#BHACRY23_24

[ prologue ]



やあ、みんな元気かい?


今日も定位置からスタンドを見上げてぐるっと1周眺めてみたけれど、みんなの格好が示す通り季節は冬真っ盛りだってのにテンション高くゴキゲンみたいだね。まさか揃いも揃って御多分に洩れずここへ来る途中で1杯引っ掛けてきたなんて言うんじゃないだろうな?かつてそういった人が多かったのは知ってはいるけれど、これから始まる物語がアルコール任せの熱狂じゃ有り得ない程のスペクタクルを提供しようとしてる事くらいわかってるんだぜ、オレだってさ。



いやあ、それにしてもオレは少し心配してたんだよ。何ってここのホームチームはついこないだ、ショッキングな敗戦をしたばかりだろ?もちろんシーズンはまだ中盤で、これからも試合は続いて行く中のただの1試合と気楽に割り切れれば良いんだけど、チーム状況も離脱者が多く決してポジティブとは言い切れないとなるとそう上手く切り替えられず、気持ちの方から落ちて行ってしまわないかと気を揉んでいたのさ。


でもこの景色からネガティブな要素は感じられない。つまりはオレの取り越し苦労だったてことだよ。イヤだね、しなくてイイ所でお節介をしちまったみたいでサ。こんなのまるでウチのばあちゃんみたいだよ、君たちはピンと来ないだろうけどね。




[ GOAL -1- ]



実際ピッチに現れた選手の表情を見ても、心配ご無用だったのが分かるよな。


そして何はともあれ、アッサリつまらない不安をあっという間に払拭してしてしまった。相手は違えど前節のお返しと言わんばかりのkick off直後のGOALで、大量失点に加えてノーゴールのまま今日を迎えていたからとりあえず一安心というか、落ち着けたんじゃないかな。


セットプレイに特別強いチームではないけれど、その中でも一番の破壊力を秘めたplayerにGOALさせるというよく考えられたデザインのCKだったもんな。あの形はゴール下なんかからスローインを入れる場合に、時々バスケットボールコートで見かけるモノに似ていたよね。あれだけの密集を作っておいて、それが全て囮ってのもいいよ。


ゴチャつかせた地帯を飛び越えたら Dunk 5 が居る、バッチリじゃないか。みんなは願ったり叶ったりって言うんだろ?こういう時にさ。


余りに正直なplayでそれを真正面から受け止めようとし過ぎたのかな、アウェイチームは。試合開始からはじめて迎えるセットプレイだったからアジャスト出来ていない部分はあったんだろうけど、それを集中力で補うべくGKを中心にしっかり声掛けはしていながら、相手の術中にものの見事にハマってFK、CKにおける要注意人物をフリーにしてしまったんだから世話ないよ。今のCKでトレンドとも言える、1人がキーパーの前に張り付いて動きを封じるplayをされたワケじゃないのに Henderson 30 も飛び込めなかったしね。


笛が鳴ってわずかばかりでも、我が家に客人を招いてゲームを行う身としたら俄然やりやすくなったよな、こんなに早くスコアが動くなんてプランに有ったとは思えないにしても。これぐらいじゃ当然まだまだピッチ上で浮かれてなんかいられはしないんだけど、とりあえず気分は上々ってトコロでしょ、スタンド含めてね。




[ GOAL -2- ]



第一感 Lamptey 2 の縦へのドライブは、直接点に絡む確定演出かと思ったね。つまりは彼の足元へ僕が届けられると左右で同じ数字が止まり、彼がDF相手にスピードを活かした1vs1を仕掛ければ真ん中の数字が動き続ける中でそれとは無関係と思えるド派手な演出が始まり、彼の足から僕が離れセンタリングとなって大勢の人垣が出来ているゴール前に届けられる頃には、ゴールポストやピッチ上に引かれたラインのそれぞれが赤や金に止まらず、ゼブラかキリンかレインボーに変化しているのさ。

もしかしたら数字は既に3つとも全部揃っていて、ゆっくりと回転している様子を興奮の余り声が出そうなのをグッと堪えながら、ただただ眺めているだけなのかも知れないけれど。


これは確実にDFをハズしてクロスを上げたから彼にアシストが付くけど、ファーストゴールだって彼の仕掛けが生んだCKからGOALへと繋がったんだから、そのドリブルが予告の様なものと捉えたいトコロだね。


それにしてもさっきの失点といい今度のGOALといい、あまり褒められたもんじゃないね、Crystal Paleceの守備は。人数は足りてるのにニアサイドばかりケアして、それを見透かされているかの様に手薄なファーで仕留められてるんだから世話ないよな、1度ならずも2度ともさ。確かに Hinshelwood 41 のポジショニング、そしてヘディングとそれぞれが文句のつけようもない能登、シュートはGKとしたらどうしようもないコースを辿ったけれど、問題はその前から起こっていたという事だよ。


