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病院薬剤師が語る気になるクスリの話 第2話「頭痛薬(主に解熱鎮痛薬)」


※本文中に登場する「診療ガイドライン」とは、現在の医療水準で推奨される医学的見解をエビデンス(科学的根拠)と共に示したものです。

身近なのに意外と危険な頭痛薬

今回取り上げるテーマは「頭痛薬」です。

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本当は「痛み止め」という括りでお話したかったのですが、いざ記事を書き進めてみると、かなりハードルが高いことに気づきました。

どういうことか?

実は、一口に「痛み」と言っても、「歯痛」「生理痛」「筋肉痛」「がん疼痛」など幅広く、その「痛み」を和らげる薬もまた多様なのです。

という訳で、今回は皆さんにとって最も身近な「頭痛薬」に絞ってお話ししていこうと思います。

・・・ちょっと待ってください。

なぜ「頭痛薬が身近だ」と言い切れるのでしょうか?

よくTVをご覧になる方はとうにお察しの筈です。

ほ~ら、どれも見覚えのあるCMばかりでしょ?

4つのCMに共通するのは「働く女性」が主人公である点。

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大規模な疫学調査(Sakai , Igarashi による調査;グラフはエーザイホームページより引用)によれば、日本人に多い「緊張型頭痛」「片頭痛」というタイプの頭痛は、30〜40歳代の女性に最も多かったというデータがあります。

頭痛薬は、「働く女性」にとって(だけとは限りませんが)まさに必需品と呼ぶべき薬なのかもしれません。


ただ、薬剤師の率直な意見としては、「そんなに無防備に飲んで大丈夫?」と言いたくなる程、頭痛薬は身近な割に意外と危険な薬なのです。

ここでは頭痛薬のリスクについて解説していきます。

≪最低限知っておきたい頭痛薬のリスク≫
❶胃腸障害(胃炎・消化性潰瘍)のリスク
❷過敏症のリスク
❸薬物乱用頭痛のリスク
❹小児・高齢者・妊婦・授乳婦に対する制限

❶はご存知の方も多いと思います。そう、「痛み止めは胃に悪い」は事実です。頭痛薬には痛みや熱の原因物質プロスタグランジンの合成を阻害するタイプが多いのですが、この物質、胃粘膜の防御をつかさどる物質でもあるからです。いいですか?我々は頭痛薬を飲むことでわざわざ胃の防御を弱めているのです。鎮痛効果が仇となり、胃潰瘍が出来ていることに気付かず、更に薬を増やしてある日突然吐血、といった目も当てられない事例もあります。なので、元々胃の弱い方は胃に優しいタイプの薬を選ぶとか、胃薬を併用するとか、空腹時に飲まないといった工夫が必要となります。

❷は何も頭痛薬に限ったことではないのですが、特に警戒していただきたいのが喘息持ちの方、「ピリン系」がダメな方です。喘息患者の約1割は一部の解熱鎮痛剤を使用することで喘息発作を生じることが知られています(アスピリン喘息)。これは飲み薬だけでなく湿布薬でも起こり得るので要注意です。一方「ピリン系」は後述する頭痛薬の成分の一種ですが、以前これを飲んでアレルギー症状(蕁麻疹・かゆみなど)が出たことのある方が再び「ピリン系」の薬を飲むと、更にひどいアレルギー症状、運が悪ければアナフィラキシーという重篤な症状で命を落とす危険性すらあるのです。「ピリン禁」の方は必ず「非ピリン系」の薬を選ぶようにしましょう。

❸の薬物乱用頭痛。実は、頭痛薬の服用回数が増えると、かえって日々頭痛に悩まされるという不条理な事態を招くことがあるのです。頭痛薬を乱用しないよう注意し、服薬回数が多い場合(毎月10回以上)は受診して医師と治療について相談してください 。

