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永訣の朝  「あめゆじゅとてちてけんじゃ」  2020 /03/29の記憶 (Ora Orade Shitori egumo)映画化!

「あめゆじゅとてちてけんじゃ」
           死にゆく日、最愛の兄に、雪を頼んだ妹とし子。  その妹への想いを詠んだ詩です。



2020/03/29 今冬一番の大雪に・・・今朝、雪を見てすぐに、この詩が頭を流れました。記憶を手繰ってください。賢治のリアルな風景と清々しさが残ります。

朗読すると5分! お付き合いください。
兄は宮沢賢治・妹は宮澤トシ

「永訣の朝」
けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
   (あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
   (あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀(たうわん)に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛(さうえん)いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
……ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまつしろな二相系(にさうけい)をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう
わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あああのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
   (うまれでくるたて
    こんどはこたにわりやのごとばかりで
    くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ


他の文章は忘れても「あめゆじゅとてちてけんじゃ」
           は何方の記憶にも残っている一文ですよね。

『おらおらでひとりいぐも』の秘密

ところがもう一度検索して読んでみると、ローマ字の部分は、158回芥川賞作家若竹千佐子氏の題名「おらおらでひとりいぐも」でした。この本を読んだときには、「永訣の朝」のローマ字を思い出しませんでした。この本も大変個性的な芥川賞でした。

宮澤トシ氏はこの時24歳これにも驚きましたが、岩手から東京(日本女子大)まで行かれた多才な方だった事にも驚きました。

岩手の方々には独特な気持ちが籠ったフレーズと思われます。お元気であればキャリアウーマンとして、兄とは別の歴史に残した方かもしれないと、想像を馳せていました。心に届くと嬉しい・・・です。



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