ここ最近の活躍を見ていると Hinshelwood 41 はいつの間にか点の取れるサイドアタッカーらしくなっちまったな、もちろんイイ意味でさ。SBをやっていた頃よりもこの所は1列前で使われてるからゴール前へ顔を出しやすくなっているってのは分かるけど、シュートを打てば普通に枠に入れてくるもんな。


そりゃGOALを競い合い、その差で勝負が決まる競技なんだから志としては当たり前でも、僕を物差しに考えるとそれに対して殊更あの枠は大きく開口部はとてつもない広がりを見る者に感じさせているから、初めて試合を観戦する人の中にはGOALなんて当たり前で、それこそバスケットボールみたいに次々と止まる事を知らず得点がカウントされていくと思っていた人も多いと思う。バスケよりももっと類似のハンドボールだってこれよりも半分くらいしかない大きさなのに、footballと勘違いしていたとしたら卒倒してしまうくらい僕の仲間がその広げた口へ飛び込んで行くものな。


それでも他のスポーツからすると一人で守るにはあまりに大きいあの口の前には、GKが居てDFが1人なんて事はなかなか無く常に集団で存在しているんだから決めて当然なんて言うは愚か、思うのさえ憚られるってもんだよ。第一射程距離に進入したとして、そこで簡単にゴール方向を向いて自由気ままに脚を振らしてくれる程、お気楽集団じゃないのさDFってね。ましてや現代footballにおいては、僕と従来の比喩表現ではないビッグマウスの間に人間が2人きりなんてシチュエーションは、滅多にお目にかかれない現象と言っても過言じゃないだろ?PKでもあるまいし。


それにGKってポジション1つとってもPremierは精鋭揃いなんだから、ケガ人続出で出番が回ってきたティーンエイジャーが着実に結果を残しているのは単純にスゴイ事だよ、慣れ親しんだ自分の居場所ではないにもかかわらず。


ま、今回は特別で、たぶん Lamptey 2 が僕を持ち出した瞬間彼にだけ聞こえたのかも知れないな、キュイィィィーン!ってね。




[ GOAL -3- ]



スタジアム全体がさっきのゴールセレブレイションの名残をまだ完全に余韻としてしまう気にはなれず、スタンドもみんな腰を下ろす事なく見つめる先であっという間に起こった出来事だった。「電光石火の早技で」ってヤツは、こんなシーンに遭遇したから思い付いたフレーズかもね、きっとさ。

目にもとまらぬ速さのplayの中にオシャレさをふんだんに含んだテクニックも織り交ぜたんだから、「読んで字の如く」というより「魅せた字の如く」ってカンジかな。



その中心に居たのは紛れも無くこの人、Groß 13 だった。


ピッチ上のデザイナーとして君臨し、今回発表したplayの装飾を一手に引き受け構成をまとめ上げた後、一人で完結させずにフィニッシュをプレゼントしたんだ、Buonanotte 40 にね。


一連の流れの7~8割は Groß 13 が仕立てたんじゃないか。だってプレスをかけて僕を引っ掛け相手から奪ったのは彼だし、ゴール前で小粋なタッチでDFを転ばせてから、自らにシュートのタイミングがありつつも周囲のディフェンスを引きつけるだけ引きつけたところで、小憎いラストパスさ。たまんないだろ?


しかも最後のアレは、隣に走り込んで来たのが Buonanotte 40 だって分かってて出したのかな、左足で打ちやすい加減のパスを。まるでCouturier見たいじゃないか?この発想力と構成力と仕上げの丁寧さは。

コレクションを見届けた後に、みんなちゃんと帽子は取ったかい?


スコアラー同様、監督も僕がネットインするみたいにサポーターの所へ飛び込んで行っていたから、これで前回溜め込んだフラストレイションが一気に爆発して全て吹っ飛んだかも知れないね、ぽっかり口を開けた屋根から大きく広がる空へ向かって。



ホームチームには願ってもない展開の連続でしてやったりなんだろうけど、まさにそれとは対極の様相なのがアウェイチームなんだよな。音も立てず、背後から忍び寄るかの如く実行された Groß 13 のプレッシングは絶妙でその隠密行動に疑う余地はないけれど、仕切り直してから自陣で始めた僕回しの時に要のポジションで僕を受けたにも関わらず、近づく脅威へ気を配ることを忘れ一人呑気にパスコースを探していたところを疾風の様に掠め取られ、それがそのまま失点の起点になるなんていただけないよ、 Warton 20 は。