薬物療法の選択は頭痛の重症度,頭痛の頻度,生活支障度に依存します。軽症の頭痛であれば市販薬(OTC)でも対処可能です。頭痛が中等度〜重度の場合,あるいはOTCを月10日以上服用する場合は、医師の指導のもとに薬物治療を行うことが望ましいのです。慢性頭痛の場合は薬物乱用頭痛に陥らないように急性期治療薬の投与回数をできれば月10回以内に制限します。
 ( 推奨のグレードA ) 
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

❹では「頭痛薬は制限の多い薬」という点を強調したいです。子どもが頭痛を訴えることは少ないかもしれませんが、安易に大人の薬を飲ませてはいけません(詳しくは後述)。高齢者も同様で、過度の体温下降・血圧低下によるショック症状が現れやすいので慎重に使用する必要があります。胎児に影響が出ることがあるので妊婦に禁忌、母乳移行するので授乳婦に禁忌となっている薬も数多く存在します(購入前に薬剤師とよく相談しましょう)。

小児の片頭痛の急性期治療には、イブプロフェンとアセトアミノフェンが効果的な頓挫薬です。イブプロフェンは最良の鎮痛作用を示します。イブプロフェンと比較するとアセトアミノフェンはわずかに早く効果が出現しますが鎮痛作用はやや弱いようです。 ( 推奨のグレードA ) 
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より


怖い話が続きましたね。

しかし、私は何も「頭痛薬を飲むな」と言いたい訳ではありません。

むしろその逆。

下記のように、ガイドラインでも頭痛薬の積極的な治療を推奨しています。

一次性頭痛は,苦痛があれば重症度にかかわらず,治療の対象となります。頭痛が日常生活に支障をきたしている場合は,積極的に治療を行うべきです。 ( 推奨のグレードA )  
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

ただ、頭痛薬を使っていいのは、注意点を守った上でのことであることをお伝えしたかったのです(説明書、これからはちゃんと読んでくださいね)。


主な頭痛薬の種類と特徴

1.プロピオン酸系 ~絶妙バランスのトレンド頭痛薬~
この系統の成分は、痛みや熱の原因物質であるプロスタグランジンの合成を阻害することで効果を発揮します。

特に炎症を抑える作用が優れており、歯痛などの強い痛みにも効果が期待できる一方、代表的な副作用である胃腸障害は比較的弱いとされています。

つまり、有効性・安全性のパランスが取れた薬だと言えます。

ただ、市販薬では15歳未満の服用は不可となっています(小児用として同じブランド名で販売されてはいますが、成分は別物です)。

また、高齢者にも慎重に使う必要があります。

イブプロフェンはアスピリン(後述)を上回る効果が特色で、服用後1~2時間から効き始め、3~6時間効き目が持続します。

※疑問点はイブシリーズのホームページもご覧ください。

一方、ロキソプロフェンナトリウム水和物「スイッチOTC」といって、元々は病院で処方を受けないと入手できないかったのが、2010年より販売が解禁となった薬です。

その効き目は、現時点で薬局・薬店で購入できる成分の中では最強です。

よって規制が厳しく(第1類医薬品)、薬剤師のいる店舗でしか購入できませんし、服用は3~5日間に限られます(つまり一度に沢山買えません)。

※疑問点はロキソニンシリーズのホームページをご覧ください。

≪代表的な市販薬≫
❶イブプロフェン:「イブクイック頭痛薬」など
❷ロキソプロフェンナトリウム水和物:「ロキソニンS」など

【使用してみた感想】
大学1年の頃、片頭痛を発症した私が、生まれて初めて口にした頭痛薬(ピンクの錠剤)が「ロキソニン」でした(強い頭痛だったため2錠飲まないと効きませんでしたが・・・)。その数年後、病院薬剤師になると、この薬がベストセラーであったことを知ります。この薬の最大の特長は(CMでも描写されているように)速効性です。そして、効き目の割に副作用(胃腸障害)が少ないこと。よって、登場後30年以上経った今でも根強いファンが存在し、それと同時に乱用されることも多い薬なのです。

