五輪最終日の夜は更けて… ボブスレーやクロスカントリー、フィギュアエキシビション

16日間(競技期間としては18日間)の北京五輪がもうすぐ終わる。

私としては朝10時からのカーリング女子決勝、日本対イギリス戦がクライマックスだった。普段は絶対目が覚めない日曜の朝10時。しかも前日は出社のうえに、深夜に五輪の観戦メモをまとめるnoteのアカウントまで作ったので、眠くて仕方がなく、決勝はフェインを摂りまくって観戦した。

と言いつつ、カーリングの試合後はテレビで放送されたボブスレーやクロスカントリー、フィギュアスケートのエキシビションをチャンネルを切り替えながら観戦した。

ようやくじっくり観戦できた、そり競技

ボブスレーの4人乗り男子決勝。ドイツが圧倒的な強さで1、2、4位。表彰台の一角はカナダが割り込み、2人乗りに続くドイツの表彰台独占を阻止した。優勝したフランチェスコ・フリードリヒは2人乗りとの二冠で、しかも2大会連続の二冠達成だ。

ドイツはどこが強いのか。スタートダッシュの速さも随一だったが、他国と比べて前半のスロープをかなり上端に寄って滑るラインを取っているように見えた。ドイツ3チームとも。フリードリヒを中心に、独自の攻略法を見つけたのかもしれない。

今回の五輪で、そり競技のテレビ中継は少なかった。リュージュ、スケルトンの放送はなく(ネットでは見られる)、日程の終盤でボブスレーが放送された。

鋼鉄製のそりに身体が守られるボブスレーに対し、リュージュは仰向けになって足から滑り、スケルトンは腹ばいの姿勢で頭からスロープに突っ込む。最高速度だけならリュージュが一番速いそうだ。

どちらも自分がやるのは勘弁願いたい競技だが、北京五輪を控えた昨年11月、同じ会場での練習中に、ポーランドのリュージュ選手、マテウシュ・ソホウィチュが大けがを負っていたと知った。

習熟のためコースを滑走したところ、スタート位置が分岐している男子のコースと女子のコースの合流地点のゲートが係員のミスで閉められたままだったという(!)。両足からそこへ突っ込んでいくのはどんな心境なのだろう。

「何とかバリアを避けようとスキーの滑降のようにジャンプしようとしたが、間に合わなかった」という。左ひざは骨が露出するほどの大けが、右足も重傷を負ったという。

ソホウィチュは不屈の意志でリハビリを行い、五輪への出場を果たす。リュージュ1人乗りで25位。重傷を負ったコースで3カ月後に競技に臨むとは。どこから強靭な精神がつくられるのか理解できないものがある。

クロスカントリーの「レジェンド」石田正子の激走

今回の五輪で、案外観戦する機会が多かったのはクロスカントリースキーだった。ただしクロスカントリー単体だけではなく、バイアスロンやノルディック複合の後半クロスカントリーも含むが。

大陸東側の北京は気温はマイナス10℃以下の低さとなるものの、降雪量は少ない。そのため五輪前半は周辺で地面が露出する箇所も多く、人工雪でどうにかコースを仕上げた状況が見て取れた。

今回の五輪のクロスカントリーで選手がストックを刺すときに「ピュッ、ピュッ」と聞きなれない音がするのに気付いた。人工雪ではこのような音になるそうだ。大会後半、北京周辺は雪に恵まれ、独特なストック音は目立たなくなっていった。

今大会のクロスカントリーで驚いたのは石田正子だった。2006年のトリノ五輪から出場している41歳の大ベテラン。2月12日の女子4×5kmリレーでは第1走者を務め、ROCとドイツに次ぐ3位の好位置で2人目に引き継ぐ大健闘。欧州勢が圧倒的に強いクロスカントリーで日本が3位を滑るのは驚きだった。まさにレジェンド。

