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家族からお金を盗むのは犯罪なのか?

昭和から生きてきましたが、今ほどインフレを実感することはなかったです。ウクライナ危機以前は100円で買えていた冷凍野菜(きざみネギとか)やカップラーメン(デカ盛りとか)が、150円で売られています。立ち食いそば屋の値段を筆頭に、飲食店の金額も軒並み高騰しています。
昭和では、ガリガリ君レベルの棒アイスは50円でした(もも太郎なんかは30円だったと記憶しています)。自動販売機のジュースも、カルビーのポテトチップスも100円で買えました。

そんな私が子どものころのお小遣い事情はこんな感じです。

小学生:4年生まではなし。5年生になって500円(小学2年生のときにビックリマンチョコを万引きして捕まりました。母親が泣いていた姿が忘れられません)。
中学生:3000円
高校生:5000円

調べると、現代っ子のお小遣い事情も、私のときと大差ないようです。
現代っ子のほうが、きっとカツカツなやりくりをしていることでしょう。

当然、お金が足りません。買いたい漫画や服もあるから、1カ月5000円程度のお小遣いはあっという間に吹き飛びます。で、どうするか――?
親や祖父母の財布からお金を抜き取ったりしたことがある人は多いのではないでしょうか?

これはれっきとした犯罪行為ですので、反省しましょう。
しかし、親から子がお金を抜き取ったから逮捕された、という話はついぞ聞きません。なぜでしょうか?
その答えになる箇所を、少年少女とその保護者向けに書かれた犯罪学教室のかなえ先生『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』を本記事用に一部抜粋・改編してお届けしましょう。


法律の中のグレーゾーン

 10年以上生きてくれば、誰だって少なからず、後ろめたい行動の1つや2つ、しているのではないでしょうか。
 たとえば、親のサイフからお金を盗んだことや、教科書代を多く請求して差額を遊び代に使ったりしたことはありますか?
 よくある保護者からのお悩みで、「サイフから小銭やお札が数枚抜かれているのですが……」という話をよく聞きます。
 窃盗行為は、たしかに犯罪です。
 親が警察に訴えれば、逮捕されるのでしょうか。
 しかし、親のサイフからお金を抜き取ったとしても、たしかにその行為は犯罪になりますが、法律上は刑罰を与えないとされているのです。驚いた人もいるかもしれません。
 実は、一定の親族間で特定の罪を犯した場合、犯人の刑は免除されることや、被害者からの申告(告訴)がなければ起訴することができないという特例があります。
 これを「親族相盗例」といいます。
 たとえば刑法第224条1項 において、親族間の犯罪に関する特例の規定があります。
 そのため、実の親のサイフからお金を抜き取る行為は刑法第235条(窃盗罪)に該当するわけですが、この親族相盗例により、子どもに刑罰を科すことはできないのです。
 窃盗罪以外にも、詐欺罪や横領罪などにも親族相盗例の規定が存在します。
 どうして、一部の罪だけこのような特例があるのでしょうか。
 これは、「法は家庭に入らず」の考えによるものです。
 ざっくりと説明すると、これは国家権力がむやみに家庭内の問題に介入するよりも、家庭の問題は家庭の中で解決させるべきという考えに基づくものです。家庭内の財産犯(窃盗罪、詐欺罪、横領罪など)については、国家による刑罰権は発動されないことになっています(DVや虐待には親族相盗例は適用されません)。
 しかし、刑罰が科せられないだけであって、親のサイフからお金を盗む行為自体は犯罪行為です(反対に「子どものお年玉を親がネコババする行為」も横領罪や詐欺罪に該当する可能性のある行為です)。

「成功体験」が犯罪へのハードルを下げてしまう

 1回ならまだしも、バレなかったと味をしめて何度もサイフからお金を抜き取れば、遅かれ早かれ保護者は気づくものです。
 単におこづかいが足りないとか、どうしても欲しいものがあるといった理由がほとんどでしょうが、一度悪い手グセがついてしまうと、親のみならず、同級生のサイフから盗むことや、万引きに対する抵抗感も薄れてしまいます。
 犯罪の手段を学習するようになるだけでなく、犯罪行為に手を染めている自分自身を正当化する理由も獲得していくようになるのです。
 たとえば、若者に増えている大麻乱用についても吸引の方法だけでなく、「大麻は体に害がない」「海外では合法だから大丈夫」などの使用する自分を肯定する情報を集めるようになることがあげられます。
 小さなころからずっと心の中で育んできた善悪の間にあるカベを、「成功体験」でヒョイと飛び越えることを繰り返すと、その先にあるもっとエスカレートした犯罪行為のハードルも低く感じてしまうようになります。
 そして気づいたときには、簡単にはコチラ側には戻れなくなってしまうのです。

お金がなくなるのはSOSのサイン?

 保護者のサイフからお金を盗む別の理由も存在します。
 よくあるのは、クラスメイトから恐喝されているなど、トラブルに巻き込まれているケースです。
 その場合は、まずは親に正直に伝えるべきでしょうが、親に心配をかけたくないという思いと、プライドや怒られてしまうという気持ちから、言い出しづらいという人も多いはずです。
 しかし、一度おどされてお金を払ってしまうと、二度目、三度目もあるものです。そのたびに要求はエスカレートし、金額も増えていきます。追いつめられる前に親に助けを求めることが、解決への近道です。
「助けてほしい」「困ったことがある」……、ふだんから家庭の中で、お互いに言い合える関係をつくっていくのも重要ですね。
 一方保護者側も、盗みに気づいたからといって頭ごなしに叱るのは少し待ってください。というのも、先述のようなケースが考えられるからで、子どもをさらに追いつめることになってしまいます。
 親のサイフからお金を盗むという行為も含めて、子どもの問題行動は、何かのSOSを求めた可能性が高いと考えてください。

cf) 150万円も家のお金を持ち出した横浜市小学生いじめ・恐喝事件
東日本大震災から5カ月後に、福島県から横浜市の小学校に転校してきた児童に対する同級生によるいじめ・恐喝事件。
男子児童は転校直後から、名前に「菌」を付けられるなどのいじめを受け、一時不登校になりました。さらに小学5年生になった2014年には数人の児童から「プロレスごっこ」と称して暴行を受けるように。
加えて、いじめっ子たちのゲームセンター代などの遊興費や交通費などを「おごらされていた」もので、児童はいじめられないために、いじめっ子に何回もお金を渡していました。被害児童によると総額150万円を家から持ち出していました。
この事件に関しては、横浜市の教育長が2017年1月に「いじめと認定するのは難しい」との見解を示したため、「これがいじめではないなら、何がいじめなのか」と世論が沸騰する事態になりました。


犯罪学教室のかなえ先生の新刊が売れているようです。デビュー作を担当した著者が、その後活躍している姿を見るのはうれしいものです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部  いしぐ  ろ  )


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