【病院薬剤師からのアドバイス】
副作用が少ないとはいえ、飲み過ぎると胃を傷めることがあります。なるべく空腹時の服用を避け(病院では胃薬が一緒に処方されることが多いです)、間隔は4時間以上空けるようにしてください。


2.サリチル酸系 ~かつてのスタンダード~
この系統のメカニズムは、先述したプロスタグランジンの合成阻害に加え、体温の調節や痛みに関わる中枢神経への作用という「二枚看板」です。

代表株は何といってもアスピリンです。

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Young & free I'm just a happy man
アスピリン片手のジェットマシーン
※「Happy Man/佐野元春」より

この歌詞にもある通り、長年頭痛薬のスタンダードとされてきました。

プロピオン酸系の登場によりその地位は揺らいだとはいえ、今なお多くの解熱鎮痛薬に使用されています。

泣き所だった胃腸障害も、胃の粘膜を保護する成分(合成ヒドロタルサイト)を配合した製品(バファリンAなど)も発売されています。

※疑問点はバファリンシリーズのホームページをご覧ください。

エテンザミドも市販薬に汎用されている成分で、アスピリンに比べ胃腸障害が少なく、他の成分と違い7歳から服用できる点が特色です。

また、「ACE処方」といって、後述するアセトアミノフェン・カフェインとの併用で相乗効果を期待する配合剤(ナロンエース・ノーシン・セデスなど)も多数発売されています。

※疑問点は新セデス錠のホームページをご覧ください。

≪代表的な市販薬≫
❶アスピリン:「バファリンA」など
❷エテンザミド:「新セデス錠」など

【使用してみた感想】
残念ながらどちらも服用したことはありません。片頭痛の際に「セデスG顆粒」という医療用医薬品を服用し、とてもよく効いた記憶はありますが、その成分は市販薬とは別物(後述するピリン系)でした。

病院薬剤師からのアドバイス
アスピリンに関して是非注意しておきたいのは、小児(15歳未満)に対する使用です。15歳未満の水痘(水ぼうそう)・インフルエンザの患者に投与しないことが原則だからです(ライ症候群という重篤な副作用を起こす可能性があります)。このため、バファリンは昔から「小児用」も発売されていますが、1985年以降は成分をアスピリンから別成分に変更しています。


あと、念を押しておきますが、CM内で「胃にやさしく 早く効く」というコピーが流れていた時期もありましたが、これは誤解を招きやすい表現であり近年では消えています。胃腸障害という副作用を工夫して減らしたので「胃に優しい」と言っているだけのことであり、アスピリンが「胃に優しくない」成分であることに変わりありません。よってコピーに釣られて、胃に弱い方があえてバファリンを選ぶ必要はありません。


3.ピリン(ピラゾロン)系 ~根強い人気の頭痛薬~
メカニズムはサリチル酸系と同じですが、より強く早く解熱・鎮痛作用を発現します。胃腸障害も比較的弱く、他の解熱鎮痛薬と配合することでより効果が発揮されます。「頭痛に特化した薬」と言っても過言ではありません。

代表格はイソプロピルアンチピリンです。

≪代表的な市販薬≫
イソプロピルアンチピリン:「サリドンA」など

【使用してみた感想】
先述の通り片頭痛の際に服用。良く効いた記憶があります。

病院薬剤師からのアドバイス(というかボヤき)】
医療従事者にとって、患者のアレルギーの有無を確認するのは鉄則です。ピリン系も重篤な過敏症状(ショック,アナフィラキシー)を引き起こすことがあり、「ピリン禁か否か」も必ず確認する必要があります。万が一でも「ピリン禁」に気付かずに投与してしまったら命にかかわることもあるからです。そのため、市販薬の包装にも目立つように「非ピリン系」と書いてある訳です。しかし・・・正直思うんですよね。「もういい加減古い薬なのだし、そんな面倒な薬だったら販売中止にしてしまえば」と。にもかかわらず一向に廃れることがないのは、それだけ「愛好家」が多い証拠。適正に使ってくれる分には薬剤師としても文句はないのですが・・・。