ただでも、不測の事態による投入でまだ10分と経っていなかったんだ、彼が芝生に足を踏み入れてからさ。結果は結果で同情の余地はないのかも知れないけれど、これだから難しいとされているんだろ?途中出場でゲームに馴染むという事が。特に経験の浅い若手だとテキメンね。




[ GOAL -4- ]



前半はCrystal Palaseの良いトコを探すコトに大分苦労したけれど、ハーフタイムにドレッシングルームで行われたであろうコーチングなんかが的を射ていたのか、はたまた45分だけでセーフティリードを手にしてしまったBrightonがあからさまな態度でペースを落としたのか、そこの真偽は定かじゃないがスコアは止まり内容自体も拮抗したものになって行った。play毎に直面する迷いが直接的なダメージへ変換されることがなくなり、徐々に一過性ではないリズムを掴んでチームとして機能するかに思われたのさ、後半からは。


しかしその矢先に入ったばかりの Olise 7 が負傷してしまってピッチを後にしたのは、災難としか言いようがないよな。せっかくクオリティを担保してくれる存在を送り込んだってのに10分もしないうちに姿を消してしまうなんて、誰の方程式を使えば解を求められたって言うんだい?


彼が居れば未来は違ったとまで大それた風呂敷を広げるつもりはないけど、オフェンス面でチームに提供されるモノは多かっただろうね。それに数分しかいないにも関わらず、ディフェンスの高い意識も見せて前からプレスに行くように仲間をオーガナイズしていたもんな。

ファンが横断幕を掲げるくらいチームとして歯車が噛み合わず理想通り前へ進めていないにしても、こういうのを目の当たりにすると運もないんだよな、今シーズンのCrystal Palaseって。


それでもどうにかこうにか体裁を整え、アクシデントによって再びホームの方に向かって進路を変え、そのまま自分達の元には二度と戻って来なくなってしまいそうな流れを踏み止まらせ、辛うじてなんとか完全にレールから外れずにいた。


そうやってどちらのペースとも言えない時間が淡々と過ぎて、互いに繋ぎの場面でミスが続き、双方がスムーズさを欠いてオフェンスの形を作る事に不安を抱えた中で突然訪れたGOALシーンだった。つまり、圧倒的な構成力で攻撃を支配し創出した決定機でもなければ、致命的なミスを犯した相手からプレゼントされた決定機でもない、〝SF〟チックなGOALだったのさ、藤子・F・不二雄先生風に言わせてもらえればね。


単純にラッキーとか偶然と言い切れなくさせているのはまず、最後の決め手が抜群のクオリティで素晴らしかったから。アレをやられちゃうとどれだけ準備が整っていたとしても、用意されるシナリオに[ GOAL ]と書かれている確率は高かったのかも知れない。


そしてそれを演出したのが、いつかの Beckham を彷彿とさせる右サイドから蹴り込むピンポイントクロスさ。あのターゲットがペナルティエリアに存在して、あのkickが約束されているのなら、たとえどんな状況に置かれようともグループとしての希望は失わずに済むと思うんだけどな。それくらいのクオリティじゃなかった?Mateta 14 と Andersen 16 のplayはさ。あの魅力的なカーブを描いたクロスを思い返すと、CBとして出場しているのが全く信じられないよ。


ミスから起こった出来事がシンプルな工程を辿り、確かな技術を以て完成に至ったものだから、仕方がない失点と言うにはムズカシイけれど、両者共にゲームコントロールが上手く行かずに、僕も彼方此方と行ったり来たりを繰り返した結果、丁と半、表と裏の様な紙一重だった展開を手繰り寄せた要因は何の事はない、僕を失った時その場所がどちらのゴールに近かったかどうかって話だよ。




[ GOAL -5- ]



Brightonは手にしないまま戦っていた、後半に入ってからはずっと。

初めの45分はほとんどの間手中に収めていたと言っても過言では無い様子で的確なプランを進行させていたのに、結果と共に内容を反省した上で変化をつけ改めて挑んできた、アグレッシブな姿勢を見せ1st halfには感じることの無かったプレッシャーをぶつけて来た相手に対し、自らは成功の過程にあるやり方を変える事なく真っ直ぐに正面から受け止めるだけだった。


もちろんそれによって、スグ相手に渡してしまったとか、放棄してしまったとかじゃない。それこそ僕が、盛んに青と黒の狭間を行き交っていたのと重なるように、どっちつかずの状態が続いていたんだ、主導権もね。



