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セリアAの州別経済力を見たらウディネーゼの凄さにひれ伏す、の巻

8月上旬に地獄の米国出張から帰還してみたら、ユーロもコパ・アメリカもオリンピックも終了。日本時間も米国時間も働く過密スケジュールの中で何一つ見ることなく夏が終わりました。
 しかし、おかげさまで(?)あっという間に欧州サッカーリーグは開幕の時期を迎え、既にベルギーやポルトガルでは公式戦が始まっています。今回は開幕を楽しむトリビアとして、セリエAの各チームがいかなる経済的な背景を背負いながらプレーしているのかを、いつも通りデータと妄想で解説していきたいと思います。書いているうちに、いつのまにやらウディネーゼ賛美となりましたが、ご容赦ください。


ナポリはミラノの1/4というえぐい南北格差

イタリア経済の大きな特徴は、重工業都市として発展出来た北部と乗り遅れた南部で大きな経済格差があることです。以下、キリンの作成した州地図をご覧になりながら妄想を膨らませて下さい。

https://www.kirin.co.jp/alcohol/wine/wine_academy/knowledge/region/italy.html

どのくらい差があるのか?北部の雄でありミラノ勢を有するロンバルディア州と、南部の雄でありローマ勢を有するラツィオ州のGDP(≒経済力)を比較してみると、なんと2倍の差がついています(4420億€ vs.2130億€、2022年基準)。

いやいやローマがあるラツィオ州はまだ中部だろ、なんと言っていたらとんでもないことになります。州別GDPだと(下図)、ナポリがあるカンパニア(カンパーニャ)州はなんと七位。ロンバルディア州の四分の一規模です。

南部経済を立て直そうという試みは何度かあったようですが、”経済が育たない→税収が増えない→近代化に必要なインフラ整備が出来ない”、という負のスパイラルにハマったまま今日を迎えています。

カルチョは北高・南低の構図に

南北格差の構図はイタリアサッカー(カルチョ)へ甚大な影響を与えています。24-25シーズンのセリエA所属チームを州GDPトップ10について抽出しました。
 見ての通り、経済的に最も発展しているロンバルディア州が5チームを有し全体の20%を占めています。奇しくも同州がイタリア全体のGDPに占める割合が22%なので、州の経済力がそのままサッカーに反映されているという図式です。なお、北部全体で15チームあり、南部は非常に劣勢に立たされています。

経済規模TOP10州、グレーが南部州

カルチョを愛する皆さんは下部リーグまで追っている偏愛者が多いと伺っているので、セリエBについても調べてみました。Aと比べれば偏りは少ないものの、北が12チーム、南が8チームとなっており、やはり北部が優勢です。

経済規模TOP10州、グレーが南部州

弱小州からのカリアリとウディネーゼ

北部・南部の経済格差の話をしてきましたが、北部内、南部内でも州の規模の大小はかなり差があることは冒頭の州別GDPランキングにある通りです。そんなTOP10にも入れないような超超超小規模の経済力の州からセリエAを沸かせているチームをご紹介しましょう。
 そう、ウディネーゼとカリアリだぁぁぁあぁぁぁぁ!カリアリはサルデーニャ島に位置し、同島の経済規模はロンバルディア州の、なんと10分の1。それでいてトップリーグに食い込んでくるのは島のプライドと言っていいでしょう。引退してしまいましたが、直近の昇格を実現したラニエリ老将がいかに去り際に凄まじいことをやってのけたかが改めて分かります。

そして、もうカルチョを見続けて長い方なら、”通な”選手を輩出し続け愛してやまないウディネーゼは外せない存在です。2000年来一回も降格したことがなく、何ならディ・ナターレと聞けば、泣く子も渋い顔をする名選手を有し、ベスト4以上も3回記録しチャンピオンズリーグ(CL)にも出場したことがあるチームです。ウディネーゼがあるフリウリ=ヴェネツィア・ジュリアは北部ながらもサルデーニャと変わらない経済規模でCL参加チームになるのは奇跡と言えましょう。