これは余談ですが、「アスピリン=ピリン系」と誤解している方が、医療従事者も含め一定数いるようです。アスピリンは別名「アセチルサリチル酸」といって、先述したサリチル酸系であり、ピリン系ではないのでご注意を。


4.アニリン系 ~使い勝手は抜群~
中枢神経に直接働いて痛みと熱を抑えます。抗炎症作用はないものの、プロスタグランジンの合成を阻害しないため胃腸障害が少ないのが特長です。空腹時でも飲め、小児・妊婦・授乳婦・高齢者まで幅広い適用があります。

アセトアミノフェンが医療用にも市販用にも広く使用されています。

≪代表的な市販薬≫
アセトアミノフェン:「タイレノールA」など

【使用してみた感想】
数年前、歯根膜炎(歯髄炎)による激しい歯痛で苦しんでいた時、救ってくれたのがアセトアミノフェンでした。持続性は乏しいものの、空腹時に飲んでも胃を傷めないため、仕事中に我慢できなくなった時に重宝しました。病院では「アセリオ静注液」という注射剤もあり、大腸がんの術後に点滴してもらったところ、速やかに痛みから解放された経験もあります。

病院薬剤師からのアドバイス
恐らくこの記事を読まれている方全員、子どもの頃にこの薬を使用している筈です。そう、「熱さまし」用の頓服薬(粉薬・坐剤)としてです。赤ちゃんにも使えるという安心感は絶大です。ただ、どんな薬にもリスクあります。1日量の上限が(成分量として)4000mgまでと定められており、これを超過すると重篤な肝障害を引き起こしてしまいます。


5.漢方薬 ~予防薬として推奨~
先述の通り、頭痛薬は使用制限が多い薬であり使用頻度も気になるところ。よって、漢方薬を検討される方も多いかと思います。効果に関するエビデンスは乏しいものの、ガイドラインでは予防薬として推奨されているものもあります。具体的には呉茱萸湯、桂枝人参湯、釣藤散、葛根湯などです。 

≪代表的な市販薬≫
呉茱萸湯エキス顆粒」「釣藤散錠剤」「葛根湯エキス顆粒A」など

病院薬剤師からのアドバイス
私自身、漢方薬を頭痛薬として使用した経験はありません。速効性は期待できないので、位置付けとしてはガイドラインの通り予防用ということになるでしょう。毎日服用することで頭痛が起きにくい体質を目指す薬です。

漢方薬は予防薬あるいは急性期治療薬として永年にわたり使用されており、経験的あるいは伝統的に、効果・安全性の両面から有用であると評価されております。これらを裏付ける科学的エビデンスも近年集積されつつあり、予防薬として推奨可能です 。( 推奨のグレードB ) 


6.薬物療法以外
緊急性の低い頭痛には、薬物療法以外の予防的治療も期待されます。

≪エビデンスのあるもの≫
❶行動療法
リラクゼーション、バイオフィードバック、認知行動療法、催眠療法など
❷理学療法
鍼(はり)、経皮的電気刺激など
❸ サプリメント
ナツシロギク、マグネシウム、ビタミンB2など
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

これらは次のような患者の治療オプションとして選択されます。
 ・薬物療法以外の治療を希望
 ・薬物治療に耐えられない
 ・薬物療法に禁忌がある
 ・薬物治療に反応しない
 ・妊娠または妊娠の可能性がある
 ・薬物乱用頭痛の既往
 ・明らかなストレス下にある場合 

一次性頭痛の薬物療法以外の治療法には行動療法、理学療法、サプリメント療法があります。これらの治療法には健康保険の適用外のものや副作用の報告もあるため、使用にあたっては個人の特性を考慮に入れて行います 。
( 推奨のグレードB〜C ) 
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より


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【コラム】お使いになりますか?