そんな流れの中にあっても一瞬の内に背後で受け、一気にスピードアップして猛然とゴールへ襲い掛かり雪崩れ込むようにして一撃で決め切るんだから大したもんだよ。まるで展開だとかシチュエーションなんて関係ないと言わんばかりの辣腕を振るい、有無を言わせなかったみたいに。


本来Brightonは能動的にゲームを運んで行く事を念頭に置いているチームで、決してこの落ち着きの無い展開は好ましくなかったハズだけど、兎にも角にもスコアを動かしその差を再び「3」に広げた事により、この段階で事実上勝負を決定づけてしまった。


Crystal Palaseがプレスでハメようと、前へ出てきた事で生じたその裏のスペースをキレイに使い、手薄な敵陣を華麗なワンツーを決めてものの見事に落とした Pedro 9 と Welbeck 18 のファウルさえ許さない突き抜けるスピードには、みんな無意識で頭に手を伸ばし帽子を胸の前で持とうとしたとかしないとか。



ただその後に見せたゴールパフォーマンスはいただけなかったんじゃないか?試合前に片膝をつくジェスチャーをする様なリーグで、現代感覚においても余りに露骨な仕草だろ、首斬りなんて。あんな恐ろしい顔をワザワザ作って何度もしなきゃいけない程のパフォーマンスだったのかい、あれってサ。




[ epilogue ]



終了間際に Groß 13 にビッグチャンスがやって来たけれど、そのシュートによって僕がネットに包まれる事態にはならなかった。


それでも大勢に変化は無く、ホームチームが前節の鬱憤を晴らすようなスコアを、詰め掛けたサポーターに披露出来たゲームとなったことだろう。得意のポゼッションによって支配するシーンは少なかったものの、この日決まったそれぞれのGOALはどれもタイプが違っていて、観戦、視聴どちらをとってもみんなは大いに楽しめたハズだ。実際スタンドからはゲーム中も、最後のホイッスルが鳴った後も同じ様にピッチへ向かって拍手が送られていたもんな。



それに対してまさに対照的にピッチ上で表現されていたのが、客人側の様子だったね。

この試合は前半のさらに半分だけで3つのGOALを与えてしまう、到底受け入れられない状況になって、もうそこで堪忍袋の緒が切れちゃったんだろうな。もちろん順位表でのポジションが色濃く加味された怒りではあるけれど、スグに用意していたメッセージの書かれたバナーを掲げたからさ。


1点返しはしたものの許容範囲を優に超えた敗戦となり、サポーターはピッチサイドから盛んに声を上げ、まだ挨拶の途中だったチームの選手を身振り手振りを交えて呼んでいた。

そしたらなんと Andersen 16 と Henderson 30 がそれに応じて行っちゃったんだ、普通ありえないぜ、こんな事は。こちらにやってくるのを確認すると、すでに一番近いと思われた所からさらに客席を越えてピッチギリギリまで近づき、セキュリティを挟んで言葉を交わし始めたんだから驚くのも無理ないだろ。


それにつられたサポーターが次々に降りて来ちゃったのは集団心理としてはわかる気がしないでも無いけど、傍目には一触即発なのかと僅かばかり気を揉んだりしてみたが、案の定取り越し苦労だったみたいだ。これがPremier Leagueの為せる業かという考えが頭を擡げたのも束の間、互いにヒートアップしつつも冷静に意見を交換しただけで、何事もなく選手の方は促されながら散開して行った。当たり前だけど、何かしようにも十分過ぎるくらいにセキュリティが居た事だしね。


スペインやイタリア、フランスなんかは呼ばれたとしても近づいちゃマズイんだろうな。今回の様な単なる言葉の応酬だけでは帰してくれないからさ、きっと。たとえつい最近までのイタリアのスタジアムや、日本の野球場とかペンタゴンと呼ばれる格闘技でしか見かけない、大それた金網でアチラとコチラが遮られていたとしても。


一時の怒りは和らいだとしても、話し合いだけで解決する様な問題ではなく、その場にいなかったオーナーはじめ、チームの責任者や強化担当者がこれをどう捉えて行動を起こして行くかなんだろうな。たしかに順位を見ても、1つのゲームをとっても現状ポジティブな要素の少ないチームではあるけど、今日の後半のデキだけで考えるならば絶望するほど悪くないし、やりようによっては戦って行ける、顔を上げ前を向いて胸を張り上を目指せるチームなんじゃないかと思わせてくれたよな?

あらゆるポジションにメンバーが足りなく、改善の為に莫大なお金が必要とかってワケではないらしい、とりあえずは。


結果が出ない。内容も芳しくない。だが降格圏には含まれていない。

そして豪華ではないが、必要とする選手たちは揃っている。


さあ、どうする?




                                                                  fin.

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