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1985アワード2024 開催

こんにちは。Forward to 1985 energy life事務局の松尾です。
1/24(水)に、「Passive × Energy Design 1985アワード2024」を開催しました。第二回の開催となった本アワードの様子をご紹介します。


1.Passive × Energy Design 1985アワードとは


2007年~2020年の間、野池政宏氏を代表とする自立循環型住宅研究会(現在は閉会)にて毎年開催されていた「自立研アワード」を引き継ぐ形で、小さなエネルギーで豊かに暮らすことのできる家づくりに取り組む住宅事業者のさらなる技術・知識向上や切磋琢磨の場として、2023年より開催。本年で2回目となります。

【審査方法】
事前に、Forward to 1985 energy lifeの会員からエントリーを募集。当日、それらのプレゼンテーションを行い、参加者全員が審査員となり投票を行い、その投票数から大賞・優秀賞を決定。(今年のエントリーは6作品でした。)

プレゼンテーションは1作品につき30分。その後、質疑応答と、特別審査員(今年は前年に引き続き 前真之氏<東京大学大学院 工学系研究科 准教授>と、Forward to 1985 energy lifeの理事・監事)からの講評が行われます。

【応募要件】次のA/Bどちらかの内容を、当日会場で発表すること。
A.新築またはリノベーションの住宅実例
 ・省エネルギー(太陽光発電などの創エネも含む)への配慮があること
 ・地域や敷地環境に合わせたパッシブデザインに取組んでいること
 ・室温およびエネルギー消費量の実測とその結果の考察がされていること
B.研究の成果検証などの取組み
(今回は作品全てがAでした)

【審査基準】次の7項目に基づ参加者が評価をし、一番評価の高かった作品に票を入れていきます。
1.エネルギー消費量 / 2.温熱環境 / 3.パッシブデザイン
4.暖冷房計画 / 5.プランニング(心地よさ・暮らしやすさ・住み心地など) / 6.持続可能性(環境への配慮) / 7.プレゼンテーション力

今回は60名ほどの参加者があり、開催地である名古屋駅前の会議室に加え、オンラインで視聴いただいた方もおられました。

イベントは10:00からスタート。
まずはじめに、ゲスト審査員の前真之氏より「パッシブデザイン住宅に適切な空調・換気計画について」基調講演を行い、その後、6作品のプレゼンテーションを行いました。

2.6つのプレゼンテーション

1)観⾳台の家 ~リアルゼッチを⽬指す持続可能な団地パッシブデザインの考察~

 株式会社 ラーバン(広島県) 下田晋祐さん

お子様がお生まれになったのをきっかけに、当時住んでいた1980年代の賃貸住宅から新築住宅の建築に取りかかった下田さんのご自宅の計画と実測結果の発表。
主な物件諸元|広島県広島市/省エネ地域区分:6地域/年間日射地域区分:A4区分/暖房地域区分:H3区分/UA値:0.43W/㎡K/ηAC値:1.0W/㎡/ηAH値:2.4W/㎡ /BEI:0.48

南東向きの東垂れの敷地で、西側にある大きな福祉施設からの日照の影響を受けやすい環境で、綿密な日照シミュレーションのもと、建物形状と吹抜けで時間毎の冬期の日射取得を愚直に追い求めた事例。日射熱利用暖房も試みており、蓄熱による室温変化もシミュレーションした上で取り入れています。
また夏の日射遮蔽についても検討され、窓廻りの遮蔽部材に加えて屋上緑化でも室温上昇を抑えていたのが特徴的でした。
壁掛けエアコン1台での全館冷暖房を試みておられますが、極寒期でも22℃程度、酷暑期で26℃くらいで推移する温熱環境を実現しながら、PVありでリアルZEHを達成。それでも冬場のエネルギー消費量が大きいため、今年の冬は温度計と連動した運転での計測を行い、さらなる改善に繋げていくそうです。

参加者からの評価が高かったパースでの解説。暮らしが想像できるスケッチは、お施主様への理解にも非常に役立つと言います。(発表スライドより)

2)PASSIVE&ENERGYDESIGN
~パッシブデザイン設計があって こその無理のない省エネ実現~

KOZEN-STYLEコバヤシホーム(愛知県) 小林正和さん

愛知県の温暖な湾の近くにある住宅の発表。木造SE構法で建てられたお宅です。
主な物件諸元|愛知県蒲郡市/省エネ地域区分:6地域/年間日射地域区分:A4区分/暖房地域区分:H4区分/UA値:0.36W/㎡K/ηAC値:0.6W/㎡/ηAH値:2.0W/㎡ /BEI:0.49