スネークマンショーって、YMO世代以上でないとご存知ないかもしれませんね。これは小林克也伊武雅刀によるちょっぴりエロな(!?)薬局コントです。もう40年近く前の(ゲゲッ!)の作品ですが、当時の薬剤師像ってこんなもんだったかもしれませんね(苦笑)。「どれをお使いになっても同じようなもんです」(笑)。「そんな薬剤師にだけはなるまい」と日々精進してきた私です(ホンマかぁ?)。


頭痛の分類と治療法

慢性頭痛治療ガイドライン市民版」を参考に解説していきます。

1.片頭痛 ~ビジネスパーソンの敵!?~
慢性頭痛の治療の中心となるのは、生活支障度が強く社会経済学的にも「損失」の大きい頭痛、片頭痛です。

片頭痛は頭痛発作を繰り返す疾患で、発作は4〜72時間持続します。

片側性・拍動性 ( ズキズキする ) の頭痛で、中等度〜重度の強さであり、日常的な動作により頭痛が増悪することが特徴的であり、随伴症状として悪心光過敏・音過敏を伴います。


ガイドラインには片頭痛の薬物治療に関して次のように記述されています。

片頭痛の重症度に応じて薬剤を選択します。片頭痛急性期治療薬には、次のような種類があります.
  1)アセトアミノフェン
  2)非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs) :アスピリンなど
  3)エルゴタミン製剤
  4)トリプタン系薬剤
  5)制吐薬
軽度〜中等度の頭痛にはアスピリンなどの消炎鎮痛薬、中等度〜重度の頭痛にはトリプタン系薬剤が推奨されます。いずれも場合も制吐薬の併用は有用です。 ( 推奨のグレードA ) 
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

ただ、(ガイドラインにも多少の追記はありますが)これでは使い分けの説明が不十分だと思いますので、更にかみ砕いて解説してみようと思います。

❶発作直後に飲む薬

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閃輝暗点のイメージ ※Wikipediaより引用

片頭痛には頭痛が起こる前、上図のような前兆現象(閃輝暗点が出ることがあります(慣れて来れば前兆の前兆、つまり「閃輝暗点が出そうだ」ということも察知できるようになります)。まだ痛みが起こっていないこの段階で飲むと頭痛に発展させずに済む(つまり時間を巻き戻せる!)有り難い薬が昔からあるエルゴタミン製剤です。ただこの薬は病院でしか手に入りませんし、子宮収縮作用がある(流産する)ので妊婦は禁忌となっています。

❷痛みが始まったら飲む薬
閃輝暗点がピークアウトする頃からこめかみに激しい頭痛が始まります。その際に飲むべき薬が「痛み止め+吐き気止め」です。特効薬であるトリプタン系薬剤(イミグラン・ゾーミッグ・レルパックス・マクサルトなど)を病院でもらっている方は痛み止めの代わりにそちらを飲んでも構いません。ポイントは「(痛みのダメージを受ける前に)できるだけ早く飲むこと」。前兆現象がない人や目覚めたら既に痛みが始まっている方も対応は同じです。

❸発作を予防する薬
頻繁に発作が起こると仕事や日常生活にも支障を来します。その場合は専門医と相談し、自分に合った予防薬を処方してもらってください。近年、片頭痛に保険適用のある薬もかなり増えてきました。

片頭痛の予防療法に使用される薬剤にはβ遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などがあります(以下省略)。( 推奨のグレードB ) 



