見出し画像

スポーツクラブの株式売買、オーナーシップの流動化について

こんにちはイークラウドの佐々木です。

日本のスポーツ業界では、昨年のメルカリによる鹿島買収に象徴されるように「IT企業によるスポーツチームへの経営参画」が散見されるようになってきました。
今回のnoteでは上記のような国内スポーツクラブ(主にサッカー)の買収トレンドやスポーツクラブのオーナーシップにおいて今後起こり得る未来について考えてみたいと思います。

そういえば先日、NBAのスター選手ケヴィン・デュラントがMLS所属クラブの株式5%を$16.25M(約17.5億円)で取得したという記事を目にしました。プロバスケットボール選手がプロサッカークラブの少数株主になるという、米国でオーナーシップが流動化している事を示す面白い事例です。

まずはトレンドとなりつつあるIT企業のスポーツクラブ経営について紐解いていきます。

IT企業がスポーツクラブの経営に参画する理由

IT企業がスポーツクラブの経営に参画する理由は
(1) 露出拡大による企業のブランド価値向上
(2) スポーツ事業単体でも黒字化が見込める
(3) 事業シナジーが見込める
(4)リアルコンテンツの価値が高まってきている

旧来、スポーツクラブの運営は赤字を背負ってやるものという捉え方が一般的でした。つまり(1)の理由が強く、親会社が宣伝広告の媒体としてスポーツクラブを所有していた訳です。一方で、DeNA、楽天、ソフトバンクなどのIT企業がプロ野球界に参入し始め、スポーツ事業単体で利益を出せるような経営改革を行ってきました。(具体的な言及は以下の記事や他に詳しく書かれている記事をご覧ください。)

特に注目を浴びたのはDeNAのベイスターズ買収からの経営再建でしょう。2011年にTBSなどから総額95億円(買収費用+NPBへの預かり保証金などの合計)で赤字球団であったベイスターズを買収。そこからDeNAは当時20億以上の赤字を計上していたベイスターズを5年で黒字化しました。観客動員数も200万人を突破し以前の2倍近くまで伸ばしています。ファンクラブ会員数は9万人を超え、11年の14倍以上に急伸しています。
スポーツビジネスを語る上で自前スタジアムの有用性について語られることは多いですが、DeNAベイスターズはTOBによりスタジアムの運営会社である株式会社横浜スタジアムの買収も行っています。

Jリーグにおける買収トレンド

前の項では主に野球を例にしながらIT企業がスポーツクラブの経営に参画する理由を述べました。
ここからはJリーグにおける買収トレンドを考察していきます。
昨年7月、冒頭に書いた通りフリマアプリ大手のメルカリがJリーグの強豪サッカークラブの1つ、「鹿島アントラーズ」の運営会社の経営権を取得したというニュースが大きな話題になりました。
メルカリ以前にも、楽天と神戸、ライザップと湘南、アカツキと東京V、サイバーエージェントと町田ゼルビアと複数のIT企業が株式取得による経営参画を行っています。野球に続きサッカーでもIT企業によるクラブ買収がトレンドとなっています。

スクリーンショット 2020-06-16 20.24.06

具体的な時価総額と買収価格

現在ざっと調べてわかる時価総額と買収価格は鹿島アントラーズと町田ゼルビアの事例。参考までに上述したベイスターズの買収価格にも触れておきます。

鹿島アントラーズ

・鹿島アントラーズ
     -時価総額: 25.9億円
     -引受先: 株式会社メルカリ
     -株式譲渡による取得価格: 15億9700万円
     -持分比率: 61.6%
     -参考: https://pdf.irpocket.com/C4385/GDpy/CbZp/obyf.pdf

メルカリは約16億円を投じて、61.6%の株式取得を行っています。買収時の価格に関しては各方面で様々な議論がなされていますが、割安だという意見が多いような印象を受けます。そもそも売買意向や企業の情報があまり表に出てこないJリーグでは、オーナーシップの流動性は低い傾向にあります。そのため、スポーツクラブの買収の場合、大口スポンサーとなることでより詳細な事業経営の状況を理解していくという方法が一般的だとされています。今回のケースもメルカリが数年前からアントラーズの大口スポンサーとして事業への理解を深めていたと想像できます。

FC町田ゼルビア

・FC町田ゼルビア
 -時価総額: 14.35億円
 -引受先: 株式会社サイバーエージェント
 -(第三者割当による発行価格: 11.48億円、持分比率: 80%)
 -参考: https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=22360

当時FC町田ゼルビアは「1万5千人以上が入場可能なスタジアムを有すること」「設備基準を満たしたクラブハウス、天然芝またはハイブリッド芝ピッチを1面以上有する専用の練習場を用意すること」等の条件を満たすことができず、J1昇格に必要なクライブライセンスを所持していませんでした。その為、サイバーエージェントは第三者割当増資にて株式を発行し、増資資金11.48億円はJ1ライセンス取得のための貴重な財源として使われました。
実際に2019年9月には念願であったJ1ライセンスの取得に至っています。

