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ファッションは「コミュニケーション」。届け方は変わっても伝えることは変わらない|デザイナー 丸山敬太さん【出版記念企画 第一回】

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9月に出版が決まった、書籍「すこやかな服」。この「すこやかな服」というテーマで、ファッション業界のこれからについて、世代も領域も異なる方々にお話を聞く対談連載。

第一回の豪華ゲストは、「KEITA MARUYAMA」デザイナーの丸山敬太さん。26年前にブランドを立ち上げて以来、ファッション業界の常識が目まぐるしく変化してきた中を、丸山さん自身はどう考え、どう変わってきたのだろう。そして、変わらずに、大切にし続けているものはなんだろう。南青山にある彩りゆたかな直営店「丸山邸」でお話を聞いた。

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【PROFILE】1965年生まれ、東京都渋谷区出身。1987年に文化服装学院ファッション工科・アパレルデザイン科を卒業し、ファッション界へ。1990年にフリーデザイナーとしての活動を開始し、DREAMS COME TRUEのステージ衣装などのデザインを手がけたことで業界に名が知れるようになる。1994-1995年秋冬の東京コレクションにて、自らのブランド「KEITA MARUYAMA」をデビュー。1997年にはパリコレクションに進出。2013年にはJALの制服を手がけた。2015年に青山の旗艦店を「丸山邸 Maison de Maruyama」としてリニューアル。2020年4月には、GUとのコラボも話題に。

変わること、変わらないこと

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コウサカ:僕は、元々はクラシックなファッションも大好きなので、歴史あるファッションがもっとインターネット上で盛り上がってほしいと思っています。僕のやっているfoufouは勿論ファッションが大好きなお客さんも多いんですが「これまでファストファッションしか買ったことがなかった!」というお客さんも多いんです。foufouを入り口にしたときに「こんなにファッションって素晴らしいのか!」と知ってもらいたい。暗い話題が多くなってしまう業界ですがこういう時だからこそ純粋に楽しみたい。僕が何かできるとしたらこういう形なのかなと。僕はまだ今年30歳なので業界で活躍し続けている方からたくさんのことを学ばせてもらいたい。そんな思いで、この連載を企画させていただきました。

丸山:若いね〜。僕なんか、若者によっかかって生きていきたいよ(笑)。歳とると「昔はこうだった」とか言っちゃうからね。でも、ツールが変わっただけで、人間の本質は変わるわけじゃないから、一緒なんだなと最近思っていて。だったら、新しいことを知っている人たちとやった方が絶対にいい。あとは単純に、じじいよりは若者のほうが好きだから(笑)。

コウサカ:いいじじいになりたいです(笑)。

丸山:でも、世代の断絶があって、僕たちはいろんなことを止めてきてしまったという自覚があるんです。ファッション創世記とも言えるような僕のひとつ上の世代の人たちは、遊びに連れ回してくれて、いろんなことを教えてくれた。その末っ子気質をずっと引きずってきてしまったのかも。だからいま、上下交流していかなきゃと思っているんです。伝えていかなければいけないなと。おせーよって感じなんだけど(笑)。

コウサカ:それでいうと、僕らの世代は“一人っ子”っぽい気がします。デザイナーの友達も全然いなくて、反骨精神でやってきているところもある。

丸山:今の子は特に、上下も横もつながりがないよね。ヨーロッパと比べると、日本のファッションの歴史ってものすごく浅いんですよ。でも、仕立て服から始まり、デパートができて、アパレル企業が生まれて、仕組みはものすごく変わってきた。僕はテクノロジーの発展とともに、方法がどんどん変わってきたのを全部経験しています。

だから、変わらないけれど、変わっていくことが大事だと思っています。デビュー時から伝えたいことは変わっていないけれど、時代によって伝える方法は変えなければいけない。

コウサカ:僕も「変わらないために変わり続ける」ということは意識しています。始めたころはハンドメイドをしていて小ロットで生産始めて今では量産回したり、販売方法もライブ配信や試着会などの方法は変わってきましたが、「健康的な消費のために」というコンセプトは変わらない。このコンセプトは、ファッションブランドらしくはないかもしれませんが、仕組みからデザインしてブランドに落とし込んでいくこと、構造を変えることも、クリエイティブの一つだと思っているんです。

丸山:それが、新しいと思う。結局、「コンセプト」があることが重要で、中身はなんでもいい。コンセプトが自分の中から出てきて、それを表現していることがファッションだからね。

ユニクロも無印も、コンセプトがあってやっているからこそ、あれはひとつのファッションだと思う。もっとよりパーソナルなコンセプトに基づいたモノ作りがデザイナーズブランド。「仕組みをつくりたい」っていう姿勢自体も、ファッションの一つのカテゴリーだなって思う。

コウサカ:うれしいです。でも、以前、丸山さんが「昔は服を送るのも現金書留だった」と言っているのを聞いて、ある意味めちゃくちゃ「D2C」だな、やってることは一緒だなと思っていました(笑)。