先述した通り私は片頭痛持ち。

四の五の言うより、私のリアル体験談をご紹介しようと思います。

≪片頭痛と私≫ ※非公開ブログより引用 
初めての発症は高2の頃。
授業中、黒板の文字で見えない箇所があることに気付きました。
気のせいかと思い、何度目を凝らしてもやはり視野が欠けている・・・。
この時点では寝不足のせいかと思っていました。
しばらくすると、片方のこめかみが痛み始め、時間の経過とともに次第に強くなっていきます(その頃には視野の欠けは消えていました)。
痛みが我慢の限界を超えて来たため早退も考えましたが、中学入学以来「皆勤賞」だった私は何とか最後まで耐え忍び帰宅しました。

家に帰った途端に私がした行為、それは激しい嘔吐でした。
そう、激しい頭痛に続き、激しい嘔気が襲って来ていたのでした。
「一体どうしたんだ、俺の体は?」
経緯を母親に話したところ、母親も似たような経験はあるとのこと。
嘔気についても特に驚いた様子はなし。
「そんなものなのかな?」と思いつつ、自分の中では「目の使い過ぎ」「睡眠不足」ということで納得しようとしていました。

嘔吐の後にもう一つ体調の変化がありました。
頻繁な「あくび」です。
今回のことが「睡眠不足」であるのなら説明もつきます。
しかし、これほど頻繁に繰り返されるあくびは初めての経験でした。
眠気は確かにあります。
しかし、残存する頭痛が邪魔をして、なかなか寝付くことができません。
度々あくびを繰り返すうち、次第に痛みも軽減していきました。
ようやくひと眠りできると、あれだけ悶え苦しんだのが嘘のように爽快な目覚めとなりました。
「やはり寝不足だったのか?」
たまたま調子が悪かっただけ・・・そう思いたいところでしたが、1週間余りしてまた同じことが起こったのです。

またしても視野が欠ける・・・。
一連の症状の流れを前回で学んでいた私は、頭痛や嘔吐が起こる前に、保健室に行かせてもらうこと にしました。
保健室に行き前回の経緯を説明すると、(もらいたかった)頭痛薬はくれず、早退して病院を受診するよう勧められました。
私は、とりあえず今回は休んで様子を見て、また起こるようならば受診しますと答えました。

なぜ受診を断ったのか?
激しい頭痛と嘔吐、ただならぬ異変であることは、それを経験した自分が一番よく分かっていました。
「もしや脳腫瘍なのでは?」
その位の病気ならば高校生でも知っています。
もしそれが懸念通りであれば、もはや大学受験どころではありません。
頭の中の整理がつかない私は、「非情な病名宣告が怖い」「両親に心配をかけたくない」という思いから、受診を断ったのでした。

保健室のベッドでひと眠りし教室に戻った私は、クラスメートに開口一番、こう言われました。
「お前大丈夫か?顔が土色やぞ」
トイレの鏡で自分の顔を映して見ると、確かに顔色は血の気を失い、黄土色になっていました。
隠そうとしても隠しおおせない変調に不安は募りました。

幸いそれ以降、(その時点では)謎の症状が頻発することはなく、たまに起こった時にも冷静に対処できるようになりました。
結局、頭痛の原因は不明なまま、大学へと進学することとなりました。
そして大学で薬理学を学ぶに至り、私は自分の「本当」の病名を知ることとなります。
「これって、片頭痛やったんや!」
帰省後、市内の脳神経外科を受診してみたところ、果たして私の「診断」が裏付けられました(笑)。
高2の時以来抱えてきた「脳腫瘍」の呪縛から解放された瞬間でした。
ただ、その後、社会人になってからも「強め」の発作は時折ありました。

「片頭痛」という病気を学び、経験を重ねることで、薬や病気との上手な付き合い方も次第に会得していきました。

・まず何らかの原因(ストレスなど)で血管が収縮する。一時的に脳虚血状態となるため、視野が欠ける(閃輝暗点)。この時点で痛みは生じない。
・神経伝達物質の枯渇に伴い、脳血管は一転、収縮⇒拡張に。すると、周りの神経を圧迫するため頭痛が生じる。
・神経への刺激が延髄にある嘔吐中枢に伝わると「嘔気」に、その隣の呼吸中枢に伝わると「あくび」につながる仕組み。