横浜DeNAベイスターズ(参考)

・横浜ベイスターズ
     -時価総額: 約97億円
     -引受先: 株式会社DeNA
     -株式譲渡による取得価格: 65億円
     -参考: https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-23996120111104

DeNAが横浜ベイスターズを買収した当時の時価総額は100億円近い価格になっています。

クラブオーナーシップが流動化するメリット

上述の通り、IT企業の経営参画によってJリーグにおけるクラブオーナーシップが徐々に流動化しています。それでは、クラブオーナーシップが流動化するとどのような事が起こるのでしょうか?
簡潔に言えば「業界が活性化する」と考える事ができます。何故なら流動化が進む事によって企業の株式売買がしやすくなり、結果として企業の価値に「時価」が付きます。すると今まで経営者は親会社の広告媒体としてクラブを捉えていたが、時価向上という明確なゴールに向かい会社を運営する必要性が生じます。それによって最終的には顧客も含めたステークホルダーに価値が還元される事になると考える事ができます。

海外サッカーリーグにおけるクラブオーナーシップの流動性

海外のサッカークラブでは日本以上にオーナーシップの流動性は高まっています。先日もサッカー日本代表の武藤嘉紀が所属しているニューカッスルユナイテッドが£300m(約400億円)で買収に動いているというニュースが報じられました。

また、ここまで言及してきませんがDMMがベルギー1部のシント=トロイデン(STVV)を買収したのは記憶に新しいと思います。日系企業が海外サッカークラブを保有するという珍しい事例となりました。

さらにはシティフットボールグループ(CFG)やレッドブルグループに代表されるように、一企業が複数クラブを所有するマルチオーナーシップの事例も出てきています。
CFGは先日ベルギー2部のロンメルSKを買収しました。これでCFGはマンチェスター・C(イングランド)、ニューヨーク・シティ(MLS)、メルボルン・シティ(オーストラリア)、横浜F・マリノス(日本)、モンテビデオ・シティ・トルケ(ウルグアイ)、ジローナ(スペイン)、四川九牛(中国)、ムンバイ・シティ(インド)、ロンメルと、世界各国の9クラブを傘下に収めることになります。

ここで特筆すべき点は海外5大リーグ以外のクラブかつその国のトップリーグ所属ではないクラブにも買収の波が及んでいる点です。
シントトロイデンCFOの飯塚さんのnoteによるとベルギー1部リーグの総収益は約380億円ほど。一方でJ2018年の合計総営業収入は856億円です。
(面識はありませんが、いつも勉強させていただいております。ありがとうございます。note貼っておくので皆さん読んで下さい!)

ちなみにCFGによるロンメルSKの買収額は£2m(約2億6400万円)と言われています。J2所属のゼルビアが時価総額14億で評価されている点からも納得感はあります。
Jリーグで買収が起こるとすれば、現状の相場感だとJ1で20-30億、J2で10~20億、J3で5~10億で評価されるというイメージでしょうか。では、もしこのような価格帯でクラブが売買されるようになるとどのような未来が起こり得るのかを考えてみます。

クラブオーナーシップが流動化した未来で起こる事

JFL以下のリーグでスタートアップ的な発想で資金調達を行い、Jリーグ参入、参入手前で早期にイグジットするという手法が出てくると思っています。
基本的にJリーグの開示資料を見るとJ3の事業規模は1クラブあたり1.5~7億程度だとわかります。
リーグ戦の最終順位は選手人件費と強い相関があると言われているので年間1億円ちょっとの事業規模を作れればJリーグの手前まではスピーディーに上がってこれると考えられます。(ただ現在のJFLや関東1部リーグには数億円規模の事業規模を持つクラブも散見される)つまりエクイティを使ってファイナンスしながらJリーグまで上がっていき、上がったタイミングでエグジットして売却益を得るという企業が出てくるのではないかと考えています。

スクリーンショット 2020-05-27 19.56.59

スポーツクラブと相性の良いファイナンススキーム

上述したようにクラブオーナーシップが流動化した未来において私が有効だと考えているのが株式投資型クラウドファンディング(Equity Crowd Funding→以下、ECF)を活用した資金調達です。
​アメリカやイギリスの下部リーグでもECFによる調達を行い早期のエグジットを目指しているクラブが出てきています。日本でもサッカーではありませんがスポーツクラブがECFを使って資金調達をした事例が出てきています。

株式投資型クラウドファンディングとは

株式投資型クラウドファンディング(ECF)とはベンチャー企業が複数の個人投資家から資金調達を行う仕組みです。


株式投資型クラウドファンディングとは、インターネットを通じて、多くの方から少額ずつ資金を集めるための手段です。日本の法律では、起業家は1社あたり年間1億円未満の調達、投資家は1社につき50万円を上限として出資することができます。

