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祖父の眼差しと宝物のような記憶

 わたしたちが、出張撮影「fotowa(フォトワ)」というサービスを、なぜつくり、なぜたくさんの人たちに届けたいと思っているのか。

 その原点となるスタッフひとりひとりの家族写真にまつわる想いを紹介する「わたしと家族写真」。

 今回は、fotowaの広報を担当している、ユリのお話です。

家族の歴史が詰まったお気に入りの写真

 数年前のお正月。祖父が突然、家族写真を撮りたいと言い出しました。

 「今日はお寺ば行って、写真を撮らんばいかん」

 どうやら、近所のお寺が本堂を建て替えた記念に、初詣へ来た家族の写真を無料で撮ってくれるようでした。私たち家族は、別に毎年必ず家族写真を撮っているわけではありません。でも、その日の祖父はなんだか張り切っているようにみえました。珍しく遠方に住む親戚が勢揃いしていたので、嬉しかったのかもしれません。

 お寺は歩いて5分もしないで着く距離なのに、急いで歩く祖父のうしろ姿が目に焼きついています。丸まった腰と真っ白な頭。よろよろとした足取り。おじいちゃん、歳とったなぁ。そんなことを考えながら祖父の後をついて行きました。

 「おじいちゃん、そんなに急がなくても大丈夫だよ」
 「枠がなくなったら困るけん」 

 心配性だねと、従姉妹に目配せをして笑いあいました。それが、祖父が元気なうちに撮った最後の家族写真になりました。

 撮れたのは、なんてことのない普通の家族写真。建て替えたばかりの金ピカのお堂の中で、祖父母と父母、叔父叔母、2人の従姉妹、私が並んで微笑んでいます。他の人からみたら、どうって事ない写真でしょう。でも、私は結構気に入っています。

 黒い眼鏡の奥に、笑って細くなった目。祖父のトレードマークです。写真を見ると、いまでも祖父の優しい眼差しを思い出せます。祖父の左には、着物を着てきちんと正座した祖母。厳しいけど優しい性格が現れています。右には、祖父に寄り添う母。この頃の母は、離れて暮らす高齢の祖父をいつも気にしてよく電話をかけていました。「ユリも、時々おじいちゃんに電話やLINEをしてあげてね」と言われてたっけ。そして、私が着ている真っ赤なセーターは、前の年に亡くなったひいおばあちゃんのもの。一枚の写真に、いくつもの家族の歴史が写っているんです。

 写真のデータをもらった日の夜、なんとなく、家族のグループLINEのアイコンにしてみました。それから、ずっと写真を変えられずにいます。

いつまでも忘れない、祖父の記憶

 祖父が倒れたのはコロナ禍1年目の秋。脳の病気でした。長い入院生活で、私が直接会えたのはたった2回だけです。感染対策が厳しく、どうしても会えない期間が長くなりました。すぐに駆けつけられないことへの焦り。会えなくなるかもしれないという不安。そんな気持ちに襲われたら、とりあえず祖父の写真を見返して自分に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせていました。

 そして、2023年6月。祖父が病院から一時帰宅し、やっと家族全員で会うことができた日。その日も写真を撮りました。寝たきりで担架に乗った祖父を、家族でぐるりと囲んだ写真です。その写真を見るときはいつも涙がでてきます。時間が経っても、あの日の光景が蘇ってくるのです。

 2年ぶりに会う祖父は痩せていました。言葉も思うように出てきません。それでも、私たちに目線や表情で伝えてくれました。

 みんなに会えて嬉しいよ。大好きだよ。

 そんな声が聞こえるようでした。近づいて手を握ると、握り返してくれました。痩せてゴツゴツした手。目が合うとにっこり。いつもと変わらない祖父の細い目です。

 「やっと会えたね。嬉しいね。みんないるよ。」

 一番末っ子の孫娘は、泣きじゃくって祖父の顔を見れないでいました。祖父はたどたどしく「〇〇ちゃん、〇〇ちゃん」と何度も、一生懸命名前を呼んでいました。祖父の眼差し、名前を呼ぶ声、握った手の質感。いつまでも覚えています。たった30分のことだったけど、永遠のように感じました。

 それからしばらくして、祖父が亡くなりました。お葬式では、家族が揃って祖父の遺影に使う写真や、会場に飾る写真を選びました。もちろんあのお寺で撮った家族写真も。一番大きくプリントして見える位置に飾りました。一時帰宅で再会した時の写真も入れました。小さめのプリントです。やっぱり、元気な時の写真を見せたいねと、みんなで決めました。

 お通夜のあと、従姉妹たちと祖父の写真をみながら思い出を話しました。祖父がいなくなって、ぽっかり空いた胸の穴。でも、写真を見ていると、じわじわと暖かい思い出が胸に広がっていくのを感じました。宝物のような祖父との記憶が、心に溜まっていきました。

 今でも時々寂しくなりますが、そんな時は祖父との家族写真を見返します。東京の自宅には、お寺で撮った写真を飾りました。今でも、優しい眼差しで私たちを見守ってくれているような気がしています。

 いつでも、大切な人を思い出せるような家族写真。そんな幸せな写真を、ひとりでも多くのご家族が残せることを願っています。いつか、宝物のような時間を思い出すことができるように。

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何度でも見返したくなる写真を、
あなたに、子どもに、家族に。「fotowa

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