【エクサウィザーズ 齊藤氏】求められるのは「自律性」と「受容力」。偶発の出会いからたどり着いた「AI×社会課題解決」に向けた挑戦
フォースタートアップス株式会社(以下、フォースタ)では、エンジニアに特化した専門チーム「エンジニアプロデュースチーム」を開設。スタートアップに対してキーマンとなりうるCTO・VPoE・エンジニアの採用支援をしております。
株式会社エクサウィザーズ(以下、エクサウィザーズ)は「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」をミッションに掲げ、AIの社会実装を推進しています。
今回は、執行役員・インフラ統括部の統括部長として活躍する齊藤 匡人氏に、大学院時代のエピソードや、エクサウィザーズで担ってきたミッションの変遷など、様々なお話を伺いました。
コンピュータサイエンスに出会い研究室へ。社会還元の意義を実感した大学院時代
──齊藤さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。
齊藤:大学生の時に、コンピュータサイエンスに出会い研究室に所属したことが、エンジニアとしてのキャリアを歩む起点となりました。その研究室ではOSやネットワークに関する研究をしており、私も通信プロトコルの研究に従事していました。
大学院時代に、経済産業省所管のIPA が支援する未踏に参画。ITを駆使して、独創的なイノベーションを生み出す人材の発掘を目的としたプロジェクトで、そこではネットワーク通信を3Dで視覚化するソフトウェアの開発などに携わりました。ありがたいことに、シリコンバレーのGoogle本社へプレゼンする機会もいただけて、貴重な経験ができました。
未踏で活動していたら、知り合いの紹介で産総研に所属することが決まりました。未踏でのプロジェクトがセキュリティ分野に関連していたこともあり、産総研では認証ソフトウェアの開発に従事。数年後、産総研のプロジェクトを事業化することになり、共同創業者としてスタートアップを立ち上げました。私はテックリードとして、要件定義から開発、技術営業まで一貫して受け持ち、さらにはCISO(最高情報セキュリティ責任者)も担当しました。
立ち上げたスタートアップに約10年所属したあと、2018年にエクサウィザーズに参画しました。
──元からコンピュータサイエンスの分野に関心があったのですか?
齊藤:いいえ、むしろ大学に入るまで、やりたいことは特にありませんでした。高校時代の進路選択は文系で、理系分野に関心が高かったわけでもないのです。ただ、やりたいことがないからこそ「何でもできる学部を選ぼう」と決めたのが、今となっては良い決断だったと振り返ります。
大学では、建築の勉強をしたり、音楽にも関わってみたり、学部内でできることには一通り触れてみました。その中で、特に面白みを感じたのがコンピュータサイエンスでした。狙っていたわけでない偶発的な出会いが、その後のキャリアを切り拓くきっかけになったのです。
──大学生時代に様々な体験をされたからこそ、興味のある分野に出会えたのですね。研究室に所属していた時の印象的なことを教えてください。
齊藤:まず、所属していた研究室の先生が素晴らしい方でした。コンピュータサイエンス分野で国際的に有名な先生で、その方の持つ社会への課題解決や還元に対する意識には、大いに影響を受けました。
当時の研究室には50人ほど所属しており、ユビキタスコンピューティング、モバイルコンピューティング、コンピュータネットワークなどの分野ごとにチームが分かれていて、さまざまなプロジェクトが走っていました。そこで、誰かに頼るのではなく、自律的に動いてプロジェクトを進めていく姿勢を養うことができたと思います。また、一連の研究を通して、社会還元する意義を身を持って実感しましたし、困難も創意工夫次第で乗り越えられるといったマインドも、身につきました。
また、未踏クリエータに採択された機会を通して世界で著名な企業の社長やエンジェル投資家など、普段なら出会えない人と交流できたのも、良い刺激になりましたね。
──R&Dを長く経験された齊藤さんから見て、学術とビジネス、キャリアの分岐をどう捉えていらっしゃいますか?
