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foresDiary:背広

2022/10/11

 背広ってなんでかっこよく見えるのだろう。オフィス街でひらひらと揺れるそれは、なんだかかっこよさをさらにマシマシで盛ったかのよう。背が高いとなおさらである。

 その日、仕事で郵便局に行く用事があった。いつも通りに郵便物を出し、さぁ戻ろうと片道5分程の帰り道を歩いていると郵便物の隣にあるランチが美味しいと話題のパン屋さんから見覚えのある人───先輩が出てきた。背広を揺らして颯爽と歩く。なぜなんだろう、後ろ姿で分かってしまう自分が怖い。しかし速い。足が速すぎる。必死に、気付かれないように早歩きをするも追いつけない。最終的にコツコツコツとパンプスを鳴らして小走りになるが気付かず。でも疲れは無く、むしろいつもよりかっこよく見えすぎて外は寒いというのに額からは汗が滲み出ていた。

 もうすぐ会社のビルが見える曲がり角寸前でやっと先輩に追いついた私は何をしたかというと、(勝手に)左手を伸ばし人差し指で先輩の右肩を押してしまう。受け身体勢になった後、びっくりして振り向くと我儘な後輩がいる───そんな面白いモーションを主犯者である私は一部しか見ることができず、やはり目を逸らしてしまう後輩。あーあ、せっかく背広でかっこよく見えてたのにそんなことされたらギャップ死するぞ。まぁ目見れてない時点で死んでんだけど。

 季節の変わり目というのは私がした「おしゃれ」と一緒だと思う。着てる服が、印象が全て変わるような気がしてたまらない。もっと寒くなるとコートも羽織るだろう。ヤバい、耐性を付けておかないと私の心が持たない。そんなの去年も一昨年も見てきたのに。心も揺らがなかったのに。かっこいいって思うなら私も口に出して言えばいいのに。先輩が「おしゃれですね」って言ってくれたみたいに。…いや、恥ずかしい。どっちにせよ今の私には無理だ……

 今日も背広をなびかせて帰路についている頃だろう。「背広、先輩をかっこよく見せてくれてありがとう。」口で言えない代わりに背広に感謝を伝えておくよ。

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