見出し画像

切り取られること、嫌われることを恐れるな。|WWD JAPAN.com 編集長 村上要【出版記念企画 第二回】

9月に出版するfoufou初の書籍「すこやかな服」。この「すこやかな服」というテーマで、ファッション業界のこれからについてお話を聞く対談連載の第二回です。

第一回はこちら。

第二回ゲストは、WWD JAPAN.com 編集長 村上要さん。40年前に創刊した歴史あるファッション業界紙WWDジャパンもデジタルへの転換を迫られる中、3年前からデジタル部門で様々な施策にチャレンジして紙とは違う価値をつくり、ウェブメディアを盛り上げてきた編集長です。

権威や歴史のあるファッションも愛しながら、新しいビジネスや次世代の価値観も最先端で取材している彼だからこそ見えている、「ファッション業界の時代のはざま」と、それをどう乗り越えていくかというお話をしてくださいました。

画像1

【PROFILE】1977年7月7日生まれ。東北大学教育学部卒業後、地元の静岡新聞社で社会部記者を務める。退職後、ニューヨーク州立ファッション工科大学(F.I.T.)でファッション・ジャーナリズムを含むファッション・コミュニケーションを専攻。2度目の大学卒業後、現地でのファッション誌アシスタントを経て帰国。タイアップ制作、「WWDビューティ」デスク、「WWDモバイル」デスク、「ファッションニュース」編集長などを経て、2017年4月から現職。

確固たる「ブランド」は、解釈の余地がないから面白くない

画像2

コウサカ:村上さんといえば、メディアという立場から、ファッションのアナログからデジタルへの動きを一番近くで体感している人ではないかと思いますが、ファッションを取り巻く「コミュニケーション」も大きく変化しているもののひとつですよね。

いまの若い人たちは特に、見え透いた「広告」には心震えない世代。「foufou」でもまだ「広告」には手を付けていないのですが、今ってファッションにおける「広告」は、どう変わってきているんでしょうか。

村上:いきなり難しい質問きましたね。「広告」って基本的には“知らないものを知らない人に伝えること”だと思うのですが、今はもうそれが機能していない。「ブランディング」という名のもとで、ゆるぎないイメージを作り、ブレることが許されない慣習が生まれてしまっている。いつも同じような写真や言葉が使われて全く面白くない。知らない人に届くようなフックがないんです。

コウサカ:どこの雑誌でも同じクリエイティブの広告が使われていたりしますよね。

村上:そう。たとえば、全く逆の「TikTok」に対する反応が一番わかりやすい。「TikTok」はユーザーの作ったコンテンツが共感を生んで広がっていくモデルの最たる例です。最近「TikTok」とセミナーを開催したのですが、ラグジュアリーブランドなどのPRを担う方々からは「活用したい気持ちはあるけれど、イメージを毀損されるのが怖い」と。

「ブランディング」を、コンクリートのように確立されたイメージだけを多くの人に伝えることだと、錯覚している。むしろ、イメージの解釈の余地さえ与えてくれない広告は、他の解釈を知りたいと思っている人を置き去りにしてしまうんですよね。


コウサカ:どう切り取られてしまうか分からないことが恐怖なんですよね。僕は、最終的な受け皿として自分の素直な言葉で語りかけるInstagramやnoteなどのプラットフォームがあるので、少なからず枠が決まっているメディアで誰かに勘違いされてしまっても、多少問題ないと思っているんです。


村上:それは強いよね。「TikTok」ユーザーのような世代の特徴は、“かじる”世代なんだそうです。“丸かじり”なんてありえなくて、いろんなものを“ちょいかじり”する世代。不確実な時代だからいろんなものに手を出して保険をかけたいとか、一つのことにのめり込むのがダサいという風潮なのかな。

コウサカ:実は「foufou」でも「TikTok」やってるんです。他にもnote、LINEなど、いろんなSNSを“ちょいかじり”しています。そこで気をつけているのは、そのSNSでウケると分かっているセオリーを、ウケ狙いでやらないこと。ちゃんと、別のフックをつくるようにしています。片足は乗っかりながら、どっぷりは浸からない。そのプラットフォームが落ちてきた時に共倒れしてしまうから。

村上:ちゃんとリスク分散できているよね。古い考え方の人たちが「玉乗りピエロ」なら、「ジャグリング芸人」みたいな。ボールを1つ落としても、まだ複数のボールを操っているから大道芸として成立している。

