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【陸上競技・長距離】電子ペーサーの未来、僕の未来  *ロングインタビュー 宍倉健浩さん

 電子ペーサーを導入した試合の考察2回目です。2023春~夏シーズン、3試合に出場し、ホクレンDC千歳大会5000mD組でみごと自己ベスト更新し優勝された宍倉健浩さん(早大→JR東日本)にお話を伺いました。

1回目はこちら↓↓



電子ペーサーに導かれる意義と可能性

 🎤質問🎤
ゴールデンゲームズinのべおか(GGN)、ホクレン網走・千歳と2カ月の間に電子ペーサー導入レースに3試合出場されました。電子ペーサーがあるってどんな感じなのでしょうか?

★ペースメーカーに求めるもの

 タイムを狙う試合は電子ペーサーがあった方が選手は走りやすいと思います。最も大きな影響があるのは、ペースメーカーのペースが安定することだと思います。
 これまでのレースではペースメーカーのペースが安定しないことがありましたが、電子ペーサーがあることで不安定なペース配分はほとんど無くなるんじゃないかと考えます。
 「ペースメーカーはライトを意識してペースを作り、選手はその後ろにつく」という形が理想的ではないでしょうか。

 千歳ではペースメーカーが近くにいないタイミングではペーシングライトを意識して走っていました。目標物が常にある状態だったので、集中力が切れることなく走れたと思います。(★自己ベスト更新しての組優勝)

ホクレンDC第5戦 千歳大会(本人提供)
雨、22.2℃、湿度87%🟢Target 13:45.0 (66.0)

★ペース配分が異なったGGNとホクレン

 ホクレンは電子ペーサーがイーブンペースではなく途中でペースを落としてラスト上がる設定になっていました。個人的にはGGNでのイーブンペースが良かったです。

2023電子ペーサー 1戦目
ゴールデンゲームズinのべおか(GGN)
終盤戦 ○Targetに離されはじめたあたり


 タイムが出そうな手ごたえがあるときには、目標のペースをイーブンペースで押していって、ラストスパートでそのタイムを切るのが一番いいと思っています。

 選手によって理想のペース配分は違うかもしれません。 ただ、個人的にはイーブンペースが最も力を使わない(タイムを狙える)ペース配分ではないかなと考えています。同じことようなことを言っていた選手もいました。

 これはあくまで憶測ですが、 今回のホクレンのように、ペースを落としてからラスト上げた方がいいという選手は、過去に自己ベストを出した時のラップタイムがそのようになっていたからではないかと考えています。

 長距離はメンタル面の要素も大きいので、過去の経験や普段の練習内容、指導者の考えなどで、レース展開の好き嫌いが別れてくるのかなと思います。

2023ホクレンDC第3戦 網走大会
○Target 14:05.0 (67.6)は後方選手の横に。
晴れ 28.0℃ 湿度64%

★限界突破のために、そして世界と互角に戦うために

 電子ペーサーはホクレンのように「タイムを狙う」ためのペース配分のために導入されましたが、世界大会のような「仕掛け合いのレース」を再現してみてもいいのではないでしょうか?

 「勝ち負けを決める」世界大会は、海外の選手があえて揺さぶりをかけてペースの上げ下げをし、ラストスパートで一気に上がります。


 自分が出場してきた多くのレースのようにイーブンペースで走ってタイムを狙うだけでなく、日本人が仕掛け合いのあるレースを日本国内で経験するのは大きな価値があるんじゃないかと思います。

 世界大会クラスのレースをそのまま再現しても、ついていくのは厳しいですが、ゴールタイムは落としてペース変動のみ再現するなどの工夫をすれば、多くの選手が世界基準に挑戦できると思います。

 ただ、この「仕掛け合いの再現レース」では自分が望むタイムは狙えないので、レースに出る価値や挑戦する意味を主催者や指導者と一緒になって見出していかないといけないのかなと思います。

【筆者が世界との差を痛感した一枚】

2022 ホクレンDC第2戦 深川大会 10000mA
BENARD Koech(九電工)27:12.72
中盤で日本人選手とは約半周の差の一団(写真上方) 
🎤「今日はPMでなく自分のために走ります」

2023ブダペスト世界選手権5位


★陸上界を盛り上げるために

 電子ペーサーは、陸上界を盛り上げるという意味で、観客のためにもあった方がいいと思います。陸上に詳しくない人には、視覚的に基準が見えた方がわかりやすそうですね。1周や1kmあたりのタイムを言われてもピンと来ないかもしれません。

 電子ペーサーを使いながら、実況や解説者がわかりやすく話してくれることで、陸上になじみがない人にでも興味を持っていただけるようになるのかなと思います。


キャリアチェンジします!

