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「月と蟹」;出来るだけあなたに伝わるように書く感想文㊲

「月と蟹」(小説/2013)

 道尾秀介さんが書かれた直木賞受賞作。共に同じ小学校の転校生だった慎一と春也は、自分たちで作った池に放ったやどかりを神様のように祀り、それぞれの思いを託していく。母親を事故で無くした晴海も加わり、3人はひそかな遊び場としてその池を毎日訪れる。池とやどかりは3人にとってより重たいものになっていき、それぞれの腹の中で蟹が這いずりまわるようになる。




 正直どこを切り取ってこの本の気に入った所を語るのが良いのかが分からない。それは世間的な評価はもちろん分からないとしても、自分自身がどこを気に入ったのか分からないし、あとから振り返ったときに納得できるのかどうかということもまた分からない。ただ、本当に読んでよかったし、これぞ小説ということを感じた。テーマなんかも深堀る方は多くいらっしゃるのかもしれないが、よかったという感想をくれただけでもこの本を読んで嬉しく感じている。



 僕たちは誰かの願いのために生きているのかもしれない。幸せになって欲しいという親の気持ちと、一生そばにいて欲しいと願う彼女の気持ちなどは想像しやすいと思う。
 だけど、僕は自分自身の願いのために生きたいと思う。業や期待に沿えなくても、自分自身を全うできればそれがイチバンなのではないかと思う。思い通りに人を操ること、あるいは操られることは楽に生き、満足感を得ることになるのかもしれない。
 でも違うでしょ??
 僕はそれを感じざるを得なかった。



 本筋とは全く関係ない話をひとつ。
 どうも、僕が中高生を過ごした年代の少し前に話題になった作品は、数年の時を経て国語の試験問題に抜粋され問題として提示されているらしい。記憶にあるところだと、ミッキーマウスの憂鬱という作品は印象的。実は本作もそう。
 少しずつ読み進めるにつれて得る既読感と、徐々に想像できるその先の展開。急激に焦燥感と、不安な気持ちが押し寄せてくる。そして、ふと気がつくと全く知らない場所に放置され意識は戻る。
 「あぁ一生懸命、理解しようとしたんだ」。。
 この焦燥感は、なんとも言えない幸福感を読後に感じさせてくれる。文字の山の中から探し出した砂金は、それが金だと判断できるうちになるべく多く見つけたいなと思う。 

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