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ショートショート #10 『バイリンガルギョウザ』

 ちょっとアンタ、わたしの気持ち、ちゃんとあの人に伝えてる?

 ギョウザは、平身低頭しながら、ハイ、と小さく返事した。

 じゃあなんであの人、なんにもいわないの?

 ギョウザは西洋人のように肩をそびやかす。

 なにそれ?
 あんた、中国人でしょ?

 もう頼まない、自分でなんとかするから、と彼女が啖呵を切ると、それがいい、それがいいとギョウザは何度も首肯した。

「水餃子は、ないわ」
 出た。カレお得意の歯に衣着せぬ攻撃。
「本場中国では、餃子といったら水餃子だけど」
「オレ日本人だから。餃子といえば焼餃子」

 なにしてもうまくいかない。

 するとギョウザは、おそるおそる口をはさんだ。

 いわく、男の細かい難癖は、別れの合図。

 あのね、アンタはわたしの気持ちを伝えればいいの。向こうのことなんて、伝えなくていい。

 そういうと、彼女はギョウザを口に運んだ。ほら、煮ても焼いても美味しいじゃん。

 いかにも。
 あなたにギョーザの気持ちはわかるめぇ。

(410字)

葛飾立石『蘭州』の焼餃子と水餃子

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