ECFについてもっと詳しく知りたい方はこちらのnoteを読んでいただけると理解が深まると思います。

ECFとスポーツクラブの相性

結論から述べるとECFとスポーツクラブの相性は良いと考えています。
何故ならECFには以下のような特徴があるからです。

・ECFの特徴
(1) ファンが株主になる
(2) PR効果が見込める
(3) 返済義務がない

ファンを株主にして運営に巻き込みながら経営を行っていく事が可能です。ECFで資金調達を行っている訳ではありませんがNFLのグリーンベイ・パッカーズというチームは36万0,760人が502万株を保有しており、ファンを巻き込んだ経営を行っています。わずか人口10万人の街ですが8万1000人以上収容できる本拠地ランボー・フィールドでの試合は毎回満員。シーズンチケットをキャンセル待ちしているファンは13万人を超えており、申し込んでも購入できるまでに10年以上かかるほどと言われています。

ファンを株主にするECFでの資金調達事例

それではスポーツクラブが上記のような特徴を持つECFで資金調達を行った事例を見ていきましょう。

<国内事例➀:琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社>

企業名:琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社
所属リーグ:T1
設立年:2018年
本社:日本 沖縄県
調達概要:2250万円 (2019/12/07)、
利用プラットフォーム:FUNDINNO(ファンディーノ)
既存投資家:MTG Ventures、シーエムディーラボ、エンジェル等
調達の背景:スポーツチームとしてはECFで資金調達を行った国内初の事例。国内では例のない、プロスポーツチームの上場を目指す。ファン株主を中心としたチーム運営、また地域に根ざした循環系のチーム運営の仕組みを創り、日本における新たなスポーツビジネスのあり方を志向している。事業としては「琉球アスティーダ」の運営を通した、収益化を行っている。「琉球アスティーダ」へのスポンサーフィー、弊社運営のスポーツバルの売り上げおよび、フランチャイズ加盟料、また、卓球スクールの運営でマネタイズ。今後は、様々なスポーツにも展開していくことで、収益の拡大を行っていく予定。

<国内事例②:福井ワイルドラプターズ>

企業名:株式会社FBA
所属リーグ:ルートインBCリーグ
設立年:2019年
本社:日本 福井県
調達概要:案件公開中
利用プラットフォーム:FUNDINNO(ファンディーノ)
既存投資家:ブラッシュアップ・ジャパン株式会社、エンジェル等
調達の背景:日本最大の野球系YouTubeチャンネル「トクサンTV」のバックアップのもとYouTubeを活用した、動画コンテンツによる「認知度拡大」と「ファンの発掘」を図る。また、SNSやクラウドファンディングを活用したファンづくりの形も展開していく模様。

<海外事例➀:AFCウィンブルドン>

企業名:AFCウィンブルドン
所属リーグ:EFLリーグ1 (イングランド3部リーグ)
設立年:2003年
本社:イギリス ロンドン
調達概要:£2.5M (2019/09/02、Pre-Valuation:£24.1M、投資家数:5053人)
利用プラットフォーム:Seedrs(英)
既存投資家:
調達の背景:AFCウィンブルドンの観客動員数は右肩上がりで、スタジアムの満席率なども上がってきていた事もあり、元々母体となるクラブの本拠地があった場所へ建設を決めた。多額の建設費用を補うためにECFによって資金調達を行った。英国のECFプラットフォームであるSeedrsにてプレバリュエーション約31億円で3.3億円を調達。
株主は投資した金額によってVIPルームでの観戦や選手との食事会に参加する権利が付与される。

<海外事例②:チャタヌーガFC>

企業名:チャタヌーガFC
所属リーグ:NISA(米3部リーグ)
設立年:2009年
本社:アメリカ テネシー
調達概要:$872,750 (2019/09/02、Pre-Valuation:$2.95M、投資家数:3256人)
利用プラットフォーム:Wefunder (米)
既存投資家:
調達の背景:前年アメリカ4部相当にあたるNPSLに所属していたチャタヌーガFCはリーグ史上最多の観客動員数を記録した。下部リーグでは異質のファンベースの太さを活かしてECFによる資金調達を実施。今季はプロの選手を加えてシーズンを戦うため、調達した資金の50%は選手人件費、20%はマーケティング予算、残りは遠征費やその他の費用などに回される予定。フランチャイズ展開などは行わず地域に根差した経営を行い、100年続くクラブを目指していく。

最後に

前半では日本のスポーツクラブの買収トレンドや海外クラブでの事例などを取り上げ、後半ではECFとスポーツクラブの相性について述べました。
サイバーエージェントのゼルビア買収時に露見したオーナー交代によるファンの反動は今後議論されるべきだという前提で、オーナーシップが流動化し、スポーツクラブの時価が正しく評価されるような市場を作る事は各オーナー起業に企業価値向上のための経営努力を促す上でも重要な事になるのではないでしょうか。
以上、感想やご意見などなんでもいいので気軽に一言いただけると嬉しいです!
Twitter: @rfootball11





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?