齊藤:どちらも社会還元に向けた取り組みをしているため、根本的には一緒だということを前提に話します。個人的には「時間軸をどう捉えるか」で、キャリアが分かれると考えます。
学術研究は、10年や20年、長ければ50年以上かかるかもしれない先に成果があらわれ、ようやく社会還元の実感が得られるものです。芽が出ない間も、コツコツと研究を続けていける忍耐力のある人が、研究者の道を歩む印象です。
一方、私は長い時間をかけていくよりも、早くダイレクトにフィードバックをもらって次に繋げていきたい性格です。だからこそ今のような事業会社でビジネスの実業に関わる働き方に行き着いていると思っています。
セキュリティ体制構築の肝は「先手先手で実装にあたる」こと
──その後、スタートアップの共同創業者となられた頃のお話をお聞かせいただけますか?
齊藤:立ち上げたスタートアップでは、二要素認証に関する日本発のシステムを開発し、ライセンス販売をしていました。セキュリティレベルの強化をはかりたいニーズを持った公的機関や企業に提案し、病院や省庁、事業会社と様々な組織に導入いただきました。
開発した認証技術は、特許も取得しているユニークで優れたものです。それらを一通りの業界へ導入できたのは良かったものの、段々この技術が社会貢献できているのかに疑問を感じるようになりました。本質的に日本全体のセキュリティレベルの向上には繋がっていないように感じたのです。
このままずっとこの会社に身を置くか悩んでいた時に、知り合いから「別の企業で働いてみないか」と誘われました。事業全体が落ち着いてきたタイミングでもあり、せっかくなら外の会社を見てみようと思うようになりました。
──次のフィールドに目を向けられるようになったタイミングで、エクサウィザーズさんと出会われたのですね。
齊藤:そこまで明確なビジョンを持っていたわけではなく、転職の意向も決して高くはありませんでした。良い機会があればと知人から紹介された企業を含めて検討する内に出会ったのが、ヒューマンキャピタリストの村上修一さんに紹介してもらったエクサウィザーズでした。
正直なところ、AIの領域にはさほど詳しくなく、面談前は働くイメージが持てなかったのを覚えています。ですが偶然、面談で顔を合わせたのが坂根(取締役)であったことから、印象が変わりました。
面識はなかったのですが、意外なところで接点があったのです。彼は学会でたびたび交流していた研究室に所属経験があり、履歴書の研究室名から「あの研究室なんだ」と声をかけてくれて、話が盛り上がりましたね。気持ち良くコミュニケーションできたのが好印象で、エクサウィザーズで新しい経験をしてみるのも良いなと、入社を決めました。
──エクサウィザーズにご入社されて4年半ほど経ちますが、これまで担われてきたミッションの変遷を教えてください。
齊藤:入社当初は、HR領域のデータを扱うプロダクトのセキュリティに携わっていました。そのうち、前職の経験もあってか、他の事業部からセキュリティ関連の相談を数多く受けるように。中には社内のセキュリティ体制が絡んだ相談もあり、情報システム担当のメンバーとも話をする機会が増えました。
エクサウィザーズは、お客様からお預かりしたデータを、AIを活用して分析、予測する事業を数多く展開しています。事業が急拡大していく中、セキュリティの対策も強化する必要が出てきた頃に、「前職でのCISO経験を活かして情シスチームに本格的に関わってほしい」と依頼を受けました。そこから、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証取得などを先陣を切って進めていきました。
また、同時並行でエンジニア組織のマネジメントや採用活動にも関わり、組織編成のサポートや、多くのエンジニア採用を行なってきました。採用業務は、昨年になって別のメンバーにバトンタッチすることができ、今に至ります。
また、最近では話題になっているChatGPTをセキュアに利用できる「exaBase 生成AI」の開発を行うなど、プロダクト開発側にも関わり始めました。ChatGPTはウェブのインターフェースで禁止ワードの指定や細かなロギングを行えないため(注)、日本のセキュリティ環境に合わせた機能を付与したサービスが必要だと考えました。急速にニーズが高まっているので、機能は必要最低限に留めて、急いで開発を進めました。
注: 2023年5月時点
──堅牢性とスピードを両立するのは難しいと伺うこともありますが、これまでどのような考え方でセキュリティ体制の構築に臨まれていたのですか?