業界の変化を全部経験してきたからこそ

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丸山:僕が学生の頃はバブルだったので、少し上の大人たちに遊んでもらいながら出会ったスタイリストとか業界の人が、コマーシャルやテレビのための衣装を作る仕事をくれていた。そんな中で作らせてもらった、ドリカムのコスチュームが話題になって、デビューコレクションに彼らが出てくれることになったんです。

コウサカ:最強なインフルエンサーですね(笑)。

丸山:本当だよね。それで、今思えば、ファースト・コレクションも、どうしてそんなことやったんだろうというくらいノリでやった。ほんっとーに、ノリです(笑)。

コウサカ:ノリや勢いは大事です。今でいうと「インターネット」というとてつもなく大きな社交界があって、そこで自分たちの世界観やキャラクターをどう可愛がってもらったりいじってもらうかを意識しているのかも。メディアに対しても「D2C」というトレンドワードに全ノリすることは危険ですが自分たちに芯があればあえて拒否する必要もない。D2Cに片足乗っかって取り上げてもらうキャッチーさやポップさもとても重要です。

丸山:名前も“マール”コウサカだもんね。ネーミングからしてキャッチー。

コウサカ:それもノリだったんです(笑)。

丸山:これまでは、作ったものを誰かを介さないとお客さんに届けられないという「思い込み」があったよね。そもそもアパレル企業が、百貨店でものを売るために作られた会社で、それが日本のアパレル業界なんです。最初は百貨店も盛り上がったけれど、だんだんみんな直営店を出すようになって、セレクトショップができて、今はインターネットができて、という流れですよね。

コウサカ:インターネットの功績は「時間」と「距離」をゼロにしたというところですよね。

丸山:そう。それが最初からあったネイティブ世代から学ぼうとするのは当たり前のこと。逆に、古き良きこともたくさんあるから、それは若い世代に伝えたい。うまくミックスしていくことがこれからのファッションを生き残らせることにつながるんじゃないかな。

インターネットとファッションの関係

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丸山:マールくんは「健康的な消費」って言っていたけれど、僕らが憧れていたのは、ブランド品を買い漁るような「資本主義」の頂点みたいなものだった。でも、このコロナも含めてまた時代が大きく変わろうとしていると思う。

高級品とかブランドものよりも、「本当にそのもの自体が素敵だから」ということにドキドキするようになってきてますよね。だから、お店はものを売る場所ではなくて、「何かを交換する場所」になっていくと思う。オンラインでもリアルでも。

コウサカ:僕は「インターネット」と「ファッション」って対極だなと思っています。ファッションは、お互いの秘密を交換するクローズドなやりとり。逆にインターネットはオープンが故に手順を間違えてしまうと、届けなくていいところにも届いてしまって誤解されてしまうこともあります。だから、どっぷりファッションが好きな人にとってはインターネットは難しいような気もしているんですが、丸山さんはどうやってインターネットとご自身のブランドを融合させていこうと思っていますか?

丸山:僕はむしろ、対極だなんて思ったこともなかった。なんで自分がこの仕事をしてるんだっけということを考えると、ファッションは自分にとって「コミュニケーション」。クローズドというより、人とつながるためのツールだから、インターネットと近いし、親和性がある。

コウサカ:なるほど。

丸山:僕は、服を作ることだけがファッションだとは思っていないんです。たとえば、日本の着物って、季節を先取りしたモチーフの柄を着るでしょ。それは、自分のためでもあるけれど、他人の目を楽しませたり、その柄を見て「ああ、そんな季節ですねえ」なんて会話が始まったり。そうやってコミュニケーションが生まれることが、おもしろいんです。

インターネットだと、より服じゃないものにも広がりやすい。いま、ブランドとして「ジャム」を作ってるんですが、それもファッションだと思ってます。

コウサカ:丸山さん、お菓子作りお好きですよね。Instagramでもみんな反応してましたね。

丸山:そうなんです(笑)。ブランドとして百貨店にジャムを卸したら頭おかしいと思われるけど、インターネットでパーソナルを知っている人からすれば、「敬太さんがジャム出すのは必然」と思ってもらえる。それが、人を介さずにダイレクトに物事を伝えていくことの面白さだと思っていて。

今までは限られた人の評価をすごい気にしていたんです。コレクションも展示会も、本当のお客様ではなくて、お客様を持っているメディアやバイヤーの意見に振り回されていた。今はライブ配信もできるし、そりゃあやり方は変わってくるよねっていうことを分かってきたんです。ようやく。

コウサカ:うんうん。それが僕はむしろ、直接お客さんに届けるしか選択肢がなかったんですよね。

丸山:マールくんの時代は、本当に服が好きじゃないとファッション・ブランドやらないよね。モデルでも誰でもブランド出せばすぐ売れるような時代じゃないから。どうやったらできるかっていう、方法から考えなきゃいけなかったと。

