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予測計算の前に客観解析!【第59回-専門-問5 気象予報士試験の解説】

第59回気象予報士試験の専門知識を解説していきます。
全ての記事を無料で公開します。
1人でも多くの人に、気象について興味を持ってもらえたらうれしいです。


問題

問5 気象庁が行っている数値予報の客観解析について述べた次の文(a)〜(d)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①~⑤の中から1つ選べ。

(a) 客観解析は、数値予報モデルの予報値である第一推定値を観測データによって修正する処理であり、修正量は観測データと第一推定値のそれぞれが持つ誤差の大きさ等を考慮して決めている。

(b) 全球モデルの初期値を作成する全球解析の4次元変分法には、アンサンブル予報から見積もられる予報誤差を組み込んだハイブリッドデータ同化手法が用いられている。

(c) 全球解析、メソ解析及び局地解析に取り込まれる観測データには、同じ解析対象時刻・同じ領域で比べても、違いがある。その理由の一つは、各客観解析によって、解析対象時刻から計算処理を開始するまでの時間が異なることである。

(d) 4次元変分法による解析では、数値予報モデルを実行することで大気状態の時間変化を考慮するため、3次元変分法による解析に比べて計算量が多くなる。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済

客観解析とは

客観解析をざっくり言うと、

  • 予測計算を始める前に、

  • スーパーコンピューターが、

  • 現在時刻における世界を再現する処理のことです。

将来の現象を予想するためには、
はじめに、現在の気象状況を把握してからということですね!

では、どんな手順で実施されているのでしょうか?

格子に切り分けたイメージ(出典1)

現在の地球をコンピューター上で再現するためには、
まず、地球全体を、水平方向(同じ高度で東西南北)に、
かつ、鉛直方向(同じ緯度経度で、様々な高度)に、
碁盤の目のように格子で切り分けます。

数値予報の流れ(出典2)

そして、例えば、現在が10時だとして、
今朝9時時点の各格子点の値を決定する際は、

  1. 前日21時に実行した数値予報に基づく、
    9時の予想値(第一推定値)を、

  2. 9時に実際に観測したデータに近づくように修正し、

  3. 初期値として出力します。

これを他の格子点でも繰り返すと、
今朝9時時点の地球が再現できます。

その後、ようやく予測計算を実行し、
今日の12時、今日の21時、明日の9時…と
予報値を求めていきます。

(a)客観解析の基本 → 正

(a) 客観解析は、数値予報モデルの予報値である第一推定値を観測データによって修正する処理であり、修正量は観測データと第一推定値のそれぞれが持つ誤差の大きさ等を考慮して決めている。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済

問題文のとおりです。

第一推定値とは、数時間前の数値予報から導いた
現在時刻の予想値のことです。

数時間前の数値予報を土台とすることで、
観測所が周囲にない、山岳地や海上の格子点にも、
数値を与えることができるメリットがあります。

とはいえ、そのままでは、現実に沿った値なのか定かではないので、
第一推定値をあくまで「たたき台」として、
実際の観測データによって修正して、初期値とします。

観測値と第一推定値の比較(出典2)

(b)ハイブリッドデータ同化 → 正

(b) 全球モデルの初期値を作成する全球解析の4次元変分法には、アンサンブル予報から見積もられる予報誤差を組み込んだハイブリッドデータ同化手法が用いられている。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済

問題文のとおりです。

この文は難しいので、正誤を判断できなくてもかまいません。

(c)取り込まれるデータ → 正

(c) 全球解析、メソ解析及び局地解析に取り込まれる観測データには、同じ解析対象時刻・同じ領域で比べても、違いがある。その理由の一つは、各客観解析によって、解析対象時刻から計算処理を開始するまでの時間が異なることである。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済

問題文のとおりです。
この文も、ずいぶんと応用的な内容が書かれていると思います。

全球解析では、地球全体を1日数回、
局地解析では、日本付近を1時間に1回、
コンピューター上に地球を再現していると考えましょう。

すると、全球解析の方が、処理を開始するまでの時間が長いので、
様々なデータが入電するのを待った上で、
より多様な観測データを取り込めそうだと想像できます。

(d)4次元変分法の計算量 → 正

(d) 4次元変分法による解析では、数値予報モデルを実行することで大気状態の時間変化を考慮するため、3次元変分法による解析に比べて計算量が多くなる。

(一財)気象業務支援センターの掲載許可済

問題文のとおりです。

次元が多くなればなるほど、計算量は多くなりそうだと想像できますよね?

例えば、15時の状況をコンピューターに再現する際、
14:46の観測データが得られているとします。

3次元変分法では、その観測データを便宜上、15:00の値だとみなします。

一方で、4次元変分法では、14:46のデータを、
計算式で15:00の数値にしてから客観解析に使います。

したがって、やはり3次元に比べて4次元変分法は、計算が多くなります。


まとめ

以上の検討を踏まえると、解答は①です。

いかがでしたか?

前回 問4では、天気予報ガイダンスを取り上げましたが、
今回 問5は、その上流である数値予報の仕組みを問われました。

(a)と(d)は、数値予報の基本なので、確実におさえましょう!
また、(c)は応用的な内容ですが、多少の想像で解けます。
さらに、(b)の正誤は判断できなくてかまいません!

数値予報の分野は奥が深いので、基本さえできていれば合格できます!
あなたが解けない設問は、他の人も解けないものです( ´∀`)b!

出典など

出典1:気象庁「気象庁|数値予報とは」
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-3-1.html)から抜粋して作成

出典2:気象庁「数値予報解説資料集 第1章:基礎編「データ同化」」
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/latest/1_3.pdf)から抜粋して作成

※ 本記事における解答や解法は、個人の見解であり、(一財)気象業務支援センターとは関係ありません。