高原社会に求められるビジョン

人事コンサルタント・山口周氏の著書「ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す」のおいて、現代社会を「高原」と表現している。

・私たちの社会は、古代以来、人類が長らく夢に見続けた「物質的不足の解消」という宿願をほぼ実現しつつある。長らく続けた上昇の末に緩やかに成長率を低下させている現在の状況をメタファーとして表現すれば、それは「高原への軟着陸」として言い表せる。
・緩やかに高度を落としつつ「高原」へとアプローチする現在の状況は、しばしば「低成長」「停滞」「衰退」という言葉で表現されるが、このようなネガティブな表現で現在の状況を形容するのは極めて不適切。
・19世紀半ば以降、私たちを苛みつづけた「無限の上昇・拡大・成長」という強迫から解放された社会を、どのようにしてより豊かで瑞々しいものにするかを構想し、活動することが私たちに残された次の使命。

現代社会(特に先進国)は「低成長」「停滞」「衰退」という言葉で表現されている。しかし、これらのワードはネガティブなことではなく、通常な状態に戻っただけである。産業革命以降の劇的な成長が歴史の中で異常な状態だったのであり、現代の低成長時代は、歴史の中ではむしろ一般的である。

そして、現代社会(特に先進国)は、物質的不足の解消という、過去の人々が夢想していたことを現実にしている。過去の人々が高原の下にいるのであれば、我々は高原の上にいる。高原に上る際には急成長があったが、現代はなだらかな高原の上に着地している。

この高原の上では、「もっと成長しろ」「もっと豊かになれ」というメッセージは通用しない。なぜなら、我々は緩やかな大地の上にいるからである。世界を変革させたインターネットでさえGDPの成長にはまるで貢献していないことが様々なデータより証明されている。インターネットはパイを大きくしたのではなく、既存のパイをインターネットに置き換えただけである。

では、この高原で我々はどのように生きていけばいいのだろうか。誰もまだその答えを出すことはできていない。今までは「成長」「豊かさ」をミッションに掲げて仕事をしていけばよかったが、既に成長が終わり、豊かさが行き届いた高原の上でどのように生きていけばいいのか、まだ誰にもわからない。

一つの解決策は、ビジョナリーによる魅力的なミッションの提示である。豊かさに変わる新たなミッションを掲げ、それに共感した人々が、そのミッション実現のために仕事をする。会社とはミッションを実現させるために存在する組織であり、ミッションの実現が完了したのであれば消滅すべき存在である。そして、そこで働く人々はミッションに共感している必要がある。なぜなら、繰り返しになるが、会社はミッションを実現させるために存在する組織だからである。

高原社会に求められる、豊かさや成長に変わるビジョン。それを模索していくことがこれからの時代に必要なことである。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?