敷地の東側に住宅が立った場合、また南側の建物の建て替えを想定しながら、綿密な日照シミュレーションと、ホームズ君による室温シミュレーションを行った本物件。またシミュレーションから、目標室温を達成しつつ、年間暖冷房負荷は148.9MJ/㎡で、省エネルギーかつ快適な室内環境が実現できることがわかっています。またパッシブソーラーエリアを設定し、その25%以上の南側窓面積を確保し、積極的に日射を取得。
全館冷暖房を採用しておりますが、常時運転ではなく間歇運転をされているところもあり、実際はシミュレーションよりも少ないエネルギー消費量で過ごされていることがわかりました。
お仕事上、暮らしのリズムがご夫婦で異なるため、一般的な温度推移とは異なる部分があるのですが、実測データを基に、エアコンの運転方法や、冬場のハニカムサーモスクリーンの調整、夏場の日射遮蔽に対するコントロールなど、住まい方へのアドバイスを重ねて、さらなる改善を目指していかれるそうです。

コバヤシホームさんの発表物件。ゆったりとしたお庭やデッキ、南側の大開口が印象的です。(発表スライドより)

3)愛猫と暮らす家 ~倉敷の家住まいの考察~

 有限会社 上西建設(岡山県) 上西良和さん

愛猫とご夫婦と生まれたばかりの赤ちゃんが住まう家を題材とした発表。
主な物件諸元|岡山県倉敷市/省エネ地域区分:6地域/年間日射地域区分:A4区分/暖房地域区分:H3区分/UA値:0.5W/㎡K/ηAC値:0.9W/㎡/ηAH値:2.8W/㎡ /BEI:0.64

ご夫婦が共働きで日中は2匹の愛猫がお留守番をしているため、室内の温熱環境はシビアで、良好な室温を省エネルギーで達成する必要があります。シミュレーションで裏付けられたパッシブデザインを活かし、実測結果は冬期で最低15℃くらい、最高で22.5℃くらいの室温。夏期は無冷房で27~28.5℃で推移したと言います。シミュレーションよりも良い結果となり、これは住まい手さんの日射取得・日射遮蔽の理解により、アドバイス通りに生活されていたことが起因しているそう。建物の性能だけでなく、暮らし方も伴い、よりよい結果となることが実証され、暮らし方アドバイスを徹底していきたいと結ばれました。

ハイサイドライトを効果的に配置し、通風・排熱・昼光利用に活用。冬場たっぷり日が差し込むLDKで猫ちゃんがひなたぼっこする様子が思い浮かびます。(発表スライドより)

4)私たちの家『PLAN 20』

 株式会社 育暮家ハイホームス(静岡県) 寺坂 麿さん

60代のご夫婦+30代の息子さんが住まう家のリノベーション事例を題材にした発表。
主な物件諸元|静岡県藤枝市/省エネ地域区分:7地域/年間日射地域区分:A4区分/暖房地域区分:H3区分/UA値:0.44W/㎡K(エリア内)/ηAC値:1.6W/㎡(エリア内)/ηAH値:2.9W/㎡(エリア内) /BEI:0.78(全体評価)

シニア世代の住宅を考える時に、ライフプランを共有した上での提案は非常に重要となります。育暮家ハイホームスさんは10年、20年、30年を見据えた計画を大切にされており、今回はご夫婦のこれからの20年をしっかりとつくっていきたいという思いから「PLAN20」というタイトルを付けています
築30年の耐震補強済みの家のリフォーム。LDKと1F寝室をエリア断熱し、ホームズ君での綿密な室温シミュレーションを基に計画をし、結果「室温を10℃あげて、消費エネルギーを10%下げる」ことに成功しました。
またエリア外の洗面・脱衣室やトイレも、熱の移動により室温を3℃ほど底上げできており、入浴時の暖房エネルギー削減やヒートショックのリスク軽減が期待できます。さらに、2023年では20%、2025年では65%のエネルギー削減を目指しており、目標に向かったさらなる工夫が楽しみです。

実測データから、計画の確認と併せて今後の課題を見つけだし、次のアクションへ繋げている。(発表スライドより)

5)築40 年スケルトンリノベーション進化の過程

 中澤建設 株式会社(群馬県) 中澤康之さん

家族経営の大工工務店である中澤建築さん。今回は、43年前に中澤建築で建築した、中澤さんのお父様のお師匠さんが建てた家のリノベーション事例を発表。
主な物件諸元|群馬県高崎市/省エネ地域区分:4地域/年間日射地域区分:A3区分/暖房地域区分:H3区分/UA値:0.29W/㎡K/ηAC値:1.1W/㎡/ηAH値:1.5W/㎡