・「視野の欠け」の時点で食い止めれば、「頭痛」「嘔気」に進展しない。
・エルゴタミン製剤(当時はヘクトM錠を愛用)の早めの服用が肝要。
・ヘクトMが販売中止になってからは、インデラル(片頭痛の適応追加)を使用(現在でも白衣のポケットに入ってます)。

・痛くなってからはヘクトMは効かない。おとなしく鎮痛薬を飲もう。
・嘔気のこともあり、より消化器系の副作用が弱いロキソニンがベター。ただし1錠だと弱い。

・嘔気防止にはナウゼリンが有効(ああ、嘔気を止めてくれてるな、という実感がある)。
・「特効薬」と言われるトリプタン系薬(レルパックス)は個人的には期待外れ。高価なのに全くの無効。恐らく作用発現の遅さがダメダメ。

・寝ている時に発症する(痛くて目が覚める)こともある。これは仕方がない。仕事の日は時間休をもらおう。
・気圧の関係から、天気の悪い日(雨や曇りの日)は危険日なので予防薬は忘れず携帯すること。
・やはりストレスが溜まった時に好発するらしい。発症後ぐっすり眠れば、ストレスは不思議と消えている(発症は必然的なのかも)。
・加齢とともに頻度も症状の強さも減少するとのこと。悲しいかな(!?)最近ではその通り(同じく片頭痛持ちの同僚も同様とのこと)
・食べ物との関連性もよく指摘されるが、私の場合は関係ないらしい。チョコレートだって全然平気(笑)。
・一方、コーヒー(カフェイン)に予防効果があるのは実感できる。血管収縮作用があるからね。
・「物事をとことん考える人」に好発することを聞いたことがあるらしい。自分も当てはまるかも・・・。

参考になりましたか?

今の自分にとって片頭痛は、ストレスの「メルクマール」であり、「処理システム」と言えます。

つまり、片頭痛が起こるってことはストレスが溜まっている証拠。

そしてそのストレスを(苦痛は伴うものの)処理してくれる「有り難い」体の仕組みでもある訳です。

どんなに勉強しても、経験しなければ語れないことってありますよね。

片頭痛に関しては、患者さんにも「まるで目に見えるように」説明できる 薬剤師になれたので、これもセレンディピティかな?と思ってます。

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※片頭痛の症状に関しては、芥川龍之介の「歯車」でも詳しく描写されていますので、そちらもご一読ください(片頭痛持ち必読の書!?)。


2.緊張型頭痛 ~日本人に最も多い頭痛~
緊張型頭痛は、日本人の実に4~5人に1人が有する頭痛で、頭が締めつけられるような痛みが毎日のように続きます。

痛みは比較的軽く、動いてもひどくはならないので、時々起こる程度ならば日常生活への影響は低いですが、慢性型のものは難治で生活支障度も高い場合があります。

慢性緊張型頭痛にはトリプタンのような特効薬がなく、痛み止めで対処するしかありません(その意味では片頭痛よりも厄介と言えます)。

ストレスのマネージメント、姿勢の是正、肩こりなどを解消するための運動療法などの生活改善は、薬物療法に匹敵する効果があります。 

緊張型頭痛の 急性期(頓挫)療法 には薬物療法と非薬物療法があります.比較試験において十分に有効性が証明されている治療法は鎮痛薬です.頭痛発作時には急性期療法を使用し,慢性型緊張型頭痛には予防療法を併用することが望ましいとされています ( 推奨のグレードB ) 
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

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3.群発頭痛 ~男性に多い稀だが厄介な頭痛~
群発頭痛は片側の眼窩周辺から前頭部、側頭部にかけての激しい頭痛が数週~数ヵ月間、群発的に出現する頭痛で、夜間・睡眠中に頭痛発作が起こりやすいのが特徴です。