「TikTok」の方が、ブランドも“ちょいかじり”される覚悟を持たなければいけないとおっしゃっていました。一生懸命作って、一口しかかじられなくても仕方ないね、というマインドに転換しなければ、ジェネレーションZを巻き込むのは難しいと。

「憧れ」と「親近感」の狭間で

画像3

コウサカ:個人的には、コレクションに出ているようなファッション・デザイナーの方々のくだけたところも見てみたいですね。バラエティ的に切り取られるのを嫌がる人もいそうですよね。

村上:切り取られることに対する恐怖感があるから人前に出ない。でもそれは打破していかないと厳しくなるだろうなと思っています。

たとえば「Louis Vuitton」のメンズデザイナーでもあるヴァージル・アブローは、いろんなチャネルでちゃんと思いを伝えていっているんですね。それに対して、日本のデザイナーって全く露出しないんですよ。僕も変えていきたいなと思っています。

コウサカ:ベールの向こうの「憧れ」を作り出す「ファッション」というものと、「親近感」を生み出す「インターネット」って、対極なのかもしれませんよね。

「foufou」は、そもそも「超憧れ」なハイブランドを目指していなかったので、ライブ配信もやるし、今のようなポジションになっていったんですが、歴史あるブランドがライブ配信をやるっていうと、憧れを見出せなくなるかもしれない。要さんはどう思いますか?

村上:うーん、あんまりそうは思ってないですかね。本当のハイブランドは、モノ自体が圧倒的に優れているんですよね。プロダクトが優れている以上、どれだけコミュニケーションがフランクになっても、存続できるんじゃないかな。

コウサカ:たしかに。ただこのブランドが、突然ライブ配信でデザイナーが直接伝えるべきだっけ、というケースもある。

村上:向き不向きはありますね。伝える手段が多いからこそ、自分たちがどういうブランドで、誰に届けたくて、だったらどういう方法があるのか、という順番できちんと考えなければいけないと思います。

嫌われる覚悟を持たなければ、中途半端なものになってしまう

画像4

村上:これまで「WWDジャパン」もデジタルを強化してきたのですが、紙の時代に作られた慣習から脱却できていなかったんです。デジタルならではの価値ってもっと別のところにあったりもして。だから、最近はYoutubeでトークライブ配信をしてみたり、記者の署名を入れてパーソナリティを見せたり、いろんな挑戦をしています。

でも記者はみんな真面目なので、Youtubeライブだとちょっと重すぎたりもして。難しいですね。マールくんは、ライブ配信好きですか?

コウサカ:好きですね。やっぱりお客さんの反応が見えるし。お客さんから「配信大好きお兄さん」と呼ばれてますからね(笑)。

村上:それは一番いいところですよね。あとは、編集部の人たちに、記事の中で「オピニオン」を発信するようずっとリクエストしています。意思や意見ってエモーショナルだからいろんな人が共感してくれる可能性があるんですよね。

コウサカ:正直、ニュースだったらどこでも見れますもんね。

村上:そう。一時期はスピード勝負なところもあったんですが、僕らが扱う(ファッションやビューティの)ニュースって、人の生死に関わるようなものではない。だから、じっくり腰を据えて、意見や議論を含めて書いていこうと思い直したんです。嫌われるのを怯えているうちは、中途半端なものになってしまう。むしろ、記事をきっかけに議論が喚起されるくらいがちょうどいいんですよね。

コウサカ:メディアへの「信頼」が、これまでの「正しさ」にプラスして、書き手の「本音」に左右されてくるということですね。今の世の中、意見が違うのは当たり前。で、あなたはどう思っているの?というところが聞きたいわけで。

村上:そうそう。まだ道半ば。まず、嫌われることに覚悟を持つことが大変。

コウサカ:いやあ、「WWDジャパン」という看板もあるし、難しいですよね。僕はそのへんバグってるから何でも意見を書けちゃうけど。要さんもそうですよね(笑)。

村上:だいぶ覚悟できるようになりました(笑)。でも普通はみんな、褒められなくてもいいから、とにかく怒られないように生きている感じがしますね。

取材対応してくれるブランドのPR担当の顔が浮かんで、ちゃんと批判的な意見が書けない記者もいます。でも、そうやって凡庸になってしまうと、その人たちから名前すら覚えられていなかったり。それじゃいけないなと。「WWDジャパン」は、個性ある記者たちの集合体になっていきたいと思っています。

