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外向き長波放射量?難しくないよ!【第59回-専門-問15 気象予報士試験の解説】

第59回気象予報士試験の専門知識を解説していきます。
全ての記事を無料で公開します。
1人でも多くの人に、気象について興味を持ってもらえたらうれしいです。

問題

問15 図1はある年の6月から9月にかけてのフィリピン付近の外向き長波放射量の変動を示し、図2はこの年を含む2つの異なる年の8月の月平均海面気圧と平年偏差を示したものである。これに関連する日本の天候について述べた次の文章の空欄(a)~(d)に当てはまる語句や記号の組み合わせとして適切なものを、下記の①~⑤の中から 1つ選べ。

 この年の7月のフィリピン付近の対流活動は平年より(a)だったが、8月に入ると一転して(b)となった。フィリピン付近の対流活動は日本付近への太平洋高気圧の張り出しに影響することが知られており、この年の8月の海面気圧分布は図2の(ア)(イ)のうち、(c)で、東・西日本では平年と比べて(d)天候となった。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済
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そもそも、対流活動とは

そもそも、対流活動とは、みなさま大丈夫でしょうか?

対流活動と聞いたら積乱雲をイメージするとよいと思います。
(当然、積乱雲のみならず、積雲や乱層雲も対流活動でできる雲ですが…)

例えば、夏の午後にできやすい積乱雲の最盛期は、
熱せられた下層の空気が上層に持ち上げられ、雲がモクモクできます。
同時に、上空の冷えた空気が下層に下降し、ダウンバーストが発生することもあります。

このように、空気が上層=下層間でグルグルすること
それがまさに対流活動です。

(a・b) フィリピンの対流活動→ 7月活発・8月不活発

 この年の7月のフィリピン付近の対流活動は平年より(a)だったが、8月に入ると一転して(b)となった。

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どう解いたらいいんだろうと思った人も多いでしょう。
おそらく図1を使うんだろうとは察しますよね。

図1は、「外向き長波放射量」のグラフです。
「はい、ムズイ~」と飛ばす前に、長波放射量を考えてみませんか?

地球は、高温の太陽から短波放射で、エネルギーを受け取ります。
同時に、地球は、低温ながらも長波放射で、エネルギーを宇宙に出します。

ここで、気象衛星の画像を思い出してみましょう。
赤外画像は、地球から放出される(外向きの)、
長波(赤外線)のエネルギーの強さを観測しています。
(参考)赤外画像のおはなし(59回専門9)

雲がなければ、温度が高い地上から出るエネルギーを、衛星でとらえます。
一方、雲があると、雲は地上から出るエネルギーを毛布のように吸収し、
宇宙に出ていかないようにします。
代わりに、雲は頂上付近から、地上より低温のエネルギーを宇宙に出します。

図1が示すのは、赤外画像と同じ話で、次のとおりです。

  • 対流活動が活発=雲が多い=低温の雲頂から長波エネルギーを宇宙に出す=外向き長波放射量が少ない

  • 対流活動が不活発=雲が少ない=高温の地上から長波エネルギーを宇宙に出す=外向き長波量が多い

図1を確認すると、7月の放射量<8月の放射量ですので、
対流活動は、7月は活発、8月は不活発とわかります。

(c)フィリピンの対流と太平洋高気圧の関係 → ア

フィリピン付近の対流活動は日本付近への太平洋高気圧の張り出しに影響することが知られており、この年の8月の海面気圧分布は図2の(ア)(イ)のうち、(c)で、

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そもそも、太平洋高気圧がなぜできるのかを理解しておきましょう。

 地球規模で見ると、高緯度よりも日射量の多い赤道付近では、気柱が温められ、地上の気圧が低くなっています。これにより赤道付近には、赤道低圧帯とよばれる気圧の低い地帯ができています(図4-15)。
 赤道低圧帯には、南北から吹き込む風がぶつかって上昇気流ができ、積乱雲が活発に生じます。

(出典1:古川武彦・大木勇人 2022:161-162)
大気大循環の概念図(出典2)

そう!フィリピン付近の夏は日射量が多く、赤道低圧帯と解されます。
地上付近で南北からの風がぶつかって(収束)、上昇し、
上空では、南北へと風が分かれて(発散)いきます。

すると、少し高緯度の亜熱帯の上空で、空気がたまって下降していきます。

 亜熱帯高圧帯では、上空から地上へと空気が下降しています。下降するときに断熱圧縮により温度が上がり、相対湿度が下がるので、熱く乾燥した空気をともなう高気圧をつくり出しています。陸上にできると、砂漠の気候をもたらします。アフリカのサハラ砂漠、中東やオーストラリアに広がる砂漠は、亜熱帯高圧帯によってできた砂漠です。
 また、日本の夏に影響を与える太平洋高気圧(小笠原高気圧ともいう)は、海洋上にできた亜熱帯高気圧です。高気圧の中心にある下降気流のもとでは乾燥した空気ですが、海上を吹き渡るうちに湿った風に変わります。

(出典1:古川武彦・大木勇人 2022:163)

以上、太平洋高気圧をまとめると、次のとおりです。

  1. フィリピンなどの赤道低圧帯で、上昇流がさかん。

  2. 赤道低圧帯の上空で、空気が南北へ。

  3. 亜熱帯高圧帯で、上空から下降流がさかん。

  4. 太平洋上では、太平洋高気圧がさかん。

このように、太平洋高気圧で下降してくる空気をたどると、
赤道低圧帯の対流活動で上昇した空気と考えられます。

(b)で、8月のフィリピン付近の対流活動は不活発としたので、
その下流にある太平洋高気圧も、顕著でなく不活発です。
そこで、図2のアとイについて、太平洋付近を比べると、
アのほうが、高気圧の度合いが小さいです。

太平洋高気圧が顕著でないのはアとわかります。

(d)太平洋高気圧と日本の天気の関係 → 曇りや雨

東・西日本では平年と比べて(d)天候となった。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済

もう大丈夫でしょう。
太平洋高気圧が日本に張り出すくらい顕著でないと、
日本付近は、高気圧縁辺の海上を吹いてきた湿った空気が流れ込んだり、
前線が停滞したりして、曇りや雨の日が多くなります。

まとめ

以上の検討を踏まえると、解答は⑤です。

いかがでしたか?(*^_^*)

(a・b)では、外向きの長波放射量が問われ、
(c)ではフィリピンの対流活動と太平洋高気圧の関係が問われ、
ちょっと難しかったかもしれません。

ただ、基本に忠実によく考えると解けますので、
あきらめずかんばりましょうねっ!(^O^)/

出典など

出典1:古川武彦・大木勇人,2022,『図解・気象学入門』講談社
出典2:気象庁東京航空地方気象台「羽田空港WEATHER TOPICS 定期号通巻第32号」
(https://www.jma-net.go.jp/haneda-airport/weather_topics/rjtt_wt20130930.pdf)から抜粋して作成

※ 本記事における解答や解法は、個人の見解であり、(一財)気象業務支援センターとは関係ありません。