群発頭痛の発症年齢は通常20〜40歳代、男性における有病率は女性の3〜7倍で片頭痛・緊張型頭痛とは対照的です。

有病率は1000人に1人程度とされ、稀なタイプの頭痛と言えます。 

発作は定期的に起こるほか、アルコールにより誘発され、特に群発頭痛期間中は飲酒で発作が必発のため、禁酒が必要です。

治療法については、下記のガイドラインの記述をご覧ください。

急性期(発作期)治療薬としてはトリプタン系薬剤のスマトリプタン皮下注射が勧められます ( 保険適用あり.推奨のグレードA ) 。スマトリプタン点鼻やゾルミトリプタンの経口投与による有効性も報告されています ( 保険適用外 ) 。酸素吸入 ( 毎分7リットル以上 ) も有効とされております(推奨グレードB)。
群発頭痛発作期の予防療法にはカルシウム拮抗薬のベラパミル(推奨グレードB)、酒石酸エルゴタミンの就寝前内服(推奨グレードC)などがあります.副腎皮質ステロイドは経験的には有効なのですが、厳密な比較試験がないので推奨グレードはCとされています。
慢性群発頭痛には炭酸リチウム,バルプロ酸等の有効性が報告されています(推奨グレードC)。
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

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4.特発性低髄液圧性頭痛 ~横にならないと改善しない困った頭痛~
低髄液圧性頭痛は神経根の部分から髄液が漏出することで生じる頭痛で、その原因は、いきみ、咳込み、性行為、頭頸部外傷、しりもちなど多様です。

近年、「むち打ち症」との関係がマスコミで取り上げられていますが、むち打ち症の症状が全て脳脊髄液減少症と考えるのは正しくありません。

髄液は頭蓋内に貯溜する液体で、脳や脊髄を保護する作用がありますが、それが漏れて減少することにより脳の浮力が減少し、脳を支える組織が刺激されて頭痛が起こります。

低髄液圧による頭痛は。座位または立位を取ると増悪するのが特徴です。

特発性低髄液圧性頭痛は国際頭痛分類第2版に準拠して診断します。治療はまず安静臥床・輸液などの保存的療法を行い、改善が認められない場合に画像診断で髄液漏出部位を確認したうえで硬膜外血液パッチなどの治療を考えます。( 推奨のグレードA ) 
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

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5.二次性頭痛 ~絶対に見逃してはいけない危険な頭痛~
国際頭痛分類第2版によれば、頭痛はこれまでお話ししてきた一次性頭痛とそれ以外(二次性頭痛)に大別されます。

頭痛の鑑別診断で重要な点は,まず二次性頭痛の中でも危険な(致命的な)頭痛を除外することです(下記参照)。

危険な頭痛の簡易診断アルゴリズム

※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

二次性頭痛を疑うのは,次のような場合です ( 推奨のグレードA )  
1. 突然の頭痛
2. 今まで経験したことがない頭痛
3. いつもと様子の異なる頭痛
4. 頻度と程度が増していく頭痛
5. 50歳以降に初発の頭痛
6. 神経脱落症状を有する頭痛
7. 癌や免疫不全の病態を有する患者の頭痛
8. 精神症状を有する患者の頭痛
9. 発熱・項部硬直・髄膜刺激症状を有する頭痛
※「慢性頭痛治療ガイドライン市民版」より

二次性頭痛の原因の中には、くも膜下出血のように「見逃されると死につながる頭痛」が含まれています。

成人の二次性頭痛は「最初にして最もひどい頭痛」や、頭痛持ちの方でも「普段の頭痛とは様子が異なる頭痛」の場合は、危険な病気が原因となっていることがありますので、かかりつけ医と相談の上、神経内科や脳神経外科への受診(緊急時は直に受診)をお勧めします。

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まとめ動画を作ってみました。おさらい用にどうぞ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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