「おじいちゃんが大切にしてきた家を、同じ工務店で同じ大工さんにリフォームしてもらえるのは嬉しい」との住まい手さんのお声は、地域工務店にとって大変嬉しい言葉ですし、何よりの存在意義だと思います。そのような感動的なエピソードと共にお話しいただいた、中澤さんのトライアンドエラーの過程。スケルトンリノベーションで、耐震補強・断熱改修を行う中で、難関だった気密工事については、厚意にしている近くの工務店ネットワークに協力を仰ぎながら進めたと言います。
面白いのはここからで、計画通りの改修を終え、実際に温湿度を計測、住まい手さんにもヒアリングをし、いくつかの課題が見えてきました。例えば2Fの温湿度が他の部屋に比べて高かったり、湿度をもう少し上げたかったりなどですが、それらの課題を、定期的に集まっているネットワークに持ち寄り、仲間に共有し対策案を相談。そこで出てきた意見やアドバイスを基に、対策を講じ、その結果を実測データからレビュー。さらに住まい手さんにも感想を聞き、建築実務者と住まい手さんの感覚の差を埋め、住まい手さんならではの疑問にも答えています。
1社では解決できないことや視野が広がらないことも、地域のネットワークでなら解決できることや、改善スピードがあがることはたくさんあります。
中澤さんの取り組みから、同じ思いを持って切磋琢磨できる仲間の存在の重要性や、住まい手さんに寄り添いながらトライアンドエラーを重ねることの意義がわかる発表でした。

現在は課題に対する対策工事④を終え、その効果を実測しているところ。この結果も楽しみです。(発表スライドより)

6)TRY&ERROR の先にあるもの

 Stdio78(兵庫県)  難波江 知英さん

難波江さんのご自宅だからこそできるチャレンジや、トライアンドエラーをまとめた発表。
主な物件諸元|兵庫県姫路市/省エネ地域区分:6地域/年間日射地域区分:A4区分/暖房地域区分:H3区分/UA値:0.41W/㎡K/ηAC値:0.9W/㎡/ηAH値:1.8W/㎡ /BEI:0.63

日射熱取得に不利な南北に長い敷地でのチャレンジを今後に生かしていきたいと、あえて購入。吹抜けや天窓、室内窓などのパッシブデザインの設計手法で明るくて冬温かく夏涼しい住宅を計画した事例。住まいながらの実測で、その計画を確認しながら、エアコンの連続運転or間歇運転はどちらがよか?吹抜けに取り付けたエアコンを1Fリビング壁に移動するとどうなるか?等を、温湿度とエネルギー消費量の観点で検証。エアコン連続運転の方が快適性はあがるが、実感として間歇運転でも問題ないと感じたり、取付位置は無難にリビング壁の方が効率的であることがわかったりしたといいます。また、玄関横に取り付けたポストの失敗や、天窓廻りの日射取得の失敗談など、実体験に基づく失敗談も披露していただき、参加者の方も気づきがあったのではないでしょうか。

今でも議論になるエアコンの連続or間歇運転の問題。実際に様々なパターンで体験してみると、説得力が増します。(発表スライドより)

3.受賞者

特別審査員と、会場・オンラインそれぞれの全参加者からの投票により、次の方が受賞されました。

■Passive × Energy Design 1985アワード「大賞」
観音台の家
~リアルゼッチを⽬指す持続可能な団地パッシブデザインの考察~
株式会社 ラーバン 下田晋祐さん

協賛企業様より大賞の副賞と、後日盾が贈られました。

■Passive × Energy Design 1985アワード「優秀賞」
PASSIVE&ENERGYDESIGN
~パッシブデザイン設計があって こその無理のない省エネ実現~
KOZEN-STYLEコバヤシホーム 小林正和さん

協賛企業様より優秀賞の副賞と、後日盾が贈られました。

4.本アワードで得られるもの

昨年に引き続き、特別審査員を務めていただいた前真之先生による総評。

前先生からは、昨年よりも発表内容のレベルがあがっていた。
発表者の皆さんが丁寧に時間をかけて資料をつくり、設計のプロセスを説明し、結果を見せ、さらにそれを踏まえた改善のプロセスまであるのが素晴らしい。それをきちんと開示しているからこそ、冷静に同じ立場で考え、イーブンな関係で情報交換でき、皆が成長できる会であると感じている、と総評いただきました。

当団体代表理事 辻裕介による総評

今回も、多くの社員を抱える地域工務店の代表、若手の設計者、最小人数で経営している地域工務店さんや、大工さんなど、様々な立場の方が各々のテーマをもって資料をまとめ、発表されました。
皆、シミュレーションを扱いながら様々な検証をし、実測データや住まい手さんの声を基にPDCAを回しており、これらの情報をまとめるだけでも大いなるスキルアップに繋がります。
それらを、地域のネットワークや仲間に伝えることで、さらなる意見やアイディアが集まり、関わり合う皆で知識・情報・能力を向上させていける、それこそがこのアワードの魅力であり、狙いでもあります。

発表者はさらに、自身の考え方をまとめ、お客様に伝えるツール・プレゼンテーションづくりにもつながるので、大変ではありますが、得るものも多いのです。

事業規模、工法、仕組み、地域、方針、様々な違いを超えて、「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まいの在り方と価値を追求し、普及していきたい」という目標を共有しながら、共に切磋琢磨できる場として、2025年も本アワードを開催いたします。
次回も、皆様の作品エントリーならびにご参加を、心よりお待ちしております!

▶ 今回の大賞作品のダイジェストを、Forward to 1985 energy life公式YouTubeにてご紹介しています。ぜひご覧ください。

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