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【読書感想文】『最後の医者は桜を見上げて君を想う』二宮敦人著

◎3人の医師 それぞれの向き合い方

医学部同期の3人の医師、福原、桐子、音山。

大病院の副院長で外科医として名をはせる福原、患者から死神と言われる福原、そして優しい音山。

三人三様の医師たちは、かつて学生時代は仲が良かったが、今はお互いを避けるようになっています。

福原はどんな病気にも立ち向かい、最後まで治療をあきらめない医師です。彼が患者に示す選択肢は、どの治療方法にするかであり、1分1秒でも長く生きるための選択です。

桐子は治療をやめて、残りの人生を自分らしく生きる選択肢もあると患者に示す医師です。管につながれて数ヶ月寿命が延びたところで、それで後悔しないのかと患者に問うような医師です。

同じ医師でありながら、患者に対して真っ向から対立する二人。

桐子は病院の中でも異端児として浮いた存在で、副院長である福原からも疎まれています。

しかし終末期の患者が相談するのは死神と呼ばれる桐子なのです。

かつては同じ志を持って同じ道を目指したにもかかわらず、いつから二人の行く道は全く別の方向に分かれてしまったのか……。

そんな二人の関係を、いや三人の関係を学生時代のように戻したいと考える音山が、なんだかいじらしく、同時に音山の人の良さが文章から滲み出ています。

◎私ならどうする?

この作品を読んで、私は死について改めて考えました。

10年以上前から、万一事故や病気で意識がなくなった場合、延命治療はしないと子供には伝えてあります。

世の中には生きたくても生きられない人もいるし、仮に自分ではなく、子供が脳死などに陥ったらと考えたら、どんな姿でもいいから生きていてほしいと願うだろうと思います。

でも自分自身がそうなったら、ただ管につながれて寿命だけを延ばすのであれば私はそれを望んではいないからです。

30代のある日、仕事のために通っていたある町で、駅から仕事場に向かう道を歩いていました。

ふとすれ違った人に見おぼえがあり、ふりかえるとその人も同時に振り返っていました。

かつての同僚でした。

20代の頃、町を歩けば通りすがりの男性が振り返るほどの美人です。

才色兼備でいつもにこにこしている、穏やかな素敵な女性です。

今では毎年、春になると文旦を送ってくれます。

久しぶりに会った彼女は、数年前にお母様を癌で亡くされたと聞きました。

お母様は抗がん剤などの治療を拒否されたそうです。

それからずっと、そのことが私の心の片隅にいつもあります。

私ならどうする? 

母方の祖母は脳溢血で亡くなりました。

祖父や母の兄弟は若くして東京大空襲で亡くなったのでわかりませんが、癌の家系ではないと思っています。

しかし、父方の祖父はがんで亡くなりましたし、父も早期発見でしたが胃がんを経験しているため癌の家系の可能性はあると思っています。

だからいつか自分にそういうことが起きた時、私はどういう選択をするだろうかと考えています。

癌はかなり痛みを伴うようですが、私に痛みに耐える勇気があるだろうか?

延命治療だけでなく、もう手の施しようがないとなったとき、それでも治療を望むだろうか、それとも友人のお母様のように運命に身を委ねるだろうか。

本書では、様々な患者が登場します。その誰もが選択を迫られ、決断していくのですが、自分がその立場だったら、決断を出すのが難しそうな状況のように思えてなりませんでした。

タイムリミットがある中での決断。

最後の瞬間まで正しい決断だったのかわからないのですから。

私は医療従事者ではないから、患者の立場でしか考えることができませんが、この小説を読んで、医師だったらどう考えるのが正しいのだろうかと想像しました。

もちろん医師という道を志したからには、病気を治したい、怪我した人を助けたいという思いがあったのだろうと思います。

まれに儲かるからという人もいるかもしれませんが、それは今は考えないことにします。

福原も、桐子も、どちらも正しいのではないか?

医師を志したとき、きっと二人の目指す道は同じだったのだろうと思います。

しかし、その後二人の立場や環境、病気や患者との向き合い方から、二人の目指す方向性は少しずつ変わっていった、そう思えました。

そしてどちらの考えも、正しいとも間違っているとも言えないのだと感じました。

ただ、最後の決定は患者自身に委ねられることが、最も厳しい現実だと思いました。

病気という不安を抱えながら、医師から示されるいくつかの治療方針や緩和医療の中から、残りの人生をどう生きるのか、どう死ぬのかを決めなければならないのだと思うと、病気そのものより大きなプレッシャーのような気がしました。

◎医者と患者

患者にとっては初めてのことが、医師にとっては日常であることは間違いありません。そして日常には慣れていくのが常です。

それを冷たいと感じることもあるでしょうが、いちいち患者に感情移入してはやっていられないというのも本音なのでしょう。

医師は専門知識をもった、病人にとっては唯一頼れる立場の人間です。

でも患者の気持ちまでは理解できないのではないか。

もし医師が患者になったら、その時はじめて患者の不安や迷いを理解できるのかもしれません。

しかし患者にならずとも、医師として患者にとって最善の道を考えているのだろうと感じました。

やり方は違えど、3人の医師の原点は同じだったはず。

ただ、どのやり方にも限界があることも事実。

3人の医師が抱える問題は、正解がない問題のように思えました。

それでも答えを出していかなければならない医師の苦悩と、患者の苦悩。

患者の苦悩は家族の苦悩でもあり、やはり正解がないように思いました。

医療と、死にゆくときの覚悟を自分のなかでどう決着つけるのか、難しい問題を提起している小説だと思いました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

読み進めていくうちに、重いテーマの本を選んでしまったなと感じました。

どのシーンも、私だったらどうするだろう、家族だったらどう思うだろうと考えながら読んでいました。

しかし医師としての苦悩という点には、その立場を想像することが難しかったです。

思えば医師とは、治れば感謝され、そうでなければ非難されるリスクもある責任の重い仕事です。

その仕事を選んだ時点で、相当の覚悟をしているのだろうと思います。

本書はシリーズとなっているようなので、別の本も読んでみたいなと思いました。

いろいろ考えさせられる本でした。

しかし答えを出すのは難しそうです。

新しい一週間も、平和でよい一週間でありますように。

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