【映画】ジョジョ・ラビット

”物語の舞台は、第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョは、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りて、青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし、心優しいジョジョは、訓練でウサギを殺すことができず、教官から〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられる。そんな中、ジョジョは母親と二人で暮らす家の隠し部屋に、ユダヤ人少女エルサが匿われていることに気づく。やがてジョジョは皮肉屋のアドルフの目を気にしながらも、強く勇敢なエルサに惹かれていく──。”

”ジョジョ役には、何か月も続いていたオーディションを一瞬で終わらせたという、ローマン・グリフィン・デイビス。愛くるしいヴィジュアルに、これが映画初出演というナチュラルな初々しさと、激しく心を打つ天才的な演技力をあわせもつ、驚異の新星の登場だ。ナチスは国を救うヒーロー集団だと洗脳されていたドイツの典型的な少年だったジョジョが、ユダヤ人少女との交流から変わっていく姿をエモーショナルに体現した。
ユダヤ人少女を自宅に匿い、ナチスという腐敗した権力に抗うジョジョの母親ロージーには、ハリウッドのトップスター、『アベンジャーズ』シリーズのスカーレット・ヨハンソン。戦時下でも、おしゃれを楽しみ、ダンスを踊り、豊かで人間らしい暮らしが戻ってくることを切に願うロージーを、強く美しく艶やかに演じた。
監督、脚本を手掛け、ジョジョの想像上の友達アドルフ・ヒトラー役まで全うし、恐るべき才能を発揮したのは、ニュージーランド出身のタイカ・ワイティティ。音楽は『カールじいさんの空飛ぶ家』でオスカーに輝いたマイケル・ジアッチーノ。
戦争への辛口のユーモアをきかせたハートフルなコメディの形をとりながら、困難の中にあっても輝く希望と生きる喜びをビートルズ、デヴィッド・ボウイ、トム・ウェイツらの名曲にのせて力強く謳い上げ、世界中が笑い涙する傑作、ここに誕生。
第二次世界大戦下のドイツを舞台にした映画、ジョジョ・ラビット。結論から言うと、素晴らしい映画だった。上手いストーリーテリング、魅力的な登場人物、困難の中にも希望を表現する音楽。全ての要素が絶妙に融合し、傑作映画にしあがっている。”

監督・脚本のタイカ・ワイティティの才能やセンスを感じることができた作品であった。「靴ひも」で描く主人公ジョジョの成長や、「靴」で描く母親にまつわる描写など、随所に技ありの要素が詰められている。監督・脚本だけでなく、主人公ジョジョの空想の人物アドルフ・ヒトラーも監督本人が演じているというのだから、その多才ぶりには舌を巻く。次回作も非常に楽しみな監督である。

主人公のジョジョを演じるローマン・グリフィン・デイビスの愛くるしい演技も素晴らしかった。戦時下でのドイツの教育によりナチズムに心酔しているが、反ナチス活動家の母親やユダヤ人少女との交流を通じて、考え方に変化が生じていく。彼の成長や愛くるしさは、子を持つ親であれば涙なしにはいられないだろう。脇を固める、スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェルもさすがの存在感である。

そして、劇中のビートルズやデヴィット・ボウイといった音楽の選曲も、戦争という重いテーマの中に希望を感じさせるような効果をもたらしている。特に、素晴らしいのが、劇中に流れるデヴィット・ボウイの「Hero」である。劇中で流れてくるのはドイツ語バージョンの「Helden」である。デヴィット・ボウイは1970年代後半に西ベルリンに住んでおり「Helden」はそのときに作られた曲であるということ。また、デヴィット・ボウイは1987年に西ベルリンのベルリンの壁近くの広場で壁に背を向けるような格好でコンサートを開催しており、その際にも「Helden」を熱唱しているとのこと。

デヴィット・ボウイのドイツでの活動の背景を知った上で、劇中に流れる「Helden」を聴くと感慨深いものを感じる。デヴィット・ボウイがドイツでのベルリンの壁の崩壊に力を貸したように、「Helden」が終戦時のドイツでのアーリア人少年とユダヤ人少女との融和を象徴する音楽として奏でられている。

素晴らしい物語、登場人物、音楽など、「これぞ良い映画」という要素が詰まった傑作である。このような粋な演出をしている、タイカ・ワイティティ監督とマイケル・ジアッチーノ音楽監督には、2020年アカデミー賞最優秀脚色賞と合わせて称賛の拍手を送りたい。

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