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Suzano ARRプロジェクト 〜産業植林の炭素クジレットは成り立つのか〜

Verra Registryに登録されているARR(植林)プロジェクトの中で、2024年1月現在、発行予定クレジット量が最大であるSuzano社のARR Cerrado Carbon Projectを見ていこう。

Suzano社概要

  • Suzano社はブラジルの紙パルプ企業で、パルプの生産量は世界最大を誇る

  • 2022年売上高9.8 BilUS$、EBITDA 5.5 BilUS$

  • ブラジルに2.5百万ha(1.4百万haのユーカリ植林地と1.1百万haの保護林)の森林を保有

  • ブラジルのマットグロッソドスル州に2024年6月稼働予定の2百万t/年の世界最大規模の新パルプ工場を建設中

Suzano社IR資料より https://s201.q4cdn.com/761980458/files/doc_news/2023/11/Apresentacao/2023-11-30-JP-Morgan-Brazil-Opportunities-Conference-2023.pdf

ARRプロジェクト概要

  • ブラジルの南部にあるマットグロッソドスル州(MS州)に38,708haのユーカリ種を植林する。

  • 植栽したユーカリは7年程度のローテーションで伐採、再植林し、木材はSunazo新工場へ供給。

  • FSCを取得や社会貢献活動もプロジェクトに含む。

  • エリア内にはRL(法定保護区)とAPP(永久保護区)を設定する。

  • プロジェクト期間は2019年7月から2119年7月までの100年間。

  • プロジェクト期間におけるLTA(Long-Term Aberage GHG benefit)は7,598,476tCO2e. (永続性評価によるバッファ分は除かれていない)

  • 方法論はAR-ACM0003:Afforestation and reforestation of lands except wetlands(湿地以外での大規模植林活動。CDMで開発された大規模植林向け方法論)

  • 追加性とベースラインはAR-TOOL02:Combined tool to identify the baseline scenario and demonstrate additionality in A/R CDM project activitiesというこちらもCDMのベースラインと追加性ツールを使用。

  • ①畜産シナリオ、②クレジットない場合の植林シナリオ、③大豆シナリオという3つのシナリオを作成し、ベースラインと追加性を判定している

プロジェクトの現状

 2024年1月現在の同プロジェクトはPipline(申請中)であり、2023年3月にVerraから一旦Denied(拒否)されている。理由は予想除去レート(1年1haあたりのGHG除去量)が一般値よりも高すぎるためとのことで、現在Suzano側で修正中と思われる。

<GHG除去レート>

  • 本プロジェクト:                    184.7 tCO2ha-1year-1

  • 一般値(Bernal et al. 2018):   38.8  tCO2ha-1year-1

Bernal,B.,Murray,L.T.&Pearson,T.R.H.Globalcarbondioxideremovalratesfromforestlandscaperestorationactivities.Carbon Balance Manage 13, 22 (2018). https://doi.org/10.1186/s13021-018-0110-8

考察

さて、一旦否決されてしまった本プロジェクトであるが、否決されたポイント以外にも主に3つのハードルをクリアする必要があるだろう。

  1. 方法論を更新する必要 

    1. 採用しているCDMの方法論AR-ACM0003はVerraの新しい方法論VM0047に置き換える必要がある。

    2. 新しい方法論VM0047はダイナミックベースラインを採用しており、MRVもリモートセンシングをベースに行われる。これまでのような伝統的なA/R CDMの方法論から大きく進化しているため、これに対応する必要がある。

  2. 追加性とベースライン(新しいパルプ工場の影響)

    1. 追加性もVerraの新しいツールを使用する必要があるだろう。また、そもそもこのプロジェクトエリアにSuzano社の新パルプ工場が建設されるため、周辺地域にユーカリ植林がクレジットプロジェクトの有無は関係なく増える可能性がある。

    2. さらにチリのパルプ大手Arauco社も同地域へのパルプ工場建設を発表しており、ベースラインとしての植林地が増える可能性が高い。

  3. モノカルチャーの是非

    1. VCS Standard V4.5では以下の規定があり、非在来種の寡占状態は認められていない。

For ARR and WRC activities the project shall not introduce non-native monocultures

VCS Standar V.4.5 3.19.27 3)
https://verra.org/wp-content/uploads/2023/08/VCS-Standard-v4.5-updated-11-Dec-2023.pdf

 2. 現在、この規定に関してはパブリックコンサルテーションが行われて
  おり、30%以上の在来種の生態系エリアをプロジェクト内に設けること
  という変更案がでている。
 3. 本プロジェクトは保護区の設定がされてはいるが、見直しが必要であろ
  う。

最後に

 ユーカリプランテーションのような産業植林が炭素クレジットプロジェクトとして成り立つのかは過去から議論がある。本プロジェクト予定地のブラジルMS州は多くのパルプ工場の増設が計画されており、自然体(BAU: Business as usual)でユーカリ植林が増えていくであろう。そんな中で追加性を証明することはかなり難しいのが実情であろう。
 しかしながら、多くの産業植林は初期費用の大きさや回収期間の長さから、担い手が資金力のある大手企業に限られ、また、立地条件も良い場所に限られるなど、投資のハードルが高かった。炭素クレジットによる収入があれば、ハードルが下がり、実際に植林が増える可能性がある。
 産業植林はユーカリなどの高成長な樹種が植えられるため、単位面積当たりの炭素除去率が高く、土地開発圧を下げるといったプラスの側面も存在する。
 本プロジェクトの行末が他の産業植林へも影響するのではないかとおもわれるため、今後の動向を見守っていきたい。

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