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ベトナムに在る。

日本から出るのが夢だった。
中途半端で途切れ途切れにされた思い出を、全て消したかった。

十九で初めて海外の地を踏んだ。焦がれた想いの堰は切れて、狂ったように彼方此方へ行った。観光地、食物、出会いに目もくれず、夜行バスに飛び乗った。軋む車体、突き上げる路面が睡眠を削るけれども、背中のすぐ後ろを付きまとう焦燥感と疎外感を追いやってくれた。

精神的、物理的、あからさまに、暗喩的に、意図的、無意識に、日常に存在する疎外感はトラウマという言葉で結晶化し、焦燥を連れてきた。

立ち止まれなくなった。
何処にも、誰にも。
過去という時間だけがあの頃に縛り付けようとする。
どれだけ時が過ぎても、「あの頃」という過去は流れを遡ってくる。
立ち止まれない・・・立ち止まれない・・・

いつのまにかベトナムに居た。いつのまにか途切れずに、長く紡ぐ思い出になった。どの中途半端で途切れた過去よりも長く。
自分は相変わらずで、疎外感と焦燥感に苛まれるけれど、身体はまだベトナムに在る。

ここが終着駅、長い旅路の終焉になればいいのに。

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