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人は自分の感情にもウソをつく。私は本当に「とんかつ」が好きなのか?

以前にもnoteに書きましたが、私はすみっコぐらしの「とんかつ」が好きです。


「とんかつ」はあぶらっぽいから残されたとんかつの切れ端で、歩くとペチャペチャとした足跡がにじみます。見た目は茶色。他の主要キャラクター、しろくま、とかげ、ぺんぎん?、ねことは違い、動物でもない。

そんなキャラクターをなぜ私は好きなのか……?
いや、本当は好きではないのかもしれない……。

ここ最近、そんな不安?が頭をよぎります。
今週末発売予定の『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』という本を編集したことがきっかけです。


「認知バイアス」とは、偏見や先入観、一方的な思い込みや誤解などを幅広く指す言葉です。本書では論理学・認知科学・社会心理学3つの専門分野それぞれで必要不可欠な20項目を厳選し、合計60項目にまとめ、図版やイラストを交えて解説しています。

なぜ、本書を編集している途中に、自身のとんかつへの愛情を疑ってしまったか――。それは次の記述によるものです。

人は自分の感情でさえ勘違いしてしまう。

たとえば、本当はかわいいと思っていないのに「かわいい」と思ったり、しんどいと思っているのに「楽しい」と思ったりするというのです。
どういうことかピンと来ないかもしれないので、いくつか例を出しましょう。

自分の感情を勘違いする例1 吊り橋効果

これは有名ですよね。
恐怖心からくる鼓動の動きを、恋愛感情のドキドキと勘違いしてしまうというものです。

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自分の感情を勘違いする例2 認知的不協和

こちらも聞いたことがあるかもしれません。
自身の感情と行動が一致していなかったり、異なる意見を抱え込んだことから生まれるモヤモヤです。こうした不快感を抱えていると、自分の本当の感情が変容してしまうそうです。
わかりやすい例でいえば、ブラック企業に勤めている人が辞めない理由です。

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「つらいんだったら辞めればいいのに」と外野は考えがちですが、本人の中では図のような葛藤によって自身の行動を正当化してしまうのです。
私もとんかつに対して、「他のキャラと比べて変」「娘がすみっコを好き」「とんかつだけ動物じゃなくてかわいそう」「あぶらっぽい」という感情が、「とんかつはかわいい」「とんかつが好き」という感情に変容した可能性は否定できません。

自分の感情を勘違いする例3 チアリーダー効果

1人でいるときを見ると何とも思わないけど、集団で見ると魅力的に見える現象です。
アイドルグループなんかは、この効果の恩恵を大いに受けているのではないでしょうか。これも自分の本来の感情を変容させてしまう感情の1つです。
魅力云々とは違いますが、確かに何らかのきっかけで女性の集団にぶちこまれると、個々の女性の戦闘力が上がったように感じ、私なんかは気後れしまくりです。

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ちなみに、すみっコぐらしのメンバーがチアリーダーの格好して踊っているイラストだったかグッズがあります。それを見ても特段魅力が上がったり、下がったり、というのは感じませんでした。

自分の感情を勘違いする例4 知覚的流暢性誤帰属説

難しい言葉ですが、本書の中ではサブリミナル効果に関連して解説されている言葉です。
簡単にいえば、過去に接したことがあるもの(それを忘れていたとしても)に再度接したとき、スムーズに知覚できることを指します。この「スムーズな感じ」を「好き」とか「心地いい」と感じてしまうというのです。

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たとえば、「キモかわいい」なんて言葉がありますが、これも知覚的流暢性誤帰属説の感情の流れに沿って生まれたのかもしれません。奈良の「せんとくん」、船橋の「ふなっしー」……。初めて見たときと今では、受け止め方が変わっているという人は多いのではないでしょうか。

以上のように、人は自分の感情さえ勘違いする現象がたくさんあります。これで、私がとんかつに対する自身の愛を不安に感じた理由をご理解いただけたかと思います。
ちなみに本書では、自分の感情を正確に把握するために、日記を記すことが薦められています。

ただし、人は自分の感情にウソをつくことで、かろうじて前向きに、道を踏み外すことなく生きることができるのではないか、とも思います。
若い頃は壮大な夢があったはずなのに、結局は就職し、結婚し、子供が生まれ、いつの間にかそれが愛なのか義務なのわからないまま妻や子供と過ごし、テンプレみたいな平々凡々な人生を歩んでいく……。
ふとした瞬間に「これが本当にオレの求めていた未来だったのか……?」と感傷にふけることもありつつ、「いやいや、こうした平凡な人生こそ、幸せなのだ」「なんか、偉い人もそう言っていたし」と自分に言い聞かせる。そうでもしないと、突然脱サラして蕎麦屋をやったり、小説を書いて自費出版したり、いい年をしてミュージシャンを目指したりと、危なっかしい方向に行くことになったりするかもしれないですし……。

『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』では、今回紹介したような自分自身の内面、そして外部から受け取る情報を歪めている現象や心の不思議な動き、その対処を解説しています。
興味のある方は、ぜひ手にとってみてください。

(編集部 石黒)

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