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ショートショート #3 「音喰」

「連中も派手に狩ったな」
通称「始末屋」第五連隊副官が独りごちて目を覆う。

元より電磁波で意思の疎通を行う私たちに、独り言という概念はない。地球語に馴染んだ結果、私たちの語彙は否応なく豊かになった。

南国の美しい田園風景だったろう。その一切が、プラズマ振動波で破壊された。

始末屋が拾うのは、声。かしこに転がるが、どれも腐って用をなさない。ヒトの声は日に日に腐りやすくなっている。おそらくは自衛として。

私たちは、声を食らう。しかし声は「乗り物」が死んで初めて分離される。



任務を終えた私は東屋で夕餉をとる。蓄音機をかけながらのひと時は格別。今夜はBillie Holidayの“Strange Fruit”。

密かに拾ったそれは、少女の声だった。ナマでは刺激が強すぎるので、燻製にして水気を抜いてから食す。タマリンドの馥郁たる香。そして母と父を呼びながら逃げ惑い、来る阿鼻叫喚に向けてのクレッシェンド。

これほどの美味はまたとない。


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