人の行動をなめらかにする「アーキテクチャ」

ITコンサルタント・尾原和啓氏の著書「アルゴリズムフェアネス もっと自由に生きるために、ぼくたちが知るべきこと」に、人の行動を促す「アーキテクチャ」について面白い文章がある。

ヨーロッパ各国で自身の死後に臓器提供する意思があるかどうかを調べたところ、フランスやベルギーで「意思あり」とした人は、ほぼ一〇〇%に達していたそうです。ところがオランダでは二八%、ドイツに至っては、わずか一二%でした。 この極端な差は、どこから生まれたのか。一見すると、フランスやベルギーの国民は温かくて、オランダやドイツの国民は冷たいように思えますが、違います。原因はもっと単純なところにありました。フランスやベルギーのように「意思あり」の割合が高い国では、臓器提供の意思が「ない」人だけ、免許証の裏などにチェックを入れることになっていました。一方、オランダやドイツのように「意思あり」の割合が低い国では、「あり」の人だけチェックを入れることになっていたのです。
これはデューク大学のジャン・ティン先生が、あるプレゼンテーションで語った話です。テーマは「アーキテクチャ」。もともとは「建築様式」や「構造」を表す言葉ですが、ティン先生は人間の意思決定を誘導する仕組みという意味で使っています。言い換えれば、ある構造をつくれば、人間の意思を簡単に左右できるということです。

一つの仕組みを変えるだけで、人の行動が変わるケースは多々ある。例えば、「床に物を置かない」というラベルを床に貼るだけで、部屋が散らからなくなる。このような仕組みを「アーキテクチャ」と呼ぶ。巧く「アーキテクチャ」を創ることができれば、世界はもっと滑らかにスムーズになり、個人の生活はもっと快適になる。

この「アーキテクチャ」をつくるヒントが「やめる」ことにある。「やめる」ことを意識することによって、今当たり前にやっていることを俯瞰的に眺めることができる。

「アーキテクチャ」により、生活や仕事をもっとスムーズになめらかにすることができれば、人生の快適さは高まる。仕事がリモートワーク化しただけで、仕事のストレスは激減し、効率は劇的に高まった。無駄な会議、無駄な資料、無駄な事業、これらをやめ、新しい「アーキテクチャ」を構築することができれば、仕事はもっとスムーズになめらかになる。

ミニマリストも個人の生活をなめらかにするための、一つの「アーキテクチャ」である。物を極力少なくすることによって快適に暮らす。

なめらかに仕事をし、なめらかに生活をする。成長期が終わり、緩やかな高原の踊り場にある現代に必要なのはこのような発想かもしれない。

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