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【ブックレビュー】「離婚後の子どもをどう守るか」―”子ども中心”の権利構成が提示する、離婚後共同親権推進派への対抗案

1、目指したのは批判だけではなく”対抗案”の提示

同じ編著者による、親権・監護権をめぐる法律問題を論じた三部作の集大成となる本です。

まず、「離婚後の子の監護と面会交流」については、現在も問題となっている、いわゆる”面会交流原則的実施論”の弊害を検証し、その非科学性や、裁判所の自己保身的な実務運用を厳しく批判しました。

次に、「離婚後の共同親権とは何か」では、現在、議論が進められている離婚後の共同親権制度について、一知半解の”国際常識”や、画餅ともいうべき共同養育の理想によって、監護親が子どもたちの安全がいかに危険にさらされるかを論じてきました。

同書については、下記のブックレビューもぜひご覧ください。

そして本書。これは、前の2つの書籍とは異なり、”対抗案”を示すことを目指した本です。

2、参集した各界の第一人者

3人の編著者はいずれも弁護士です。
梶村太市氏は、家庭裁判所判事を長く務めた経験のある弁護士。
長谷川京子氏は、DV問題に長年取り組んできた弁護士。
吉田容子氏も、シンクタンクでジェンダーや子の監護の問題を研究している弁護士です。

実は、三部作のうちもっとも執筆陣が充実している本です。
一作目「離婚後の子の監護と面会交流」は、執筆者が何章も担当するなどの箇所が見られましたが、二作目「離婚後の共同親権とは何か」でほぼ全分野に執筆者をそろえられるようになりました。

加えて、三作目の本書では、
ジェンダー・・・上野千鶴子東京大学名誉教授
心理学・・・信田さよ子原宿カウンセリングセンター所長
憲法学・・・木村草太東京都立大学教授
民法学・・・小川富之福岡法科大学院教授
といったように、各界の第一人者が執筆に加わり、重厚な内容となっています。

3、推進派による”最近の議論”への理論的批判材料を提供

まず、第1章では、共同親権推進派の最近の議論、
・虐待防止
・虚偽DV
・ハーグ条約
・子どもの権利条約
といった言説に、理論的に筋の通った反論材料を各論者が提供し、その思想的背景を上野千鶴子教授が解説されています。

4、当事者の声に理論的主張を補強

次に第2章では、当事者の「実感」を長谷川京子弁護士が詳しくご紹介されています。(当事者ではない私は、個人的に大変勉強になりました)
そこに、海外での虐待防止活動の経験が豊富な森田ゆり氏、カウンセリングの第一人者信田さよ子氏、発達心理学の専門家平井正三氏、ジェンダー研究者の千田有紀教授などが、心理学やジェンダーの観点から理論的主張を補強されています。

5、充実した多面的法律論

第3章では、前の二作同様、最前線の法律家や学者による子の最善の利益に関する法律論が展開されています。
前作「離婚後の共同親権とは何か」では、論者の主張がオーバーラップするところが目につきましたが、本作では、従来の法律実務論だけではなく、前作にはなかった国際人道法や子どもの権利条約といった面から、多面的視座を提供されているところが特徴的といえます。

注目したい点は、木村草太教授が主張する「子どもの人間関係形成の自由」に関する主張、子どもの権利条約、国際人権法からの視点を提供する鈴木隆文弁護士、ハーグ条約を検証した吉田容子氏の論考です。

6、注目すべき最新の海外理論

また、「共同親権は世界の常識」という固定観念を覆す論考して、前作にも執筆された小川教授の論考のほか、英国に関する「子の最善の利益」の最新理論を紹介された矢野謙次氏の論考も押さえておきたいところです。

矢野氏の見解の一部については、下記連続ツイートでご紹介しております。

7、法律書を買うコツは、「長く読み継がれるべき本」だけを買うこと

私は、法律の勉強をかれこれ20年以上続けていますが、読むべき本はそんなに多くないと思っています。(論文書くのにぱらっと見る本が大半)

決して安くはない法律書を買いそろえるコツは、長く読まれている本を買うことなんですが、前作「離婚後共同親権とは何か」と本書「離婚後の子どもをどう守るか」については、一生モノとして買って損は全然ないと思います。

別に法律関係の仕事・研究者ではなくても、教養として、また、学生が「健全な人権感覚」をつかむうえでは、具体性があって最適だと思います。

是非、多くの方に「読み継がれる」ことを願って。

(了)

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