コウサカ:歴史あるメディアがそうなってきたら、強いなあ。いい意味で、また「焦り」を感じます。

フラットな視点で、古い価値観を打ち砕いていってほしい

画像5

村上:僕は、デジタルとリアルの狭間を揺れ動いている状態なわけですが、それでも、世代的に価値観がフラットではないなと、ふと気づくことがあるんですよ。まだ、昔のヒエラルキーな価値観に囚われて生きている。たとえば、「WWD JAPAN.com」が扱うカテゴリーには、上から順番に「ファッション」「ビューティー」「ヘア」という歴然たるヒエラルキーがあるんです。僕たちではなく、業界の人は、そんな風に思っているフシがある。

コウサカ:へええ。今の人たちは、切り分けすらしていないですからね。新しい服買っても、髪を切っても、メイクを買っても、同じようにSNSに上げるし。服と並列で、コミュニケーションのひとつでしかない。

村上:そうですよね。そういうヒエラルキーにまだ少なからず囚われている自分を、意識して打破していきたいなって思います。

最近では、コロナの影響もあって、ウェブの広告収入が紙をぐいっと抜いたんですよ。でも、すべてデジタル化していかないとダメだという考えはまた、間違っている。紙でいい記事を書く記者がいるなら、その能力を生かしていくことを考えるべきで。

コウサカ:僕は、ブランドを作ったときに、既存のファッション業界の人たちから評価されるわけがないと思っていたんですね。でも最近は時代の流れが変わって歴史あるブランドの方から声をかけていただくことも増えました。

僕が買い物をするときはファッションそのものが好きなのでブランドもメーカーも古着も関係ないんです。インターネット上の議論では百貨店が悪者のように扱われていたりするし僕もディスラプターのように言われることもあるからこそ、百貨店で買い物するのも楽しいじゃんって言っていきたい。断絶をしないように、つないでいくのが僕の役割かなって。

村上:そうですよ。ぜひそうしてもらいたい。

コウサカ:そういう意味でも、僕らの世代にできることって、いろいろあるのかなと思っていて。先日、丸山敬太さんへのインタビューの中でも世代間をつなげていきたいという話があったんですが、要さんは、僕らの世代に何をしていってほしいと思いますか?

村上:そうだなあ。まずは、上の世代を見捨てないでほしいですね(笑)。彼らが退場するの待とうというより、「一緒にできることないですか」って歩み寄ってほしいし、「いやいや、そんなんだからだめなんですよ」って叫んでほしい。

コウサカ:どうしても距離感があるので、話しに行っても煙たがられるのかなと思っていたのですが、今回の企画を始めてみて、もっと後輩感を出していこうかなと思いました(笑)。

村上:一緒にやったら、みんながやっているビジネスに“規模”とか“知見”とかが掛け算されて、より面白くなったり、より早く認知される存在になれる可能性があると思っています。逆に、本当に古い価値観に縛られている人も多いので、ぜひ新しい価値観を教えていってあげてほしいですね。

ーー対談後に。

「伝える手段が多く、誰でも伝えることができるからこそ、”伝わる”のは難しい」時代だと思う。また「伝わってる感触」を得るのも容易くはない。

そのために発信側はいかに「純度の高い数字」を抽出できるかが肝だ。
一時的なバズによって作られた数字は要さんの言う通り「ちょいかじり」されて吐き出されるだけなのかもしれない。

長期的な視点で見るとそこで生まれて”しまった”数字に左右されることはブランドや事業を行っていく上でむしろ邪魔になりえる。

ではそのために「ちょいかじりすると苦み」のあるコンテンツを作り意図しない拡散を抑え、その奥にある「旨味」を味わえる人を選べる発信をする。

WWD JAPAN.comの取り組みで言えば「各ライターの意思や意見」を入れること、foufouで言えばSNSのトンマナに乗りすぎないで少しの「違和感」を作ることだ。

先日、イッセイ ミヤケ メンがブランド休止のニュースが業界のみならず大手マスメディアに取り上げられるなど波紋をよんだ。各社が「アパレルの危機」と仕切りに取り上げる中での「WWD JAPAN.com」のこの記事内の「エディターズチェック」に震えた。

“事実、業界全体が窮地に立たされている今、ファッションをネガティブに語ることは容易である。だからこそ、同じ業界のメディアとして、同社の「男性服の新たな可能性を探る取り組みを始めるため」という前向きな言葉を信じたい。ファッションの力で世界中を驚かせ、感動を与えてきた技術や伝統を絶やさないように、新たな可能性をともに探り続けたい。”


(写真:今井駿介、文:若尾真実、編集:角田貴広)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?