齊藤:とにかくスピード重視、先手先手でセキュリティ体制を構築することを心がけています。前述したISMSの導入のほか、初期からゼロトラストというセキュリティの考え方を元に社内の情報インフラ及びセキュリティ体制を構築していました。このことが功を奏し、新型コロナウィルスによって急激にリモートワークへシフトする必要が出た際にも、情報セキュリティレベルを維持しながらスムーズにフルリモートワークの業務環境を実現できました。
キャリアに悩んだら何でもやってみれば良い。組織が拡大したからこそできる挑戦の後押し
──ここからは、エクサウィザーズの組織全体やエンジニアのキャリアについてお伺いします。まずはエクサウィザーズの雰囲気について教えてください。
齊藤:圧倒的に優秀な人が多く所属している印象を持っています。自律的に仕事を進められる人ばかりで、意思疎通もスムーズです。エンジニア同士だけでなく、ビジネス側、例えば戦略コンサルタントに専門的な技術の話をしても、的確に汲み取ってくれることには驚きました。
──なぜ、自律的に動ける人が多いのだと思いますか?
齊藤:個人の能力の高さはもちろんですが、組織の仕組みが整備されていることも大きいと思っています。エクサウィザーズは、全社的に掲げるミッションや、給与など働くうえでの仕組みが整っています。
前職時代は、人数規模が少なかったこともあり、ミッションを具現化しづらい環境でした。
仕組みが整っているからこそ、優秀な人が集まりますし、それぞれが最大限の力を発揮して働くことができる。エクサウィザーズに入って、改めてそう感じています。
──エンジニア採用を担われていたご経験も踏まえ、齊藤さんにとっての優秀なエンジニアの定義を教えていただきたいです。
齊藤:まずひとつは、先ほども話した通り自律的、積極的に動ける人です。これは採用を担当していた頃の要件に入れていました。スタートアップは、自分の業務範囲や役割が決まりきっているわけではありません。厳しい言い方になりますが、受け身な人の積極性を引き出すことは難しいですし、働きかける分コストがかかってしまいます。
もうひとつは、受容力、適応力のある人です。スタートアップでは本当に予測不能なことが起こります。その状況を悲観的に捉えるのではなく、まずは受け入れて柔軟に動いてくれるかを見極めて、採用活動をしていました。
──これからキャリアを歩むエンジニアへのアドバイスはありますか?
齊藤:自分がやりたいと思ったことに、迷わず手を伸ばすのが良いのではないでしょうか。スタートアップで働くエンジニアに限らず、大企業にいる人、あるいは研究の道を志す人にも同じことが言えます。
とはいえ、やりたいことが見つからない人も少なくないと思います。その場合は、色々挑戦できるフィールドに身を置き、没頭できるものを見つけることがおすすめです。もしやりたいことに巡りあえなかったとしても、興味のないことへのスクリーニングには繋がります。かつての私はそうやってやりたいことに出会いました。
新しいチャレンジを重ねるエネルギーは必要ですが、動いてみて損はないはずなので、ぜひ色々試してみてほしいです。
──ありがとうございます。では最後に、エクサウィザーズで働きたいエンジニアにメッセージをお願いします。
齊藤:エクサウィザーズは、マルチモーダル・マルチセクターの掛け合わせで社会課題にアプローチしており、まさに先ほど話した色々なことを試せるフィールドが広がっています。実際に、ソフトウェアエンジニアが機械学習に携わったり、ビジネス側のメンバーがエンジニアにキャリアシフトした事例もあります。
私が入社したての頃は、組織体制が確立しておらず、即戦力を重視していましたが、IPOを経て、従業員数も300人を超える規模になりました。社内での勉強会も活発で、意欲ある人の挑戦を後押しする態勢が、徐々に作られているように感じます。
また、最近は「ChatGPT」などのAI技術が、世間から注目を集めていますよね。実際にお客様からの問い合わせも増えており、我々はこの状況を新たな可能性を切り拓けるチャンスだと捉えています。最先端の技術に触れてみたい人、AIの力で社会還元していきたい人はぜひご一緒して、ミッションを実現していきましょう。
──これからも、エクサウィザーズのミッション実現に向けた齊藤さんのご活躍を楽しみにしております。貴重なお話をありがとうございました。
インタビューご協力: 株式会社エクサウィザーズ
執筆:近藤ゆうこ
取材・編集:for Startups エンジニアプロデュースチーム