ウディネーゼがしぶとい冷酷な理由

その経営の神髄は弓削さんを始めカルチョを長く見られている方が様々な分析をされているのでそちらをご覧ください。本稿では移籍市場に絞って話を進めます。ウディネーゼと言えば「え、誰?」という選手を連れてきては、「え、意外に強い!?」というサプライズを起こすことを十八番としています。
 それを実現するためのスタイルは、ずばり「大量採用・大量解雇」です。16-17シーズンにはなんと放出人数61人、スカッドを6つ作れる人数を記録したことがあります。その後は落ち着いてきましたが、20人近く獲っては放出するというスタイルを続けています。

我々、日本企業の一般常識に照らし合わせると凄い話です。30人しかいない支店で「毎年20人入れ替わるけど、売り上げ目標達成してね♡」と経営陣からお願いされる、支店長からすると中々ブラックな環境です。サッカーであれば、支店長は監督となるわけなので、監督の心労たるや、です。
 無論、大量採用・大量解雇を可能としているのは、ざっくり以下の4条件を徹底しているからだと推察します。

  1. オーナーのポッツォ家がイングランド2部のワトフォードを保有しており、同クラブとの人材交換をフル活用

  2. 完全移籍は基本、€6百万以下の少額コストで獲得。

  3. 新戦力のほとんどはローン移籍、パフォーマンスが良ければまとまった金額を払って完全移籍、というお試し期間を必ず設ける

  4. 獲得先はビッククラブを極力避けることにより、獲得するときに値段が吊り上がらないようにする。

特に3、4が十八番(おはこ)の一つで、最近ではポルトガルのFWベトがいい例ですね。ポルトガルの下位クラブポルティモネンセからレンタルで獲得。セリエAで二桁ゴールを達成すると翌シーズンに完全移籍へ移行。翌シーズンに連続二桁ゴールを達成し、見事エバートンがお買い上げ。僅か2シーズンで€15mln(約24億円)の売却益を挙げました。

出所transfermarketよりフットボール経営分析マンが作成

帰ってきた〇〇、を楽しめるのがウディネーゼ

以上みてきた通り、大量解雇・大量採用という冷酷な戦略によりウディネーゼは厳しい経済背景をものともしない、しぶとさを楽しめるクラブとなりました。一方で、コロコロと選手が変わるゆえに応援しにくい、という欠点も抱えます。現スカッドも2021~2023年に加入したメンバーで占められており、誰一人としてクラブの象徴と言える選手がいません。
 しかし、一度離れた選手が戻ってくるのがこのクラブの醍醐味です。若手の時に所属した彼らは脂がのった時に売却され、そして数々の経験を経てウディネーゼに戻ってきます。そんな系譜を継ぐ選手が今季背番号「7」を背負います。そう、アレクシス・サンチェスです!

https://www.udinese.it/

チリのチームにいた彼をウディネーゼが引っ張ってきたのは06-07シーズン。レンタル武者修行を経て、ウディネーゼの主力になった彼は、11-12シーズンにスペインの強豪バルセロナへステップアップ。14-15シーズンは英国に活躍の場を移し、アーセナル、マンチェスターユナイテッドでプレイ。19-20シーズンからカルチョに復帰しインテルへ。難しい時を経験しマルセイユを経てウディネーゼへの帰還となりました。チリのヒーローが欧州で培った18年間の集大成を見せてくれると思うとワクワクが止まりません。
 それ以外にも、GKのダニエレ・パデッリ(ウディネーゼ→トリノ→インテル→ウディネーゼ)、MFジェラール・デウロフェウ(バルセロナ→ワトフォード⇔ウディネーゼ)のベテラン復帰組に注目です。
 是非、ウディネーゼを見るときは、あなただけの”帰ってきた〇〇”を見つけて下さい。ちなみに昭和おじさんは99%〇〇にウルトラマンを入れてしまう悲哀を抱えています。そんなテンプレ人間にならないよう、サッカーとは長いお付き合いをお願い致します。では、本日も良いサッカー生活を!

おまけ

セリエBにおいても、厳しい州経済に負けずに残留している3クラブを紹介します。コゼンツァ、カタンザーロ、ズュートティロールです。コゼンツァ、カタンザーロは2000年以降に2回の破綻を経て、今のポジションまで復帰するというとってもセリエB的なストーリーを持つチームであります。是非、応援してみて下さい。

カラブリアの経済規模でセリエBのチームが2つあるのは凄くない?

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