21/1/15 世界は低成長に戻っている
最近衝撃を受けた本がある。山口周著「ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す」の一節である。
ここ三〇年のあいだに私たちの生活をこれほどまでに激変させたインターネット関連のイノベーションですら経済成長の限界を打破できていないからです。前章ですでに確認した通り、インターネットの普及が進んだ1990年代も、スマートフォンの普及が進んだ2000年代も、人工知能の普及が進んだ2010年代も、先進国のGDP成長率は明確な低下トレンドを示しており、反転の気配がありません。あれほどのインパクトをもたらしたインターネットや人工知能などのイノベーションをもってしても明確な低下トレンドにある経済成長率を反転できなかったのだとすれば、いったいどれほどのイノベーションをもってくればそれが可能だというのでしょうか。
なぜ、あれほど巨大なイノベーションがGDP成長率に貢献しないのか。考えられる理由の一つとして、こういったイノベーションの多くは本質的な意味で「新しい市場」を生み出しておらず、単に既存の市場の内部でお金を移転させているにすぎない、という点が挙げられます。
重要な点は「全体のパイは増えていない」ということです。これが第二次産業革命と現在のデジタル革命の大きな違いです。イノベーションが新たな市場を生み出すことがある、という点は否定しません。しかし、ここ二〇年のあいだに発生した数々の、あれほど画期的だと思われたテクノロジーイノベーションをもってしても、実際に経済成長率の鈍化曲線を反転できなかったという事実を踏まえれば、その効果が大したものではなかったということを認めなければなりません。
インターネット、スマートフォン、AIが誕生しても、先進国のGDP成長率は”低下”しているのである。インターネット、スマートフォン、AIは我々の生活を激変させた。これらのテクノロジーがある世界とない世界とでは全く生活様式は異なる。しかし、これほど社会を変えたテクノロジーも世界の成長に貢献していないのである。これらのテクノロジーは新しいパイを生み出したのではなく、既存のパイの中で根こそぎシェアを奪っただけなのである。
これは今後の生き方を考える上で非常に重要なメッセージである。これほど人々の生活を劇的に変化させたテクノロジーでも成長に貢献できていないのであれば、今後も同じであろう。そうであるならが、これからの世界は低成長であることを前提に人生を考えなくてはいけない。
では、どのように生きればいいのか。その答えはまだ誰も見つけることができていない。今の世界のシステム、個人の生き方は、高い成長率を保っている時代に設計されたものであり、新しいシステム、生き方を見つけていかなくてはいけない。それには、まず、低成長の世界であるということを認識して、自分と向き合うことが大切である。
最後に補足だが、この事例から、ファクトに基づいて考える大切さを教えられる。誰しも、インターネット、スマートフォン、AIによって、世界は爆発的に成長していると勝手に思い込んでいる。しかし、実際のデータを見るとそうではないことがわかる。物事を考えるときは、ファクトをベースにして考えることが改めて大切である。
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