
普通のかぼちゃよりも断然切りやすい!
シャキシャキした食感で、生でかじっても美味しい。
和食風に煮込んだら、また味わいが変わって美味!
色合いも食欲をそそります。
次に、スティッキオ。
餃子がおススメとのことだったので、いただいたレシピをもとに調理することに。
スティッキオと豚ひき肉を混ぜて
皮に包んで、水餃子と焼き餃子に。
スティッキオの葉が良いアクセントになっていて、豚ひき肉との相性は抜群。
さっぱりした味わいが後を引き、箸が止まらない。
焼き餃子も美味♪
最後に、ドルチェドリーム。
 生でも食べられるということだったので、
ひとかじり。甘い!!! 
トウモロコシというより、まるでスイーツを食べている不思議な感覚。


「ファーム塚田」さんの野菜は、以下にて購入可能です。ぜひあなたも、カラフル&美味しい西洋野菜の世界を堪能してみてください。

■ファーム塚田のオンライン・マルシェ
https://www.farmtsukada.com/
 
■ポケットマルシェ
https://poke-m.com/producers/54226
 
■道の駅 まくらがの里こが
〒306-0111 茨城県古河市大和田2623

■青山ファーマーズマーケット 
※不定期で出店中。出店情報は以下Webサイトをご参照。
http://farmersmarkets.jp/vendors-sat/

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【ファーム塚田】
住所:〒306-0111 茨城県古河市大和田601-1
電話:090-7907-7028(電話受付時間9時~17時)

■Facebook
https://www.facebook.com/tsukada2018/

■Instagram
https://instagram.com/farm_tsukada?igshid=YmMyMTA2M2Y=
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取材・文/藤波 あつし

(終わり)




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