🎤質問🎤
 「電子ペーサーの感想をと」漠然とお尋ねしたにも関わらず、選手目線・主催者目線・観客目線と陸上に関わる人それぞれの視点での考察を届けていただき、インタビュアーのところで留めていてはいけないと実感していたところに2023年9月末をもって競技引退の報が届きました。
 
 ラストレースとなった千歳は配信で観戦し、一段高いステップに進化されたと感じました。解説陣も絶賛されていたので、惜しまれる引退であることには異議を唱える人はいないと感じています。

このような突然のタイミングで引退報告することになり、応援してくださった方々には申し訳なく思っています。これまでの競技生活で関わった全ての方々に感謝いたします。

 社会人として競技生活を送っていくにつれ「なりたい自分」と「求められている自分」が少しずつ異なってきたことに気づき、2023夏のトラックシーズン区切りをもって「なりたい自分」に舵を切ることにしました。
 今回の決断が人生において良い決断だったと言えるように、これから新たなステージで頑張ろうと思います。競技者ではなくなりますが、今後の活動も応援していただけると幸いです。

🎤質問🎤
どのような決断をされたのでしょうか?

 今後は、指導する側として競技に関わっていきます。
若い世代に、自分がこれまで競技をしていて良かったこと、後悔したこと、昔から知りたかったことなどを伝えて、彼らの競技人生、そしてその先の人生を、良い方向に導ける指導者としてこれから成長していこうと思います。

 また、若い世代だけでなく、ランニングに興味のある方に対して少しでもプラスになることをしていこうと考えています。
最終的には、これまで経験してきて分かった陸上界の良い点・改善点を踏まえ、現状に囚われず、常に視野を広くして、陸上界が盛り上がるようなものを形にしていきたいです。

 今後はSNSで情報発信もしていく予定です。応援の気持ちでフォローしていただけると、モチベーションに繋がります。
 陸上について聞きたい、大学駅伝や実業団のことを知りたい、個別指導やペースメーカーのご依頼などあれば気軽にご連絡ください!一緒に取り組みましょう!今後ともよろしくお願いします。

宍倉さんのSNS はこちら
X(twitter):@run_takehiro
Instagram:@run.takeshishi

ホクレンDC第3戦、網走大会にて大学時代の先輩後輩と。
このとき既に引退を決意していたという。

ご縁は繋がる ~筆者からのはなむけとして~

 宍倉さんと筆者の出会いは、第96回(2020)箱根駅伝10区常磐橋。ゴール目指して競り合う宍倉さんを写真に納めたのがきっかけ。

96回大会の最高視聴率だったという。

 箱根駅伝のシード権には、もれなく出雲駅伝の招待がついてきますが、コロナ禍に見舞われ、第32回(2020)出雲駅伝は中止。
 自分の中でどうしても中止が受け入れられず、勢いで写真展「すごいぞ出雲駅伝」を開催しました。

 宍倉さんには「出雲にお招きできなくなり、申し訳ない。箱根での力走の写真を『出雲を走れなかった4年生』コーナーに掲示させてほしい。会場は出雲4区沿道。」と連絡をしました。

💫2020.7 宍倉さんからのメッセージ💫
「出雲駅伝に関しては開催に向けて尽力した結果、苦渋の判断だと思っていますので、誰が悪い等は一切思っていません。競技人生はまだ続くので、前向きに捉えていきます。
「写真展あるんですね!写真という形でも携われるのは非常に嬉しいです。YouTubeで出雲4区見ながら頭の中で走っておきます!」

 宍倉さんの「脳内出雲駅伝」にヒントを得て、写真展会場に「25000分の1出雲駅伝」コースを開設。このコースがテレビや新聞に露出したことで、文筆活動を行うようになりました。
 宍倉さんにご縁をつないでいただいたことになりますね。大恩人だと思っています。以来現地観戦できたときにはご挨拶してきました。

 今年のGGNでお会いしたとき、「電子ペーサーについて教えてほしい。走る回数を重ねて慣れた結果も知りたい」とお願いしました。

 その答えが今回のインタビューなのです。


 ブダペスト世界陸上、杭州アジア大会をみて、外国勢の揺さぶり対策が肝要だと実感しています。まさに宍倉さんの電子ペーサー活用案が生きてきそうです。

 このインタビューで宍倉さんから私に渡された「電子ペーサー活用案」という襷を受け取ってくれるのは誰でしょうか?
 きっとたくさんの人が受け取ってくださると信じています。


「出雲駅伝の財源は税金」ってご存知ですか?。出雲市へふるさと納税をすると出雲駅伝を支援することになるんですよ。寄付いかがでしょうか?もちろん私へのサポートも嬉しいです。出雲市民として経済を回します!