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物事を〝ちっちゃくして〟考えよう!

9月2日

すべてはこの六坪ハウスからはじまった。
このちっちゃな百分の一の模型は段ボールでできたペーパーハウスだ。両面印刷した段ボールのパーツを指で押し出して壁や屋根を取り出し、それをスチレン糊でくっつけると完成するという、プラモデルのような仕組みだ。
二階建てになっていて、一階がLDKと浴室。2階に寝室を置いた。
段ボール印刷専門の会社に依頼してつくったのだが、両面の印刷がずれないようにするのがかなり難しかったと聞いた。

霧に包まれた由布の森の現場にて、此処に至るまでの経緯に思いをはせる。この六坪ハウスからはじまったミニマムハウスプロジェクトが、スモールキャビン「コヤキチ」で一つの完成形になろうとしているのであ〜る!
時折小雨の降る森では、今日も小鳥たちの鳴き声がすべてを癒すように小さく響いていた。

霧に包まれた由布の森の現場でコヤキチの建築はつづく

百分の一の模型は、百分の一の図面を元にしてつくる。
一メートルが一センチ、80センチは8ミリという具合に、すべてが百分の一になるから図面も描きやすく、頭の中で理解しやすい。というわけで、メーターモジュールで図面を描く僕は、まず最初に百分の一で図面を描くようにしている。
ちょっと想像してみよう。
自宅に二メートル幅のソファがあるとする。それを百分の一の図面に落とせば、ソファ幅は二センチになる。

百分の一に縮小すると見えてくるものがある。ノートのちっちゃなスペースに描くことができるので、周囲にかなりの余白が生まれ、他に大切なものや全体像が見えてくる。全体像が見えると、その力関係、つまりバランスがいいのかどうかが見えてくる。バランスはセンスだ。自分のセンスが見えてくると、もっとそれを高めたいと、向上心がアップする。なるほど、この大きさがあればこんなことが可能になるなあ、と想像力も増してゆく。百分の一の俯瞰できる世界は、想像力を刺激して楽しい。

この『百分の一思考』から、月末スープの家が〝リアルに〟誕生した。居住性を兼ね備えた(これが僕の中ではとても大切!)5.5坪のミニマムハウスをデザインして「めちゃかわいい!」と自画自賛していたら、不思議なことに、このプランを建てたいというHさんが登場してきたのである。
まさに、リアルのスタートだった。

畑を耕し、立ち寄る人と季節を語らい、花を愛で、食事をつくり、余った野菜をとっておき、月末に一度、ご近所のお年寄りのためにスープをこしらえて届ける暮らしを実践するHさんのための家。
だから、月末スープの家と命名した。

月末スープの家。たった5.5坪なのに天井が高く広い!

今年の3月に見学会も行い、ご来場いただいた大勢の方から「ちっちゃいのに広いですね〜!」というお言葉をいただいた。
これで勇気をもらった。これでいいんだ。このニーズは確かにあるぞ! 自己肯定感が飛躍的に倍増したのである。

Hさんを見ていると、世の中のすべてが大したことではない、という感覚を覚える。食べるものも、着るものもすべて自分で手作りするこの人は、自分の領分を守りながらも、常に人への気遣いを忘れることがない。それは、一切の気負いを捨てた諸行無常の感覚なのかもしれない。人生、これでいいのだ、と思えてくるのである。

二地域居住の時代が本格化すると言われている。そのようなデータもあるが、実感として、その時代がはじまっていることを痛感している。
ヒートアイランド化した都会に暮らしていると、いつも息苦しい。自然環境との接し方も、ギスギスしがちな人間関係も、すべてが息苦しく〝快適な牢屋〟に自らを閉じ込めている自分自身を呪いたくなることさえある。

自分を呪う一方で、一つの出口が見えてくる。二地域居住による田舎暮らし、自然への脱出、自己の解放だ。大したことはない。気軽にちっちゃくはじめればいい。すべてを『百分の一』に縮小して、世界全体をジオラマのように見渡し、その人間関係も、思惑も、目標や目的も、相対的に見れば自分の住む世界はなんとちっちゃいことか、世界は広いぞ! という思いの頂きに立つ。

『百分の一思考』を心がけると、客観視力がアップする。世界が小さく見える。世界の無限の大きさに気づく。
ちっちゃいは、楽しい。
ちっちゃいは、カワイイ。
ちっちゃいは、可能性にあふれている。
ちっちゃいは、新たな視点なのだ。

建築中のスモールキャビン「コヤキチ」の現場で、そんな思いをさらに強くした。このコヤキチでは、ちっちゃいからこそ、自分の思うような自然素材や木製サッシ、造作キッチン、理想のダブル透湿断熱も実現できた。

外壁に貼られた可変透湿シート。木製サッシもいい感じ!
ペットボトルをアップサイクルした断熱材。サスティナブルも大切なポイントだ。

大切なことが、もう一つ。
小は大を兼ねる、というイマジネーションだ。

日本人が生み出したミニマムな茶室空間に
小宇宙が宿ることを想像してほしい。

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