ノルディック複合で荻原健司らが金メダルを取った90年代前半は、当時のルールで今よりタイム換算比率が高い規定だったジャンプで後続との差を開き、クロスカントリーで危なげなく独走するのが勝ちパターンだった。今回の五輪ではエースの渡部暁斗や山本涼太らのクロスカントリーでの好走が目立ち、団体戦での銅メダルの原動力になった。「クロスカントリーが弱い日本」は過去の表現になるのかもしれない。

今回の五輪はクロスカントリー女子の30kmフリースタイル・マススタートが全体での最後の競技。このレースで最後にゴールをまたいだのが中国のジニゲル・イラムジャンだった(周回遅れや途中棄権は除く)。

今回の北京五輪の開会式、聖火ランナーの最終走者として起用されたのがウイグル人のイラムジャンだった。「やりやがった! ウイグル人への弾圧をごまかす中国政府の汚い印象操作だ!」と感じたが、その選手が五輪の締めくくりを担うとは奇縁だろうか。

中国の人権問題は解決しないままこれからも続いていく。

フィギュアスケートエキシビション、華やかさの陰に儚さも

今回の五輪はスキー混合団体戦のスーツ規定違反問題、フィギュアスケートのカミラ・ワリエワのドーピング問題に大揺れに揺れた。

ワリエワは失意のうちに母国へと帰り、残された選手たちはエキシビションに臨んだ。

女子シングル決勝後に舞台裏で不満をぶちまけたというアレクサンドラ・トゥルソワも、ホットパンツ姿の刺激的な衣装で観客を魅了したという(私はボブスレー観戦中でその様子は見ていない)。私はロシア選手の精神の未熟さを憂いたが、一方で立ち直りが早いのも事実のようだ。

羽生結弦の「春よ、来い」。羽生らしい美しく凛とした演技。途中のリンクに身体を向けて低い姿勢で円を描いて滑るシーンは、長い時間をかけてリンクに惜別のキスをするようなアクションに見えた。

女子個人金メダリストのアンナ・シェルバコワも純白の衣装で、儚げな天使といういで立ち。終盤、天使の翼の部分がLEDで光る演出は本当に美しいと感じた。

また、ペアの選手がロッキーのテーマに合わせて滑走し、男子選手が女性選手からパンチを見舞われるなどの遊び心のあるプログラムは欧米勢ならではだと思った。日本選手にはぜひエフゲニー・プルシェンコの名プログラム、「セックス・ボム」を継いでほしい。

今回のエキシビションではリンク全体をプロジェクションマッピングで模様を描いたり、最後のシーンでは選手全員がLEDで光るゴーグルをつけて登場するなど、随所に新しい演出が目立った。

フィナーレで登場したビン・ドゥンドゥンが転倒したとき、羽生が助け起こす微笑ましい場面も。せっかく立ち直したビン・ドゥンドゥンにこっそり体当たりを食らわせた選手がいたのは面白かった!

ただ、華やかさの一方でどうしても儚さも。ロシア(ROC)の女子3人のうち、次の五輪にも出場する選手はいるのだろうか。ワリエワについては五輪どころか表舞台に出ることがあるかどうかすら怪しい。

次の五輪では選手の出場最低年齢が引き上げられる模様だ。彼女たちの連続出場の可能性もあるだろうが、ロシアの今の選手の扱い方を見ると、何とも言えない。

羽生は引退を口にすることはなかったが、本人の記者会見で語ったケガを考えると、おそらく競技者として次の五輪に出場することは難しいだろう。4回転半を大舞台の場で試す場が封印されるとしたら残念な気がする。ネイサン・チェンも次の五輪はどうなるだろう。

冬の五輪は選手寿命の長い競技と、短く低年齢の競技の差が極端だ。短い栄光ののち、別れの挨拶を告げているような五輪のエキシビションは、華やかななかにも儚さを感じる。

その儚さが、他のアイスショーと五輪のエキシビションとの違いだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?