ひとりでいるということ

知人から「初期型認知症の高齢女性が、妄想の中でジャズバンドを組む話だ」という説明を受けて、興味を抱いて映画『おらおらでひとりいぐも』を観に行ったらまったく違う話だった。なんなんだあいつは。なんで嘘の情報を……。

それはさておき、この映画では、ふだん垂れ流されているテレビやラジオの内容。料理の音、足音、鼻をかむ音といった日常における視覚・聴覚ノイズが細部までリアルに描かれており、まるで自分も主人公・桃子さん(田中裕子)といっしょに家のなかにいるような、不思議な感覚を味わえる。

また、妄想3人組(濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎)と対話しているシーンではあたたかい光に包まれているのだが、そこから現実に戻った瞬間にあの蛍光灯の角張った事務的なライティングに変わる。あの落差がさらに独居の寂しさを浮き彫りにしてくれる。

夕暮れどき、いつの間にか部屋が暗くなっていたことに気付いたあの瞬間。「この世界には自分しかいないのではないか?」「何か重要なことをやり忘れているのではないか?」という、あの感覚を思い出した。まあでも、かといって、誰でもいいから誰かと一緒にいたいというわけではないのだ。

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