マールくんたちがやっていることで一番響くのは、直接お客さんに届けることを軸にしているところ。僕が期待しているのは、心を震わせるようなクリエイションを作りたい人が将来出てきた時に、インターネットの中でもそれが実現できるようになっていること。

業界が協力し、シェアして、次の世代に受け渡していく

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コウサカ:僕らの世代はファッションとインターネットの関係性において「土台を作っている」という世代だと意識しています。インターネットでもちゃんとファッションメーカーをやって文化を耕すことで、将来的に才能ある面白いデザイナーが「ブランドを始めよう」と思った時に、僕らがやっているような手段や方法も選択肢にしてくれたら嬉しいです。

丸山:日本って「自分がした苦労は誰もが経験するべきだ」みたいな感覚があるのがよくないと思う。たとえば、(ベルギーの)アントワープの人たちは国が小さいから、みんなが手をつないで協力しあって、知ってることは全部次の世代に渡すんですよ。

でも、日本にはその感覚がないから、全体のレベルを下げてしまっている。いろんな人がもっと知恵だったり、素材だったりをシェアしていきたいですよね。それって誰も損することじゃないでしょ。

コウサカ:その話を聞いて、僕たちがやるべきことのヒントが見えてきた気がします。今「foufou」のパタンナーさんにお弟子さんをつけて修行してもらっています。業界全体のためとかじゃなく、ブランドを続けるためにやっている。そういうことから、シェアしていけたらいいですよね。「業界全体を救うぞ!」みたいな力は僕はないんですがそもそも自分たちのキャリアやfoufouのためには職人さんが途絶えたら本当に困るんですよ。だからこそ本気で将来に向き合える。

丸山:縫製工場で若い人が働きたくないというのも、昔の人たちの働き方が効率的じゃないと思ってしまうから。お互いが向き合って新しいスタイルが生まれてくるといいよね。ロットをまとめたほうがいいとか、工場の立場になればわかることじゃん。閑散期をどうやってみんなで救っていくかとか。本当にやるべきことはそういうこと。

コウサカ:本当にそう思います。職人さんも僕らメーカーも同じ船に乗って「お客さん」だけに向き合えたら1番スムーズなのに業界のねじれた構造や忖度でうまく話し合えないこともあります。モノ作りの大変さは変わらないですね。

丸山:根本にある考え方は、「お客様がほしいもの」と「自分たちが作りたいもの」をどう繋いでいくかということ。値段が高くても、ちゃんと説明してあげることが大事。だから、若い人たちも諦めないでほしいんだよね。生地から作りたいと思ったらちゃんとこだわりきったほうがいい。

コウサカ:ちゃんと伝えていくことで、ものの良し悪しが分かる人を、増やしていくということですよね。

丸山:そう、「教育」も大切。なぜこの服は2000円で、この服は2万円なのかということを、きちんと説明したり、作る過程を見せていく必要がある。

コウサカ:僕も、これまで定番ブランドしか買ってこなかったようなお客さんが多いですが、ひとつひとつ丁寧に伝えていくことで、ファッションを好きになる入り口をどんどん作っていきたいです。

丸山:20万円の服を買うお客さんと、5000円のものを買うお客さんには、伝える言語が違う。これまでは、メディアや百貨店など、間に入ってくれる人にその言語の翻訳を任せてしまっていたんです。

けれど、それは誰に何を届けるかが違うだけで、本質は一緒だと思うんですよね。その服を着たらどういう気持ちになるかということ。これからは、それをひとりひとりに合わせて、自分の口で、伝えていかなければと思います。

ーー対談後に。

「マール君がやっていることこそとてもファッションだと思う。」と敬太さんに言われた時に本当に感激してしまった。

同時に、新しいものに対して柔らかく受け入れすぐに「自分だったらこうだ」と解釈しアウトプットの方法を考え出した敬太さんに畏怖の念すら感じた。

変化の早いファッションの世界でずっと走り続けている人はここまで柔らかくそして早く、それでいて大きい。

対談後、僕らの事務所にアトリエができた。ここから技術の継承は小さくだが始まり、クリエイションは絶えさせない。未来まで続く土台を僕らは作っていく意思を持っている。

敬太さんは自身のインスタグラムでよくライブ配信をするようになった。
商品や自分の感性について、お客さんたちからの質問にまるで友人と夜中までしっぽり飲みながら過ごす時間のように話す。恐らくずっとKeita Maruyama を応援している顧客の方々が多いのだろう。その関係性にすごく憧れる。

顧客とちゃんと時間を共にしながら新しいクリエイションを生み続け、新しいトライをし、それを顧客の方も楽しんでいる。

「なんだ、敬太さんこそめちゃくちゃちゃんとしたD2Cじゃないか!」と微笑ましくなってしまった。

(写真:今井駿介、文:若尾真実、編集:角田貴広)


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